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254.次世代の魔法使い

   レイヴンは集まっている魔法使いを一通り見渡してから、ある一人で視線を止めて高らかに宣言する。   「補佐官代理は、パフィト・シュビンを任命する。パフィト、こちらへ」 「は、はいっ!」  パフィトは入ってまだ間もないのにも関わらず、自分の努力のみで才能を開花させた。  その能力は決して派手じゃないが、魔力(マナ)制御や補助魔法の優先順位など細やかな気遣いができる汎用性の高い魔法使いだ。  年齢は十六でレイヴンよりも若い。見た目は(こだわ)らないらしく、灰色のもさもさとした柔らかそうな髪で大き目の黒縁の丸眼鏡をかけている。  よく、ボサボサとか爆発頭と揶揄されているけれどとても勤勉で真面目な男の子だ。    パフィトには補佐官の仕事の手伝いもしてもらっていて、その都度テオドールにも報告していた。  なので、魔塔の魔法使いたちからも文句の声があがることはないだろう。   「パフィト、足と手が同時に出てるぞ」  先輩の魔法使いが笑いながらツッコミを入れると、パフィトはあわあわとしながらレイヴンのところまでやってくる。   「すす、すみませんっ! レイヴン様、本当に僕でよろしいのでしょうか?」 「勿論だ。パフィトの細やかな気配りは、魔法を使うときにも大事な素質だ。人を良く見ているから、戦闘においても立派な補助ができるだろう」 「こ、光栄です。パフィト・シュビン、(つつし)んでお受けいたします」  周りから拍手が巻き起こり、パフィトはぺこぺこと頭を下げている。  生真面目で努力家なところはとても共感できるし、パフィトなら補佐官の仕事もしっかりとまわしてくれるだろう。  こうしてレイヴンがテオドールの地位と仕事を引き継ぎ、パフィトには補佐をしてもらうことになった。  仕事に関してはレイヴンがほぼ魔塔主の仕事もしていたので問題はないのだが……それがこんな形で役に立ってしまうなんて、皮肉なものだとレイヴンは内心思っていた。  +++  レイヴンは魔塔でやるべきことを済ませてから、テオドールの部屋へ向かって階段を上る。  相変わらず段数が多いが、テオドールと違いレイヴンは移動(テレポート)が使えない。  もう慣れてしまったが、テオドールの部屋まで行くのにはかなりの段数を上らなくてはならない。 「テオの部屋か……」    テオドールがいなくなってから初めて行くテオドールの部屋だ。  主のいない部屋も埃がたまらないように掃除しなくてはいけないのだが、体調を崩していたせいでレイヴンも来ることができなかった。 「それに……」  テオドールがいないという事実が受け止められるまで、レイヴンは部屋へ入ることを禁じられていた。  レイヴンはそこまで弱っていたと思われていたことを思い、本当に情けないと自分へ対しため息を吐く。  レイヴンが気づかないうちに、テオドールの存在はどんどん膨らんで大きくなっていたという証拠でもある。 「まあ……存在感だけはある人だから……」  レイヴンはテオドールのいつもの腹立つ顔を思い出し、ふうとため息を吐いたところで漸くテオドールの部屋の前へ来ることができた。  テオドールは外出時、侵入者が来ないように結界を貼っていたのだが……扉は開くのだろうか?  やや緊張しながら扉に触れると、あっさりと扉は開いてレイヴンを向かい入れてくれた。 「……もしかして、俺だから?」  テオのことだから、俺ならいいだろうと思っていてくれたのだろうか? と、レイヴンは思案する。  だとすればレイヴンにとっては嬉しいことなのだが……今はそれすらむなしく感じてしまった。  本当は他の用事で来たけれど、レイヴンはそのままベッドへ一直線に進んで飛び込んだ。  テオドールがいないと、ベッドもとても広く感じる。 「……っ」  レイヴンはどうしても、心の穴を埋められなかった。  もうだいぶ立ち直ったと思っていたのに。  少しでもテオドールを感じたくて、縋りつくように毛布を手繰り寄せる。  心を安心させる香りは、まだ濃く残っていた。 「テオ……」  レイヴンがぎゅうっと毛布を握りしめていると、心と身体がざわついて妙な感情に押しつぶされていく。  我慢していた感情がまた溢れ出し、レイヴンの頭の奥をしびれさせていく。 「ぁ……」  寂しさに耐えられず、レイヴンの手は自然と下腹部へ伸びていた。  理性ではこんなことしたくないと思っているのに、香りを嗅いでいるだけで次第に体温があがり理性の糸がプツンと切れる音がした。

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