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第5話

望海 女に見えるって何? 俺ってそんなにナヨナヨしてる? いや、咲に比べたらしてるけれども!! からとて、女子には見えなくね? どちかといえば筋肉質よ?体脂肪率低めの陸部よ?? いや、目を細めれば見えるのか……? つまり、女子に見える男だからキモいのか? 普通にしてるつもりだけど、もしやゲイっぽさ溢れてる? まさかゲイバレしてる??? ―――顔も身体もすぐに変えられないしな……。 鏡にうつる自分を睨みながら、鬱陶しい髪が目にパサリとかかる。 伸びてきたとは思っても、美容院にはなかなか足が向かない。 あの独特な匂いと、馴れ馴れしい店員に辟易するから。 ―――髪型の装備、変えるか? 髪が伸びてもバレにくいという理由で、基本はセンター分け。 前髪をかきあげると、母親譲りの曲線を帯びた額が顔を出す。 「女顔、うっざ。」 鏡に向かって文句を言うと、ちょうど帰宅した父親と視線が合う。 俺と鏡越しにがっちり目が合うと、いつもは上がり気味の目尻が少し下がり、口元が上がる。 ―――絶対聞かれた。恥っず! 兄弟の中で年が離れた末っ子だからか、自他ともに認めるくらいに溺愛されている。 欲しいものはなんでも買ってくれるし、頭ごなしに怒られたことも手を出された記憶もない。 俺の髪を指で梳きながら、愛おしそうに見つめてくる。 「本当に、恵さんに似てきたな。」 「嬉しくない。」 「この前の試験も主席だったんだろ?恵さんが自慢してきた。」 「なんで母さんが?」 「かわいいよなー。」 「きっしょ。あんたらいくつよ?」 「学校はどう?」 「普通。」 「なにかあったら、必ずすぐに言いなさい。」 「何もない。」 「はいはい。のぞは反抗期だもんな。」 「反抗期じゃない。」 「咲くんは元気?」 「知らん。」 「喧嘩したの?」 「知らん。」 「あー、怖い怖い。父さん逃げるわ。」 馬鹿にしたように肩を揺すりながら、ついでとばかりにくしゃりと髪をまぜてくる。 この両親の元にいたら、俺の反抗期はグズグズに甘く溶かされて空前のともしび。 父親の髪型を真似てオールバックにしても、やはりしっくりこない。 ぐちゃぐちゃと鏡の前で弄っていると、ようやくコレならましというスタイルに落ち着いた。 「のぞ、髪の毛どうしたの?」 「イメチェン。どう?イケてる?」 次の日の朝も、咲はいつも通り同じ時間に俺の家の前に立っていた。 昨夜のことなどおくびにも出さない爽やかさと無表情さに、憎らしくなる。 「いや、普通に前の方がよくない?」 「なんで?変?」 「のぞっぽくない。」 「センター分け、ちょっと女子っぽいかなって。」 「なんで?かわいいのに。」 「かわいいの変くね?」 「だって、のぞはかわいいじゃん。」 「なーに、言ってんの……。」 「まだ自分がかわいいの気がついてないの?」 「いや、DCにかわいいはそろそろキツいて。」 「そう?」 いつも避ける癖に、じっくりと顔を覗きこまれて、思わず息を吸い込んだ。 すっきりと綺麗な輪郭に、寸分も狂うことなく置かれたパーツ。 少し冷たすぎる薄い唇が、ふんわりとあがる。 「でも、やっぱり……のぞはかわいいじゃん。」 なにその笑顔。 惚れるんですけど〜〜〜!いや、とっくに惚れてた!! かわいい言われて喜んでる俺、キッショ!! 俺のこと無理なの、めっちゃわかる!!! こんなだから、咲に避けられるんだよ。 落ち着け!!マジで調子乗んな、俺。 咲のかわいいに、俺が望む特別な意味なんてないから。 「うん。うん。うん。」 「いやいや、髪の毛ぼさぼじゃん。何してんの?」 「戻す。」 「すき。」 「え?」 「センター分け。」 「おー。」 ―――び、びっくりした。 すきってもっと言って欲しいな。 大事とか大切とかの言葉はくれても、全然好きって表現をしてくれない。 そう思いながら、道端で寒そうに丸まってるネコに目を向けた。 「咲、ネコすき?」 「うん。」 「うんじゃなくて。」 「ん?なに?」 「甘い系よりしょっぱい系すき?」 「うん。」 「いや、だからうんじゃなくて……。」 「どした?体調でも悪い?」 全然、引っかからない。 小学生並の思考回路の自分に、さすがに萎えた。 「いや、ダルいだけ。」 「熱ある?」 そう言いながら、骨ばった手のひらが額にピタリとくっついた。 俺の手よりも一回り大きく、額を覆われると瞼まで隠れる。 視界が封じられたせいで、指先の触感がより鮮明になった。 触られたところから、足の指先まで甘く痺れる。 「熱は……ないか。具合悪いなら帰る?送るよ。」 「だ、大丈夫です。」 「なんで敬語?」 「マジで元気なんで。」 「無理すんなよ?」 「はいはい。」 咲にでこ触られちった。 咲にでこ触られちった。 咲にでこ触られちった。 やべ、嬉しすぎてスキップできるわ。 ちょろい。俺、ちょろすぎる!!

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