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253.魔塔主の一手

  テオドールはおそらく、レイヴンが急に魔塔主代理になることを良く思わない人たちがいると分かっていたから先手を打っておいたのだろう。  陛下の命であれば、誰も表立って逆らうことはできないからだ。  陛下の命に背くことは、国への反逆行為とみなされる。それくらいは頭のお堅い皆様でも理解できるだろう。   「では、これは正式な……」  一人の文官が呟くと、陛下が頷く。  陛下に逆らうことができるのは、あえて言うならばテオドールくらいだろう。  あの人は陛下であろうと関係なく、自我を通す無茶苦茶な人だからだ。 「(かしこ)まりました。王国の太陽エルミュートス三世陛下の命を受け、私レイヴン・アトランテは魔塔主代理を拝命します」  レイヴンは陛下の元で(ひざまず)く。皆を見回した陛下が頷いてから、ゆっくりと立ち上がり姿勢を正す。 「これでレイヴンは正式に魔塔主代理となった。今後も我が国の為に尽くしてほしい」 「はい。精一杯尽力いたします」  最敬礼で忠誠を示すと、陛下が目配せをして文官たちを下がらせる。  この場に残ったのは、アスシオと魔族の元へ向かった皆だけだ。 「して、レイヴン。そなたには別に個人的な頼みがある。が、まずは留守にしていた分の魔塔の仕事に従事してもらう。落ち着いたころ、また召喚するとしよう」 「(かしこ)まりました」  レイヴンが命を受けると同時に、ディートリッヒが一歩踏み出した。 「どうした? ディートリッヒ」 「陛下、その際はウルガーも共にでもよろしいでしょうか?」  ウルガーは初耳だったらしく、驚いた顔でディートリッヒに視線を向けた。  ディートリッヒはウルガーの視線に臆することなく言葉を続ける。 「私も陛下の話を拝聴し、考えた結論です。私ごときが口を挟むことではありませんが、陛下の命をお聞きしてからウルガーが適任だと勝手ながら思っておりました」 「ふむ……確かに。そなたの意見も取り入れよう。詳しくはまたその時に」 「はっ!」  ディートリッヒは深々と最敬礼の姿勢をとる。レイヴンは勿論分からないが、ウルガーも分からない表情を浮かべたままこの場を後にすることになった。  +++ 「ちょっと団長! レイヴンのことでもすでに驚いてるってのに、更に俺にも何か驚くことを仕掛けてます?」 「勝手を言ってすまないが、あの場で言う必要があると判断した」 「団長が陛下と何か話されていたことは俺も知ってますけど……それと関係が?」 「ああ。なので、レイヴンも悪いが俺の勝手だと思ってその時まで待っていて欲しい。レイヴン、今は大変だろうが魔塔のことを頼む」 「はい、もちろんです。では、俺はこれで失礼します」  ディートリッヒに頭を下げて、未だ混乱状態のウルガーに軽く目配せしてから改めて魔塔へと向かう。  通知はすでに魔塔にも届いているらしく、レイヴンが着いた頃には魔法使いたちが皆一階に集まっていた。 「レイヴン様……体調はいかがですか?」 「心配をかけてしまってすまない。大丈夫だ。皆ももう聞いているようだが、もう一度改めて私から伝える。陛下からの命により、魔塔主補佐官だった私が魔塔主様不在の間、魔塔主代理を拝命することになった」  テオドールがあの戦いから戻らなかったことも、魔塔の皆は動揺していたらしい。  だが、ディートリッヒを始め聖女やウルガーも倒れていたレイヴンに代わって丁寧に説明してくれたこともあり、大きな混乱もなく通常通りやってこれたらしい。  魔塔は主が不在がちなせいか、レイヴンがいなくてもやるべきことをこなせるようになっているのかもしれない。   「同時に補佐官代理を私から指名したいと思う。補佐官は魔塔主権限で任命できる職であるため、私の一存で決めさせてもらう」  前にテオドールがレイヴンのことをゴリ押しで補佐官に任命したため魔塔はざわついた。  だがヨウアルがいなくなってからは魔塔には比較的若い魔法使いしかいなくなったこともあり、レイヴンに対しての反発もなくなった。  なので、レイヴンが誰を指名しても大丈夫だろう。

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