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256.なんでもお見通しな師匠と腹立たしく思う弟子
手紙は二枚綴りで、面倒くさがりなテオドールにしては珍しく長い文章を書いているなとレイヴンは素直に関心した。
これも全て予測していたからこそなのだろうか?
レイヴンは恐る恐る手紙へ視線を落とした。
『レイヴンへ
お前がこの手紙を読む時、もしかしたら俺は側にいないかもしれねぇ。レイちゃんは、俺の枕をぶんなげたってことだもんな。俺がいたら止めるに決まってる。
万が一の時のために一応書き残しておくが、まあそんなことねぇからこれはあくまで念のためってやつだ。
まず、レイヴン。俺のいない間、お前は魔塔主代理だ。陛下にも話は通してあるから問題ねぇだろ。
補佐官はお前が適当に決めろ。お前に対して文句を言うヤツはいねぇだろうからな』
テオドールはレイヴンが今日してきたそのままの行動を全て予想していたらしい。
まさかレイヴンが枕を投げることを予想して枕の下に手紙を隠しておくなんて、意味が分からない。
もっと分かりやすいところに隠しておいてほしいのに……こんな妙なことまで計算ずくなのも腹が立つ。
手紙はまだ続きがあるようだ。
レイヴンも色々思うところはあるのだが、更にじっくりと読み進めていく。
『それと、前に見せた本は俺の研究部屋に置いてあるから遠慮なくもってけ。持ってかねぇと後でどうなるか分かってんだろうな? 魔塔主様が心を砕いて書いた本なんだからちゃんと読めよ。師匠の魔法は弟子に引き継がねぇとな。
最後に。今は側にいなかったとしても、俺は絶対にお前の元へ戻る。レイちゃんはイイコだから待ってられるよな?
待ちきれなかったら、俺の部屋でシてもらっても構わねぇ。物足りなかったら、ベッドの下にちょっとしたもんが隠してあ……』
最後の方は読む気がしなくて、レイヴンは手紙も床へ投げ捨てる。
真面目なんだかふざけてるんだか、どっちかにしてほしい。
レイヴンのごちゃまぜな気分を全てぶち壊していくなんて、一体何を考えてるんだか。
「はあ……でも、やっぱりテオはテオか。振り回されるのには慣れてるし構わないけど……待たせすぎたら怒りますからね」
レイヴンは腹立たしい思いと安堵感に包まれながら、テオドールの毛布にくるまって今日は眠ってしまうことにした。
+++
時は現在へ戻り――
レイヴンはテオドールの残り香の残るソファに寝転んだまま、今までのことを思い出していた。
魔塔主代理になってからは、書面の仕事も多くあったせいか日々机に向かって作業していることが多かった。
時々ウルガーやディートリッヒが様子を見に来てくれることもあったが、あの二人も前に言っていた王命の件で準備があるらしく最近は会っていない。
聖女は主にレイヴンの体調を心配してくれていて、ひと月に一度身体の状態を見てもらっていた。
身体は特に問題なく、レイヴンは魔塔主の書類仕事をしていないときは精霊魔法とテオドールの残してくれた本を解読していた。
テオドールは自身の魔法研究を書き残してくれていたのだが、あの人の性格とは真逆でとても詳細で分かりやすく書かれていた。
字が読みづらいこと以外は、魔法使いが書き記した書として完璧に近いものだった。
特に目を引いたのは、移動 の魔法だ。
この魔法を使えるのはテオドールだけで、理論を理解しているからこそ使える魔法だった。
だが、レイヴンにも分かるようにと記してくれたおかげで何度か試してみたところ、レイヴンが行ったことのある場所限定でレイヴン自身のみという縛りが発生するがレイヴンも移動 が使えるようになった。
「さすがに距離も短いところしか飛べないんだよな。魔塔主の部屋のテラスから俺の部屋のテラスは行けるけど……行ける範囲はギリギリ城下町の一定の場所のみだ」
テオドールの理論は頭では理解しているつもりだが、実際に魔法として行使するのは難しい。
座標の設定がどうしてもうまくできなくて、魔塔から城下町までだと到達地点のズレが発生するからだ。
「テオはエルフの里まで迎えに来てくれてたよな。あの場所までは距離があるはずなのに……」
改めて師匠の偉大さを思い知った気はするが、落ち込んでばかりもいられない。
気を取り直して、頭で座標地点を思い浮かべる。
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