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240.デカいのを一発お見舞い

   デカイの一発食らわせるか? と、テオドールは口元を緩ませる。  暇そうに放ってくる黒い塊は、ウルガーが文句を言いながらスパスパ切り落としている。  辺りで同時に繰り広げられている戦いをじっくりと見る余裕もないが、レイヴンとディートリッヒは仲良く戦えているようだ。  テオドールとウルガーと一緒で、ディートリッヒが攻めに徹してレイヴンが後方から魔法を放っていく形だ。  聖女は攻撃型ではないが、フールフールは戦いではなくどちらかと言えばやり取りを愉しむのがお好きなようだ。  女神と対極の王のいいところを言い合いながら、数発打ち合っているようだ。 「さて、そろそろぶち込んでいくかァ」 「なんでここで出し惜しみをっ……俺の体力が持つうちに、頼みますよ!」  ウルガーが訴えてくるので、ド派手なのをかましてみるかとテオドールも詠唱準備に入る。    この玉座の間は天井も高いし、これだけの人数が暴れまわっても何とかなる広さだ。  テオドールは軽く息を吸い込んで、言葉を紡いでいく。 「……っ! ディートリッヒ様、聖女様もテオの前にはいかないようにしてください!」 「心得た!」 「ついにやる気ね? 分かったわ」  テオドールの詠唱で魔法の威力に気づいたレイヴンが、自分も手を止めずに的確に指示を出す。  女の子も邪魔にならないようにちゃんとレイヴンの側で頑張っているようで問題なさそうだ。  テオドールの前にいるのはウルガーだけだが、ウルガーも後ろを見ながらハーゲンティの注意を引こうと頑張っているらしい。  ハーゲンティは気にも留めずに、座ったまま片手でほいほい黒い塊を投げてくるだけだ。  テオドールは詠唱しながら軽く手のひらをかざし、手のひらの上に結晶をいくつも生み出していく。  外の世界から飛来すると言われる大小様々な隕石(いんせき)を模した粒をたっぷりと具現化させ、ある程度数が集まったところでハーゲンティと同じようにクイと手のひらを起こして全てを投げつける。 「――隕石雨(メテオライトシャワー)」 「うわっ!」  ウルガーはテオドールの声にすぐさま反応し、パッと横っ飛びに避ける。  テオドールもウルガーには当たらないように投げつけたのだが、信用されていないようだ。  速さと威力に関しては申し分なさそうだがどうだろうかと、テオドールが様子を(うかが)う。 「うわぁ、えげつない量……身体を覆ってもまだ余るほどの隕石の粒が雨のようってね」  ウルガーが適当な例えを言っている間に、無数の隕石の波は一直線にハーゲンティへ襲い掛かる。  が、魔族も座ったまま手で払うような仕草をしようとする。これもテオドールは計算済だ。 「突風よ!(ブラスト)」  テオドールは着弾するのを見計らい、右手で指を弾いて魔法を重ね掛けする。  合図に合わせて突風が隕石を巻き込み、一直線に到達する予定の隕石雨が進路をバラバラに変化させる。  ギリギリの進路変更は防御予測をしづらいはずだ。  しかも隕石の大きさはまちまちで、大きいものは勢いよく飛ぶが小さいものはグルリと回転しながら素早く目標に到達する。 「姑息(こそく)な真似を」 「それはそっくりそのままお返ししてやる。隕石の雨でもくらっとけ!」  魔力(マナ)をまとわせておけば、集中力である程度粒を動かすこともできる。  しつこく追い回して当たるまで投げつけてやればいいと、テオドールは考えたのだ。 「――」  ハーゲンティはテオドールたちでは聞き取れない言語を呟きながら、スッと席から立ちあがる。  隕石を断ち切るように腕を一振りすると、手に弾かれた隕石が床へボロボロ落ちていく。  弾かれなかった隕石もハーゲンティの身体へ撃ち込まれていくが、見えない盾があるのか効果はあまり高くないみたいだ。 「多少でも食らってくれると楽なんだがなァ? まあ、もいっちょ追加(アディション)!」 「チィッ」  隕石雨はもう終わりだと思わせて、更に左の手のひらから放出していく。  テオドールにとってもまずは小手調べ。一粒の威力よりも、物量勝負のつもりだ。  とはいっても、隕石は当たればかなり危険な代物であることに代わりはない。

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