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第10話
咲と別れて教室に戻ると、なぜか楽しそうな田中と目が合う。
腹立つ。
他人事だと思って、完全に面白がってやがる。
「今野にお仕置きされた?」
「親父かよ。あいつ怒ると怖いんよ。目がこんなんになる。こーんなん。」
「今野なんて、怒らなくても怖えじゃん。あいつにダル絡み出来んの、のぞみんくらいよ?てか今野とはどうなの?」
「何が?」
「彼氏?好きぴ?」
「普通に友達。」
「毎日学校一緒に来て、クラスも部活も違うのに仲良く一緒に帰って、短い休み時間もふらふら互いの教室顔出すのに、普通に友達?」
「田中くん、チクチク言葉はよくないよ。先生に言うからね?」
「てか、今野と付き合ってることにしたら?」
「いや、さすがに無理があるっしょ。」
「みんなすんなり諦めるし、納得すんじゃね?」
「なぜ?てか咲が嫌がるし。」
「のぞみんは嫌がらないんだ?」
―――そりゃあもう、校内をスキップで移動できるくらいにはご機嫌になれる。
「ほんとお前嫌いだわ。別れよ。」
「お前の貞操と今野の人気を天秤かけたら、普通にいいよって言いそうじゃん。今野人気なんてほぼ0だし、もう下がりようもなくね?試しに提案してみたら?」
「悪口ひどいな。」
「誰かのもんになっといたほうが、お前はきっと安全よ?ふらふらしてるから、みんなにちょっかいだされんじゃん。」
「田中くん忘れてるかもしれんけど、実は男の子なんすよね。」
「えぇ!!!マジで?忘れてた!痛恨のミス!女子かと思ってた!!」
「マジな話、あいつ推薦狙ってるから、変な噂で内申下げたくないし。」
「お、珍しく健気。」
「俺は一般入試で余裕で受かるけど、あいつアホだから行けるとこないんよ。かわいそくね?」
「陰で悪口言われんの、普通にかわいそうだわ。」
***
あの濃すぎる1日から1週間もすると、学校は日常に戻っていた。
体育館ではしつこいくらいに卒業式のリハが行われ、在校生の俺たちも虚無顔で参列している。
先輩には部活で怒鳴られたり、空き教室に連れ込まれたりで、名残惜しくなるようないい思い出は一切ない。
だけどそんな過去はまるでなかったかのように、潔く前を向ける精神だけは尊敬している。
「なんか最近落ち着いてきた?先輩誰も来ないじゃん。」
「あーね。みんな飽きたんじゃね?どうせネタ告だし。」
「モテ期終わったね。ドンマイ!」
「いや、これからにしといて?」
「D組の女子とカラオケ行くんだけど、胡蝶もこない?」
「音痴だからパス。」
「それはパチ。音楽発表会でソロってたじゃん。」
「また今度な?あ、イケメン。」
咲に会うためにA組で何度か顔を合わせても、挨拶すらしなかった。
普段は女子としか話さないくせに、最近やたらと絡んでくる。
イケメンだから何をしても許されるだろうという精神が見え透いて、とても腹立たしい。
進藤に抱く感情で1番近いものは、嫉妬だった。
「だから進藤な?いい加減覚えてけろ。」
「ネタ告来たの?」
「いや、普通に遊ばね?」
「なんで?」
「構って欲しいなって。」
「2年も終わるのに、まだぼっちなん?かわいそ。川島がD女とカラオケ行くらしいから、混ざったら?」
「顔かわいいのに、辛辣だよな。」
「性格形成に顔関係なくね?」
「今野の前ではかわいいのにな。」
「あー、やっぱ喧嘩売りにきた?」
「買うの?」
「いや、見た目通り非力な社会的弱者なんで、討論でお願いしゃす。」
「今日カラオケとか行かね?」
「確かバスケ部あんじゃね?」
「あー、今日はサボろうかなって。」
「今日もだろ?咲の練習見に行くからパス。」
「だめか。」
「残念ながら。」
「土日とかは?」
「ゲームしてるか寝てる。」
「なんのゲーム?」
「エロゲーかシュミレーション恋愛ゲーム。」
「きしょ。他に趣味とかないの?」
「女装を嗜む程度に。」
「それは似合いそうでやべえな。」
「変態ですか?」
「好きな子の前では。」
「きっしょ。好きな子の前でこそイケメンでいろよ。少ない長所殺してんな。」
「あのさ、普通に喋れない?」
「これが通常モードなんすけど。」
「自覚ない?今野の前、めちゃくちゃかわいい顔してるよ。」
―――え?え?ええぇぇえええ~~~~~~?
待って。俺って咲の前だとそんなに態度違う?
ほぼ接点のないこいつの目から見てもってことは、相当だよな?
まずった?普通に喋ってるつもりだったけど、好き溢れてる???
「マジできしょいな。キモい目で見んなし。」
「あれ、猫かぶってただけ?」
「かぶってないし、いつだって素直に生きてる。B型の誇りを捨ててない。」
「どっちが素?あー、逆にどっちも素なのか。なるほどね。」
「あんた、怒らせたいのか好かれたいのか謎。」
「出来れば後者で。」
「じゃあ無駄な時間ということで、お開きにしよ?」
「また後で来るわ。」
「B組出禁でーす。」
俺の言葉に返事はなく、無駄に上手すぎる鼻歌を口ずさむ。
咲にバレてる?
いや、そこまでではないのか???
今までと変わらず肩を並べていることを考えれば……
咲はまだ気がついてないってことか、知っていても俺のことなどどうでもいいということか。
何かあれば真っ先に聞いてくる性格だから、バレてないというほうが確率は高いよな?
進藤と咲はバスケ部と同クラ以外に接点はないはずで、2人で話しているところなんて見たことはない。
頭の中でモヤモヤとたられば会議をしていると、咲からダル絡みスタンプがとんできた。
―――構ってちゃん、かわいい。
机に頬をくっつけながらスタンプを送ると、秒で喜びのスタンプが返ってきた。
あの不愛想な咲のスタンプチョイスがかわいすぎて、頬が弛む。
無意味な会話がこんなに楽しくて、こんなに癒される。
―――咲、だーいすき。
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