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238.遊戯相手の組み合わせ

   テオドールたちの前には、遊戯で順番に付き合った魔族たちがいかにもダルそうに並んでいる。  呼び出されたことは不本意だと顔に書いてある魔族もいるようだ。 「ねえ、ホントにもう一回やるの? 僕はまた焦がされるの嫌なんだけどー」  始めに不服を訴えたのは最初に出てきたウァラクだ。  次にやってられないわと両手を挙げた魔族は見たことないが……あれがウルガーと遊んでいた女性だろう。 「そうよ。私はウルちゃんと会話できて満足だったのに……荒っぽいことをするのは趣味じゃないのよ」 「ウルちゃん……?」 「団長、そこは聞かなかったことにしてください」  妖艶なねえちゃんだなとテオドールが納得していると、テオドールの視線の先を見てレイヴンがテオドールの腕を思い切りつねってきた。 「おい、レイヴン。俺は普通に見てただけだぞ」 「いいえ。どうせ見るのはタダだとか思ってたんでしょう? これだから最低男は……」  ため息しながら頷くのは、横のウンディーネ(母ちゃん)だ。  同じくテオドールに対して思うところがあるらしい。  赤い甲冑(かっちゅう)のゼパルは、相変わらず無口だが……魔族も勢ぞろいだな。 「我はこの人間がどのように戦うのか見てみたくてな」 「貴方は紳士的に振る舞う癖に戦闘狂なところがあるわね。いいわ。私も少しだけ付き合ってあげる。さっきはウルちゃんと遊んだから……今度はそこの貴方にしようかしら?」  女が指さしたのは聖女だ。これはまた嫌な組み合わせだなとテオドールは自然と眉が寄る。  一応女同士の組み合わせになるが、テオドールは女同士が対峙するとつい嫌な予感がしてしまうのだ。 「私はこの茶番を終わらせられるなら誰でも構わないわ。さっさと始めましょう」 「私はフールフール。フルちゃんと呼んでくれて構わないわ」  投げキッス付きとは、折角なら美人な姉ちゃんとやりたいというのがテオドールの本音だが……レイヴンの視線が先ほどから刺さって痛いので辞退せざるを得ない。 「ゼパルは……レイヴンか。俺も共にやろう」 「ディートリッヒ様、ありがとうございます。師匠、こちらはお気になさらず自身の戦いに集中してください」 「おう、任せとけ。危ない時は助けてやるからよ」  テオドールたちの配置が決まってくると、ふわふわと浮いていたウァラクもゼパルの側に寄ってくる。   「ゼパルが一人じゃかわいそうだから、僕はコッチで遊ぼうかなー?」  ゼパルとレイヴン。そして、ウァラクも配置についたようだ。  テオドールだけ相手が固定というのが内心気に入らないと思っているのだが、ハーゲンティはレイヴンに触ろうとした者だ。  さっさとぶちのめした方がいいと結論付ける。   「仕方ねぇ、ディー。そっちは任せる。サラマンダー、あとどれくらいコッチにいられそうだ?」 「この戦闘が終わるまでは無理だ。あと一撃くらいは手伝えそうだが……」 「じゃあ、俺じゃなくてレイヴンに付いてくれ。一撃かますか何かしら守ってくれりゃあそれでいい」 「お前はどうする?」  サラマンダーは意外と真面目に考えてくれているようだ。  ディートリッヒなら力負けはしないだろうから、そこは安心だろうとテオドールは考えを巡らせる。  サラマンダーとウンディーネがいれば後少しは何とか助けてもらえるのも計算済だ。 「俺も仕方ねぇから、久しぶりにぶっ放すとするか」 「テオ、くれぐれも我々の戦いを邪魔してくれるなよ。お前は後先考えずに攻撃するからな」 「そっくりそのまま返すぜ、ディー。レイヴンだけは守れ。俺も勿論そのつもりだが」  テオドールたちの様子を見ていた女の子が、どうすればいいのかときょろきょろしている。  女の子自身もそれなりの戦力のようだが、どうしたものかとテオドールは思案する。 「お前もレイヴンを守れ。お兄ちゃんの側がいいだろ?」 「うん。わかった。おじちゃんは?」 「おじちゃん……間違っちゃいねぇが、俺の名前はテオドールだ。俺は一人の方が気楽なんだよ。気を遣うってのは面倒でな」 「ておど……てお? わかった。おにいちゃんのそばにいるよ!」 「ああ、テオでいい。頼んだぞ」  テオドールは女の子の頭もポンと撫でてから、正面を向いてハーゲンティと対峙する。  軽く肩を回しながら真正面の顔を眺めてみるが、テオドールにとってはうすら笑いも腹が立つ。  絶対的余裕がある者はテオドールも今までに何度も見てきたが、今回はそれが嘘でもないのだろう。  テオドールとレイヴンで全員に強化(ブースト)防御(プロテクション)をかけて、テオドールは身体保護(ボディーコーティング)をついでに被せる。  ここからは魔族たちも本気を出すかもしれないし、できることはやっておかなければとテオドールも普段以上に慎重だ。

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