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第11話

「胡蝶、メシ食お?」 「進藤くんはB組出禁です。とっとと帰んな?」 性懲りもなく、進藤が昼休みにも顔を出した。 今までそんなことなかったのに、最近やたらと絡んでくる進藤に胸やけを覚える。 ―――マジで、こいつと関わりたくないんだけど……。 「メシ一緒にと思って。」 「いつも咲と食べてる。」 「俺も一緒でいい?」 「やだ。ついてくんな。」 「2人でいつもナニしてんの?」 「しょうもない冗談やめろ。」 「今野ってエッチうまい?」 嫌味な笑顔を浮かべた、揶揄う気満々の顔。 マジで腹立つ。 「なんで俺に聞く?」 「だって、女役は胡蝶だろ?え、まさかの今野なん?」 「いや、だからないって。」 「え、マジで付き合ってない?」 「ない。」 「へえ、そういう感じ?もうとっくに済んでると思ってた。」 「BL好きだったの?彼女の影響?」 「いのちだいじにだったけど、ガンガンいこうぜにコマンド変えるわ。」 「意味分からん。」 弁当を持って咲のいる教室を覗くと、進藤が俺の背中に圧し掛かってきた。 「重いって。」 「このくらい支えろよ。外見も中身も女子やん。もはや女子。さっさと戸籍変えな?」 「箸より重い物は持つ必要ないって、英才教育受けてる。」 「親御さんまでも胡蝶の性別間違えてない?」 「何してんの?」 咲が呆れた様子で進藤の膝を蹴ると、進藤が楽しそうに微笑む。 「俺も一緒にメシ食おうかなって。」 「え、やだけど。女と食えよ。」 「なんで?」 「のぞと2人で食べたいから。」 「え?」 「はははっはっはー!咲にもフラれてやんの。クソだせぇ!!」 「あ、のぞは食べたかった?」 「いや、全然。こいつの顔見ながら食べると、まずくなりそうだし。」 「それな。」 いつもは咲と並んで歩くが、進藤に邪魔をされながら中庭に向かう。 寒い季節にわざわざ外でっていう猛者はいないから、この時期はいつもは貸し切り状態。 どんなに寒かろうが暑かろうが、好きな人が隣にいたらそこは楽園。 ―――咲と2人きりになれる僅かな時間なのに……。 「やっぱ今野といる時の胡蝶は、めちゃくちゃかわいいわ。」 「お前マジ黙れ?」 進藤に散々弄られて、苛立ちだけが募っていく。 2人でコレと言って甘い会話をするわけでも、進藤の言うナニなんてもちろんない。 ―――ただ、好きな顔を眺めながら食う飯は、すげえ美味い。 綺麗な所作で静かに弁当を食べる横顔を見つめていると、咲がおかしそうに微笑む。 「何言ってんの。のぞはいつだってかわいいじゃん。」 「ぶっ!?」 「きたね!ティッシュある?」 呆れた咲に顔を拭かれながらも、顔に全身の血液が集まるのが分かる。 ―――落ち着け!落ち着け!落ち着け!俺の心臓!!早まるな!!!誤解だ!!! 髪を耳に掛けながら、両手で頬を包む。 顔、あっつい。 咲の言う可愛いなんて、イヌネコやゆるキャラと同じ。 でも、俺のこといつだってかわいいと思ってくれてんの? ―――マジで?すげえにやけるんですけど~~~!! 「胡蝶はいつだってかわいいよ。」 「は?きっしょ。お前はA組に帰れ!」 「のぞ、卵焼き落ちる。」 「てかお弁当箱ちっさ。ダイエット中の女子やん。入ってるのほぼ草やん。モデルでも目指してんの?」 「お前が食い過ぎなだけ。引くわ。」 「だって運動部だし。」 「俺だって運動部だわ。しかもお前先輩いなくなってから、サボってんじゃん。」 「部活違うのに、俺がいないの気がついてくれて嬉しい。」 「笑顔キモい。」 「女子にはウケるんだけどな?」 「だから、女じゃない。」 「兄弟いるんだっけ?」 「兄と姉。」 「あー、めっちゃ末っ子って感じ。すげぇわかる。」 「俺もお前にディスられたのは、すげぇわかった。」 「てか太陽の光入ると目の色が違うんだな?薄い緑色めっちゃ綺麗じゃん。宝石みたい。カラコンじゃないんしょ?」 「あー、母さんの父親がイギリス人だから。」 「へぇ。てことは英語喋れたり?」 「日常会話程度だけど。」 「勉強できて、スポーツできて、顔かわいいとかチートじゃん。そりゃ性格くらい悪くてトントンだな?神様は平等だわ。リスペクトに値する。」 「神に依怙贔屓しかされてねえよ。てか男に可愛いはいらなくね?」 「まだガキだからじゃね?心配しなくても、数年経てば美人に化けるよ。」 「お前もクソガキじゃん。数年経ってデブって禿げてろ。」 「胡蝶に顔は合格って言ってもらったしな。」 「女にモテそう。で、男にガチで嫌われそう。ぼっちウケる。」 「てか進藤とのぞ、そんなに仲良かった?」 2人でクソつまんない会話を繰り広げていると、咲が不思議そうに突っ込む。 ―――いやいやいや、今の会話のどこが仲良し?むしろ不仲っしょ?こいつ喧嘩売ってたっしょ? 間の抜けた質問に、進藤が俺をじっと見つめる。 女子受け抜群の笑みを浮かべると、アイドルさながらの綺麗なウインクを飛ばしてきた。 ―――キッショ!!!鳥肌たった!!! 「これから彼氏に昇格する予定なんでよろしく!」 「そんな予定は未来永劫一切ありません。」

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