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247.更なる助力
ウルガーの側には、浅緑色の髪をした美しい少年が悪戯っぽく笑いながらふわりと空中に浮かんでいた。
肩口で揃えられた髪が輝きながら風もない室内だというのになびいている。
ふわりとした絹のような白のローブをまとっているが、膝丈のパンツを履いているせいか幼い感じだ。
「っと……。大丈夫? 騎士君」
「い……たくない? ありがとうございます?」
「シルフィード様、ありがとうございます。間に合って良かった」
レイヴンも安堵したように微笑む。
レイヴンの見た目も髪は美しいブロンドへと変化し、左目がセルリアンブルーの瞳になっている。
精霊魔法を使って、シルフィードは正式に召喚したのだろう。
ハーゲンティは風の精霊王を召喚されてあからさまに気に食わなそうだ。
テオドールは詠唱を終えて拳を突き出し、手を広げた瞬間に魔法を発動させる。
「――業火 」
手のひらから炎が吹き出し、勢いを増して床を舐めるように燃え広がる。
広範囲の炎から避けるように、ハーゲンティの側にいた騎士たちとシルフィードが飛びのく。
ハーゲンティが炎を打ち消そうとしたときに、右手も突き出して魔法を重ねる。
「爆発 」
炎がぶわりと舞い上がり、ハーゲンティを中心として爆発を巻き起こす。
その火柱は雷の槍と同じくらいだろうか? 天井を突き抜ける勢いで燃え盛る。
シルフィードは苦笑しながら、軽く手を揺らして追撃の風を巻き起こした。
「風の精霊王か。思ってたのとは違うが、やるじゃねぇか」
「聞こえてるよ。君の魔法の効果を高めてあげたんだから、ありがたく思ってほしいな」
ハーゲンティに魔法はあたっているはずだが……。
炎が引くころには、中心に立っている焦げた牛の丸焼きが見えてきた。
皮膚の色が変化しているところが見受けられるということは、傷を与えられたようだ。
「……またも美しくないことを……」
「まあまあ火力はあるはずなんだが、やっぱ焦げたくらいか」
低くうなるような声をあげて、ハーゲンティが俺の方に同じく黒い炎を放ってくる。
人気者は辛いなと、テオドールは冗談めかした余裕を見せる。
炎を紙一重で何とか躱 したが、今度は本人が炎を吐き出しながら勢いよく突進してきた。
「ディー! 時間稼げ!」
「お前、人のことを盾代わりに……」
「人使い荒いね。でもレイヴンの助けにもなるなら」
シルフィードは風でディートリッヒとウルガーの身体も包み込み、テオドールの目の前へ届けてくれる。
レイヴンはシルフィードと呼応して、更に力を高めてるみたいだ。
「木偶 が」
「魔族は口だけは一人前だな」
ディートリッヒは大剣を握りしめて、ウルガーも剣をしっかりと両手で握りテオドールの目の前でハーゲンティの突進を受け止める。
「……っくぅ! しびれる! そう長くは、持たないかも……っ」
「耐えろ! おぉぉぉっ!」
いつもなら突っ込んでやりたいほどの暑苦しさだが、今はディートリッヒに構っている余裕もない。
聖女も攻撃の隙を伺ってるのが分かるし、とっておきの準備ができてるんだろう。
テオドールも足止めに参加しないとな。すぐさま詠唱に移り、呪文を放つ。
「絶対的な氷結 」
手のひらを床に当て、ハーゲンティを捕らえるように氷を床へ這わせる。
範囲を凝縮した代わりに、狙いの獲物を凍らせるまで追尾できる魔法だ。
うまいこと味方だけを避けて、ハーゲンティの足元へ氷を向かわせる。
「また、余計な小細工を」
「その小細工に捕らわれるのは貴様だ」
ディートリッヒは力任せに大剣を押し込んでワザと弾かれ、一瞬の隙を作る。
ウルガーは逆に力を抜いて、ハーゲンティの攻撃の空振りを誘い込む。
「小賢 しい……ッ」
その隙を狙い、ヤツの足を捕らえて氷で固めていく。
魔力を込めた氷は、いくら魔族と言えどすぐに解くことはできない。
「――聖なる鉄槌 !」
テオドールたちでハーゲンティの動きを止めてやると、聖女はハーゲンティの胸にある宝石を狙って魔法で生み出した輝くハンマーのようなものを思い切り宝石に叩きつけた。
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