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244.反撃の一手は?

   辺りが光に包まれ、テオドールの身体に暖かな力が流れ込んでくる。  優しい光は女神ミネルファリアの力の根源なのだろう。  テオドールは女の子に影響はどうかと思い振り返るが、どうやら合成獣(キメラ)は大丈夫だったようだ。 「すごい! ピカピカ!」 「……ふう。油断はできないけれど、辺りの浄化はできたはずよ」 「みたいだな。さて、ヤツは……」  徐々に光が引いてくると、ハーゲンティの姿が見えてくる。  分身体は消え去って、一人に戻っていた。  しかも何やら胸の辺りを押さえている。聖女の魔法でダメージを受けたのだろうか? 「グッ……」  俯いていた顔がフッと上がった瞬間、ハーゲンティの瞳が紅く輝く。  そして身体が一瞬にしてかき消えた。 「え、一体どこへ……」  テオドールは勘だけで身体を動かし、聖女を突き飛ばす。  瞬間、姿を現したハーゲンティが思い切りサーベルを突き出してくるのが見えた。 「チッ」 「師匠っ!」  レイヴンの焦った声を聞き、側にいた女の子が無詠唱で反応したらしい。  テオドールの近くに(シールド)を出してくれたおかげで、テオドールはサーベルの餌食にならずに済んだ。 「っぶね。やるな、ちまいの」 「ん。テオ。やったよ」  しかし、ハーゲンティはまたフッと姿を消す。  急に攻撃方法を変えてきたということは、こちらにとって効果的な何かが起こったと考えられる。  遊戯と言っていた時の余裕がなくなっているように見えているからだ。 「テオドール、ありがとう」 「ただの勘だ。次は……野生の勘が働くヤツの方だ!」  敵がどこから現れるのかを予測するには、今までどれだけ戦ってきたかの差が出てしまう。  その点、テオドールとディートリッヒ様々な者たちとやりあってきた経験から殺気や気配には他の面々より敏感だ。  ディートリッヒは慌てることなく大剣を構えて、空間を切り裂くように剣を横なぎに払う。  剣からは剣気も一緒に刃のような形でビュッと飛んでいく。 「一度(かわ)したところで、我の攻撃は止まらぬ」  ハーゲンティは消えたり現れたりを繰り返し、その度に攻撃を仕掛けてくる。  テオドールとディートリッヒでハーゲンティの現れる場所を即時判断してその都度防いではいるが、このままだと(らち)が明かない。   「聖女サマ、辺りは浄化できたって言ってたよな? じゃあ、この辺りはうろついても大丈夫だな」 「ええ。嫌な感じは消えたわ。テオドール、どうするつもり?」 「ヤツはあんたの攻撃で何か焦った感じがした。俺の攻撃もダメージは与えたが、あんたの広範囲魔法がより効き目がありそうだった。魔法陣もあったし実は玉座の付近に何か隠されてるんじゃねぇかと思ってよ」 「何よ、その雑な推測は。でも……浄化してから急に美学を捨ててる感じはするわね」  テオドールらが話している間にも、避けたり防いだりしている一方的なやり取りが繰り広げられている。  辺りの散策を誰に任せようかと辺りを素早く見回す。 『ウルガー、俺の声が聞こえたら攻撃を避けながら玉座の付近を探ってこい』 「え……?」  テオドールが伝音魔法でなるべく小さめに声を飛ばすと、ウルガーは嫌そうな顔をしながらそっと玉座の方へ向かい始める。  それを見たディートリッヒも何かを感じたのか、ウルガーへ降りかかりそうになる攻撃を防ぎながらうまいこと玉座へ近づいていく。 「あークソ! やってられっか!」  テオドールは口で文句を言いながら、レイヴンに目配せする。  そして手の動きで共に唱える呪文を伝えていく。  レイヴンには以前戯れているときにテオドールが動きで魔法の種類を伝えていたこともあり、大体属性が伝わればテオドールに合わせられるはずだ。 「師匠が頼りなんですから! 文句言ってないで攻撃が飛んでくる場所を教えてください!」 「んなこと言っても、防戦一方ってのは好きじゃねぇんだよ」    言いながら、テオドールは呪文を唱え始める。  ハーゲンティは全員のところへ出没しては攻撃を仕掛けているが、テオドールたちもうまく動き回ってかき乱しているせいか狙いを定めきれないらしい。  おかげで玉座狙いはまだバレていない。 「雷の鎖(サンダーチェイン)」  テオドールは手のひらから無数の雷の鎖を生み出して、姿を現した瞬間のハーゲンティを絡めとる。  その鎖はすぐに引きちぎられていくが、分割(ディバイド)を重ね掛けして嫌がらせのように鎖を生み出し続けていく。 「この鎖に何の意味が……」 「――重力縛り(グラビティホールド)!」  レイヴンが更なる足止めのために、重力魔法で相手を押しつぶす。  レイヴンはかなりの魔力を込めて押さえつけているが、まだ足りないのだろうか? 「ちまいの!」 「んー……いわっ!」  追撃で大きい岩を生み出し、女の子が重力の塊の上から岩で押しつぶす。  さすがのハーゲンティも少し動きが止まる。 「グッ……この程度で……」  テオドールは動こうとするたびに鎖で絡めとってやり、その隙にディートリッヒとウルガーに玉座の付近を捜索させる。  ついでに聖女にも目線で合図すると、同じく輝く網を重ね掛けして更にハーゲンティの手足を絡めとっていく。

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