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第4話
放課後部活を終えて、寝るまでの時間。
のぞは俺の家で過ごすことが多い。
のぞの家に足が遠のくのは、この燻った感情のせい。
託されている身でありながら、その対象にクソでかい気持ちを抱いている。
その申し訳なさから、のぞの両親と対面することをなるべく避けてきた。
理解力の低い俺の内申が平均より高い水準を保てているのは、間違いなくのぞが匙を投げずに丁寧に教えてくれるから。
それをありがたいと思う反面、自分のちっぽけな理性とズボンの中に巣食う魔物と激闘する日々を繰りかえしている。
視線が下がると、睫毛の長さが際立つ。
至近距離でこの顔を独り占めできる喜びと、この距離でも欠点が見つからない顔面の強さに震える。
―――かわいい。
「あのさ、ここの……。」
そう言いながら身を寄せてきて、こつんと肩がぶつかった。
その瞬間跳ねたのは心臓だけではなく、俺自身。
「いや、なんで避けんの?」
「いや、別にこの距離が妥当じゃね?」
「俺に触られると蕁麻疹でも出んの?」
「んなことないし。」
「マジで何?」
「何が?」
「俺なんかした?」
「なんもしてない。」
「だろ?で、この感じ傷つくんすけど?」
「傷つく?」
「すぐ避けるじゃん?」
いや、勃つから。
「前は普通に抱きついたりしてたのに、おこなの?」
いや、勃つからだって!
「本当になんも言わないのな。」
―――理由を説明できないからな……。
「ごめん。」
「謝って欲しいわけじゃなくて、ただ寂しい気持ちなんすけど。」
「寂しいの?」
「咲って安心するから。」
「安心すんの?」
「くっついていい?」
「いや、それは無理。」
「なんで?」
「ごめん。」
そう言って謝ると、のぞは丸い瞳と完璧なアーチを描いた眉をつりあげた。
眉間に深い皺をつくると、思い切り息を吸い込んだ。
「いや、マジでお前いい加減にしろよ?キモいならキモいって言えし!嫌いなら嫌いって言えし!なんなの?周りくどくて腹立つんだよ!!!」
「なんでいきなりキレてんの?キモくないって。」
―――キモいのは俺だから。
「え?な……なんで、泣くの?」
「泣いてねぇよ!!!」
「いや、ガン泣きじゃん。情緒どした?」
泣き方はガキの頃のまま。
歯を食いしばりながら涙を零す様に、思わず頭に手を伸ばす。
ポンポンと乱雑に髪をまぜると、睫毛に涙を浮かべたのぞと視線が絡む。
――-無理!無理!!
慌てて手を引っ込めると、ため息まじりののぞが視線を逸らした。
「ごめん。触られるの嫌じゃないよ?でも反応に困るし、たまに女子に見えるし。」
「いや、普通についてるよ?」
馬鹿にしたように笑うと、俺の手首を掴んで自分の股間に持っていく。
ふにゃんとした独特な感触。
布越しとはいえ、皮膚とは違う剥き出しの内臓のようなその生々しさに、思わず手を引っ込めた。
―――いやいやいやいや、マジ無理なんすけど?
「いっ!?」
「君の幼馴染は残念ながら男でしたー!ばーか!!ばーか!!ターコ!!ハーゲ!!」
「小学生みたいなキレ方すんな。」
「帰る!」
ズボン越しに触れた膨らみは、よく触り慣れた俺のモノと同じだった。
なのに、なのに……
なんでこんな興奮してんだ?
頭を膝にくっつけながら、震える右手を凝視する。
のぞのことを追いかけることは、今は出来ない。
―――マジ無理だって。夢にでてくるやつじゃん。
正直者なソコに呆れながら、ファスナーを下ろす。
生々しい右手の感触のまま、下着の中に手を滑らせた。
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