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245.闇の中の奇襲
テオドールたちが押さえつけてる間に、ディートリッヒとウルガーが何かを発見したらしい。
ウルガーがテオドールに何か伝えようとしているので、すぐに集音魔法を使って聞き取る。
『テオドール様、玉座の近くに黒い宝石が隠してありました』
『よし、ディーと一緒に壊せ。ヤバそうならディーを盾にしろ』
テオドールの声も聞こえたらしく、ウルガーは了承の意を身体で伝えてきた。
ハーゲンティはテオドールたちの力で押さえつけているが、これだけ魔法を重ね掛けしても抜け出そうとしている。
「くだらないことを……っ、まさか」
ハーゲンティが玉座の方を振り向いたが、もう遅い。
ディートリッヒは剣気を込めた大剣を思い切り宝石へ突き立てた。
すると、パキッという音が聞こえる。
「グァ、アァァァ……よくも、人間ごときが我を……」
ハーゲンティが一気に力を膨らませたせいで、テオドールたちの拘束が全てはじけ飛ぶ。
だが、ハーゲンティご自慢の顔を押さえているし、かなり効いてるようだ。
「そのままぶち壊しちまえ!」
「戯言 を! オォォォォ……」
ハーゲンティの身体から黒い霧が噴き出し、あっという間に視界が奪われる。
野郎、目隠しとは姑息な真似をしやがるなと、テオドールは舌打ちして身構える。
すぐに探知 でハーゲンティの動きを探るが、なかなか引っかからない。
「きゃあっ!」
「ちまいの!」
「視界を奪われただけだ」
「この子は私たちに任せてください」
この高い声は、女の子がやられたのだろうか? これだけ霧が濃いと視界では何も捉えられない。
精霊王二人の声がすぐに聞こえたことから、女の子の側には二人がいることが分かる。
まだあまり使いたくはないが、いざとなったら精霊王の力も借りた方がいいかもしれないとテオドールは力を借りる場面を思案し頭の片隅に置いておく。
「ぐっ!」
「団長……っぶな! っくぅ!」
騎士たちはハーゲンティの奇襲を野生の勘だけで防いでいるようだが、いつやられてしまうか分からない。
霧を晴らすには聖女の魔法が一番だが……まだ魔力 残量が余ってるかどうかも分からない。
テオドールはもどかしい気持ちを必死に抑え込む。
「クロード! まだ魔法は使えるか?」
「ええ、この闇を払うくらいなら……くうっ!」
「聖女様っ!」
レイヴンとクロードの声がした瞬間、テオドールの身体がフッと引っ張られる。
この感覚は強制移動 だろうか?
テオドールは勘を総動員して、盾 を唱えて構える。
「……っ、チッ」
ハーゲンティはレイヴンを狙い攻撃を仕掛けてきたようだ。
レイヴンに仕込んでおいたテオドールを召喚する魔法が発動したらしい。
レイヴンと揃いで付けているブレスレットにはテオドールを呼び出す魔法が込められた魔石を密かに選んでおいたため、レイヴンに危険が迫ると魔法が発動する。
ハーゲンティはレイヴンに鋭いものを投げつけて串刺しにでもしようとしたようだが、そうはいかない。
いくつかは防御魔法を貫通してテオドールに刺さってしまったがどうとでもなると多少の負傷は受け入れる。
「その声は……師匠? 大丈夫ですか?」
「ああ、大したことはねぇ。が、こうも視界が悪いと不利だな……ったくよ!」
ハーゲンティからの追撃の一撃を紙一重で何とか避けるが、また聖女の魔法頼みになりそうだ。
近くで攻撃を仕掛けてくればテオドールでも分かるが、離れた位置から来るのは勘が冴えていても反応がギリギリになってしまう。
テオドールは聖女とレイヴンの近くにいることが分かったので、辺りに防御結界を張り直す。
見えなくても三人の周囲は大丈夫なくらいにはしたが、ガンガンと何かが当たる音が響いている辺り、結界はあまり持たなそうだ。
「強化 !」
レイヴンはテオドールの結界に強化をかけて少し持ちを良くしてくれる。
これで聖女の魔法発動を待つしかなさそうだ。
テオドールが時間を稼いでやると、近くから澄んだ声が聞こえてくる。
「――聖なる光よ 」
聖女の生み出した光が溢れ、辺りの霧がさあっと晴れていく。
どうやらうまく詠唱できたらしい。
「師匠、血が……」
「これくらいはどうってことねぇよ」
強化系の魔法と新調した装備もあっさりぶち破られるほどにハーゲンティが逆上したようだ。
レイヴンが少し取り乱しているのが分かり、テオドールは右手で頭をポンと撫でて安心させる。
撫でながら左手でベルトにぶら下げてた回復薬の入った瓶 を取り出し、先のコルクを軽くかんで引き抜き一気飲みする。
すると傷が塞がり、刺さっていたものもぽろぽろと抜け落ちる。
辺りを見回して軽く状況を確認してみるが、多少の傷を負った者もいるものの全員無事なことが分かった。
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