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242.一旦様子見

   テオドールが立て続けに小細工はしてみたが、効き目はまあまあというところだろう。  多少傷を食らわせてるならいいが、ハーゲンティは普通に立っているのが遠めでも分かる。 「ハーゲンティ!」  フールフールも聖女の雷を何発か食らってよろよろはしているが、自分よりハーゲンティのことが気になっているみたいだ。  もしかして、好きなのか? とテオドールが(いぶかし)しむ。 「攻撃が当たっていない訳じゃないけれど、決定打に欠けるかしら」 「いや、聖女サマは属性がいいからな。ダメージは蓄積されてるはずだ。俺の方はまあ、ディーと変わらねぇゴリ押しだからなァ」  テオドールは次の一手を考えながら、注意深く様子を(うかが)う。  焦げた臭いが辺りに充満しているが、焦がしたのはおそらくハーゲンティの皮膚くらいだろう。 「う……人間の、くせにぃ……」 「……」  ディートリッヒとレイヴンの方は魔族二人をだいぶ消耗させたようで、しばらくは大丈夫そうだ。  しかし、動き出すと厄介だし閉じ込めといた方がいいかもしれないとテオドールは聖女の方へ顔を向ける。 「クロード、お前の魔法でコイツらを閉じ込めておけるか?」 「今、その名で呼ばないでくれるかしら? ――聖なる牢獄(ホーリープリズン)」  聖女は文句を言いながら杖に魔力(マナ)を溜めると、転がっている魔族二名に対して光を放つ。  光は何本もの棒となって、二人を囲んで閉じ込めていく。 「……はぁ。だから、真面目な戦いなんて嫌いなんだよ。僕が弱いみたいじゃないか」 「……アイノチカラニヤブレタカ」  二人はそんなに強くないのか弱く見せてるのかは分からないが、大人しくしてもらう方がよさそうだと結論付ける。 「ちまいの、そこの檻の中の奴らが騒いだら魔法を撃ちこんでおけ」 「まほう? おしおきするの?」 「ああ。おしおきだ」 「わかった!」  女の子の無詠唱魔法ならいざという時も反応が早そうだし、自由に動けるのは女の子のくらいだろうと予想しての判断だ。  まだ精霊王も使えるし、突発的な何かが起こったとしても対処は可能だなとテオドールも戦力を計算していく。  肝心のハーゲンティとフールフールはと改めて確認すると、何かしゃべっている様子が見えた。 「テオ、追撃は?」 「したいところだが、俺の勘が今は待てって言うんでな。フル姉がべったり……っておいおい」  テオドールがやる気満々のディートリッヒを抑えて様子見を続けていたというのに、フールフールがハーゲンティに口づけると焦げていた皮膚がみるみるうちに白い肌へと戻っていく。  慎重になりすぎたか? とテオドールは忌々(いまいま)しげに舌打ちする。 「あの姉ちゃん、回復が使えるのか。やっちまえばよかったな」 「だが、女性の方は姿が崩れていったぞ」  ディートリッヒの言う通り、フールフールの身体はサラサラと崩れていく。  テオドールもさすがに魔族の構造は知らないが、どうやら肉体を保てなくなったみたいだなと予想する。 「先に帰ってしまったか。しばらくはこちらへは来られそうにないな。しかし、もっと攻め込んでくるかと思ったが大人しく待っていてくれるとは」 「もう一発かましたら、お前に生命力をもっていかれるところだっただろ。その玉座の下に魔法陣があるはずだ」  テオドールは嫌な予感がして攻撃を一旦控えたのだが、フールフールはあえて力を捧げたようだ。  魂自体は元の場所へ還ったというだけで、完全に滅びた訳ではないのだろう。  ディートリッヒが考えなしに突っ込んだら、ディートリッヒがサラサラになってしまう可能性があったので、やむなしの判断だったのだ。 「え? 俺、さっき近づいてたじゃないですか! あっぶな!」 「ギリギリ踏んでなかったのは分かってたからな。ウルガーは運がいいじゃねぇか。それにある程度傷を負わせると発動するだろうと思ってな」 「師匠……ウルガーで推測を試さないでくださいよ。でも、これで振り出しです」  ほかの魔族たちは大人しくなったが、ハーゲンティはまたやり直さなければならない事態だ。  テオドールはまだ魔力(マナ)に余裕もあるし問題ないが、さっさと終わらせようと前を見()える。 「魔法使いは随分と戦い慣れているようだな。ゼパルとウァラクも大人しくさせるとは……なかなか愉しませてくれる」 「十分愉しんだってなら、遊戯は終わりでいいだろうが。コッチはさっさと帰りたいんだがな」 「そうはいかない。魔法使い、お前との遊戯はこれからだ」  優雅に微笑むハーゲンティを見ていると、テオドールもおぞましさと寒気がしてくる。  すぐ近くでは聖女が腹が立つと本気の声で呟いたせいで、ディートリッヒが何故かすみませんと謝り始めた。 「申し訳ございません。すぐに終わらせますゆえ、もう少しの我慢を」 「別にディーちゃんに言った訳じゃないのに、本当に真面目ね」  人数ではこちらが有利とはいえ、もう一度攻め方を考えた方がよさそうだとテオドールも考えを巡らせる。

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