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280.初めての船へ

   レイヴンはウルガーと共に船へ乗る準備を整える。  ウルガーには重い荷物を持たせっぱなしだが、また更に買い込んだもので重くなりそうだ。 「本当は鎧がなければもうちょい軽いはずなんだけどな。一応持っておかないとって説得されたからなぁー。ここで騎士の鎧を売ったら絶対怒られるだろうし」 「冗談でも言わないでって。しないのは知ってるけどさ」 「軽装に慣れると、鎧は重いんだよなぁ。そりゃ防御力は高いけどさ。レイヴンが羨ましいよ」 「でも、(シールド)がなければ、直接攻撃をこの身で受けちゃう訳だし……軽装がいいとも限らないと思うけどな」  二人で色々話しながら、食料と装備の見直しもしていく。  野営の道具はここまで来たらいらないかもしれないが、旅をするならば最低限は必要になってくるから難しい。  ナクティサからギルディアへは行けるらしいのだが、本当にギルディアにテオドールがいるのかも確定ではない。  そこから別のところへ探しに行くことも考えられる。 「よし、こんなもんでいいか。装備はまだ変更しなくてもいいよな」 「寒冷地仕様や暑いところの場合のまであるみたいだし、もっとボロボロになったりしたら変えるのもアリだけどね」 「じゃあ、今日はもう宿へ行くか。ここは港町だからどこも空いてそうだしな」 「そうだね。今回は特に気になる宿もないし、港に近い宿に泊まろう」  レイヴンたちは早めに買い物を切り上げて、早速宿を探すことにした。  +++  ――翌日。  宿で歩いてきた疲労を回復させてから、早朝乗る予定の船が停泊している船着き場へ急ぐ。  船へ乗ろうとする人たちは、娯楽を求めて従者と共に船へ乗り込む貴族や同じく旅をしているらしい屈強な戦士もいた。  レイヴンは貴族と相性も悪いし、髪色も目立つのでフードを被ってウルガーに全て手続きを任せることにしていた。  ウルガーは人に溶け込むのもうまいし、交渉事にも長けているから本当に助かるとレイヴンは安心して任せることができた。 「旅人の兄ちゃんたちだな。二等船室だ。この階段を下りていきな」 「ありがとうございます」  正直、一等船室に泊まれるお金も持っているが、身分を表に出さない方がいいだろうという判断だ。  二等でもベッドはあるし、こっそり魔法を使えば色々と対処もできるだろう。 「ウルガーありがとう。やっぱり貴族は特等?」 「みたいだな。一等もそれなりの身分の人が多いから、旅人なら二等が多いって感じだな」 「俺は絶対に目立たない方がいいだろうから……ごめんな。染料で染めてもいいんだけどどうせとれちゃうだろうし……師匠みたいに髪色を変化させる魔法は使えなくて」 「気にするなって。俺なんて寝ることすら許されないこともあったくらいだ。ベッドがあるだけいいって」  ウルガーの言葉にホッとしながら、レイヴンたちは船内へ乗り込んだ。  ウルガーも船に乗るのは初めてだと言っていたが、レイヴンも初めてで少し緊張していた。  この船は新しいというほどでもないが、帆はしっかりと張られているし船の木もそこまで古くない感じがする。  痛みも少ないし、安心して乗っていられそうだ。 「やっぱり足場が揺れる感じがして不安定だよな。海の上ってこんな感じなんだな」 「だね。俺は船酔いしないかが心配だ。移動(テレポート)でも酔うくらいだし……」 「まあな。その時はその時だ。酔う人だって大勢いるだろ」 「暫く乗らなくちゃいけないから、少しでも慣れておかないとな」  ナクティサまでは、リオスカールから一週間と数日程度で到着するらしい。  そこで、ギルディアまで行く船へ乗り換えることになる。 「そういや、海に魔物っているのか?」 「書物にはいるって書いてあったけど、この海にも出るかまでは分からないな。出たとしても旅人も多く乗っているし船乗りだって経験してるだろうしな」 「そうだな。俺らが出張ることもないよな。なるべく静かに過ごしたいもんだ」  ウルガーの言葉に、そうだねと苦笑しながら答える。  なるべくなら、魔法を使うような事態にならずにナクティサへ着いてもらえたら助かるんだけどなとレイヴンは独り言のように呟いた。

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