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243.仕切り直し
これからどう攻めてやるかとテオドールは素早く戦略を練り、まずは小賢しい魔法陣系を排除してしまおうと結論を出す。
先ほどールフールが力を捧げたところを見ると、ハーゲンティ自体に回復能力はなさそうだという判断だ。
「聖女サマ、この辺りを全て浄化してやれ。あんたの力ならやれるだろ」
「分かったわ。少し時間をちょうだい」
テオドールの小声に答えてすぐに、聖女は杖を握りしめて集中し始めた。
暴れたりなさそうなディートリッヒをぶつけるのは、浄化が終わってからだとディートリッヒを温存する。
「レイヴン、行くぞ」
「はい、師匠」
ハーゲンティが何かを仕掛けてくる前に、遠くから魔法を撃ちこんでいく作戦だ。
テオドールたちが詠唱に入ると、ウルガーとディートリッヒがテオドールたちの前に立って警戒態勢に入る。
「何を企んでいるか知らないが、更なる遊戯を愉しもうではないか」
ハーゲンティは優雅な動作で両手を広げると、隣にもう一人にハーゲンティが現れる。
魔族は分身したようだ。
一人はふわりと飛んでディートリッヒのいる方向に向かってくる。
「ほう、俺とやりあうか魔族」
ディートリッヒは大剣を構えて、魔族が振りかざしたサーベルを受け止める。
辺りにキィンという高い音が響き、ディートリッヒが真っ向から受け止めたことが分かる。
だが、細い癖になかなか力があるらしくディートリッヒでもやや押され気味だ。
「団長、大好きな気合で撃ち返さないと……って、コッチもか!」
ウルガーの方にも、もう一人のハーゲンティが笑みを浮かべて飛び掛かってくる。
ウルガーの頭上から覆い被ろうとした瞬間を狙い、テオドールから魔法を発動させる。
「――炎の牙 」
指先から飛び出た炎が、ウルガーに飛び掛かってきたハーゲンティを食い止めるように牙の形を作って噛みつく。
ウルガーは器用に身体を屈めると、剣に剣気を込めて上へ突き出す。
「その程度か?」
ニヤリと笑うハーゲンティは、片手で軽々と剣の切っ先を掴む。
ウルガーは体勢を整えることができず、剣を動かすこともできなくなってしまった。
テオドールは視線でウンディーネに補助を求めると、ウンディーネに心が通じたのかウルガーを水のヴェールで包み込む。
「――爆ぜろ 」
テオドールは食い込ませておいた牙の片側だけ爆発させ、無理やり距離を取らせる。
ウルガーは尻もちをつく程度で、怪我はしてなさそうだ。
「テオドール様! 助けてくれるならもうちょっと考えてくださいよ! ウンディーネ様が助けてくれなかったら危なかったじゃないですか」
「炎と言えば水だからな。俺の意図を汲んでくれたじゃねぇか」
ハーゲンティの結界は食い破れたようだが、そもそもどちらが本物なのかもまだ分からない。
ウンディーネは水のヴェールを解除して、軽く息を吐く。
「貴方は無茶をしそうですからね。戦い方は何となく理解しました。この程度なら助けられますが……大きな力を行使するとすぐに召喚は解除されます」
「了解。あんたたちの力は温存しねぇとな。ディーには……レイヴンが補助に入ったはずだ」
テオドールが唱えたのと同時に、レイヴンは風撃 でハーゲンティの身体を押し返していた。
「我も行くぞ」
二人のハーゲンティが両手を広げると、黒い炎の塊がいくつも空中に浮かび始める。
その炎は玉座の間を埋めつくすくらいの量だ。
ハーゲンティが手を振るのと同時に、雨のようにテオドールたちの頭上に降り注ぐ。
「……っと! ディー!」
「旋風 !」
炎を避けながらディートリッヒに指示を飛ばすと、言われる前から野生の勘で使うべき剣技を選んでいた。
先ほどの戦いで使った技で大剣からつむじ風を巻き起こし、轟音とともに炎を巻き上げていく。
「聖女様!」
レイヴンは詠唱で動けない聖女の側に駆け寄り、水の盾 を生み出し炎を打ち消していく。
大人しくしていた女の子も同じように盾を出し、精霊王たちもうまいこと炎を避けていく。
「何発あるんだよ、ったく。――爆発 」
ハーゲンティにだけ攻撃をさせておくわけにはいかないと、テオドールも攻撃に転じる。
余裕の顔をめがけて炎には炎をぶつけ、指を弾いて着弾と同時に爆発させる。
「お前は本当に美しくない。また焦げてしまった」
「戦いに美しいも美しくないもねぇんだよ。やるかやられるかだ」
追撃の突風 で炎を更に巻き上げると、ハーゲンティからチッという舌打ちが聞こえ少し後退する。
しばらくは降り注ぐ炎を避けながら反撃していたが、聖女が動く気配がしたところでテオドールももう一発魔法を撃ちこんで少し下がる。
「――聖なる救済を !」
聖女の魔法が発動し、杖から光が溢れ出す。
テオドールとレイヴンは一度見たことはあるが、吸血鬼 を消し去るくらいの力はあったのを思い出す。
魔族への効果は未知数だが、悪しき者や悪しき力には効果は抜群なはずだ。
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