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第16話
望海
昨日は本当に散々な一日だった。
今朝も咲と一緒に登校したけれど、いつものような会話はない。
咲は機嫌も体調もすこぶる悪いようで、俺の質問にイエスかノーで答えることしかしない。
気分が浮上しないまま下駄箱に向かうと、待ち構えたかのようにあやちゃんが立っていた。
咲が大好きなおっぱいは小ぶりそうだけれど、華奢で可愛くて、初めての彼女にぴったりの清純さも持ち合わせている。
―――これ、絶対男すきなタイプだわ。
「あやちゃん、おはよ。」
「胡蝶くん、昨日は突撃ごめんね!頭バグってた!マジ忘れて!!」
「全然大丈夫。」
「朝からパヤパヤでかわいいね?寝癖ついてる。鏡見た?」
「あやちゃん、女バスのアイドルなんでしょ?河合から聞いた。」
「え?ないない!めっちゃいじられてるだけだし!アイドルは胡蝶くんしかいないって!私も推してる。」
「咲推しのくせに?」
「やだ。もう!!」
「照れてんのかわいい。」
「恥ずかしいから!!そんなキャラじゃないの!!」
いいな、女子って。
俺も普通に女子がよかった。
―――すきって気持ち隠さなくていいの、いいな……。
「あ!今野くん、おはよ。」
俺の隣にいる小さな可愛い女子を、咲は不審そうに半目で見つめている。
そこに何か感情はないか注意深く見つめても、咲は眠そうに欠伸をしながら挨拶を返しただけ。
「はよ。」
―――こいつ、マジか?
バスケにしか興味がないのは知っていたけれど、自分を好きでいてくれる可愛い女子の前でこれだけ素なの、ヤバない?
表情筋だけじゃなく、性欲も枯れてんのか?
「今野くん、今日部活終わってから時間ある?」
「自主練するから。」
「あー、そうだよね。ごめん。待ってるの迷惑?」
「なんで?帰っていいよ。」
「あの、ええと……。」
―――いや、この空気地獄か?
咲もなんか機嫌悪いし、会話下手すぎるだろ!
相手の意思を少しは汲み取れよ。
あやちゃんもどこから攻めたらいいのか分からず、助けを求めて俺を見つめてくる。
「だから、あやちゃんは咲と帰りたいんだって。」
「なんで?」
いや、昨日あやちゃんがお前を気になってるって、ちゃんと話したろうが!!!
―――頭悪いんか?記憶力ないんか??
このままじゃ埒があかない。
絶対俺に不利になることは重々承知で、出したくもない助け舟をだした。
「俺、今日先帰るわ。」
「だめ。」
「いや、だからあやちゃんが咲と……。」
「夕方暗いから危ない。不審者が近所の公園で出たって。」
「いや、俺いくつよ?」
「ふふふっ。ごめん!大丈夫だよ。また今度ね?」
楽しそうに品よく微笑むと、俺に向かって小さくありがとうと口パクしてきた。
めっちゃいい子じゃん。
超当たりじゃん。
絶対にこの子にしといた方がいいじゃん。
雑誌にいたおっぱいだけが取り柄の下品な女よりも、品行方正で快活な女子が咲には似合う。
変な女に引っかかる前に軌道修正しとかないと、マジで後悔する。
「ずっと隣にいてくれ」なんてわがままは言わないから、せめて幸せな横顔を見つめていたい。
「あの、あやちゃん?」
咲が積極的に女子に話しかけているのを、人生で初めて見た。
名前呼びでしかもちゃん付けしてるあたりで、全く気がないわけではなさそう。
いろんなドキドキが重なって、気持ちも頭も弾けそうだ。
「は、はいっ!?」
「のぞ狙い?」
「え?違うけど……。」
「じゃあ、いいや。」
いや、だからお前狙いだって!こいつマジで人の話聞かないのな!?
ただの友達なら、思いっきり殴ってる。
でも、そうじゃないから……
こんなに安心してしまう、嬉しいと思ってしまう、醜い自分が嫌いだ。
「てか、なんでちゃん呼び?」
「だって苗字知らない。」
「あっそ。」
なんかやっぱり、咲は咲のままなのか?
てか、女子に興味なさすぎじゃね?マジで性欲ないのか?
いや、おっぱい最重視の可能性もある??
考え過ぎてこんなに病んでいるのに、咲の様子を見て拍子抜けしてしまった。
あっさりなんてものではない。
もやは記憶からも完全に消されていた。
「先に帰る?」
「いや、待ってる。」
「うん。」
俺の返事に満足そうに微笑むと、跳ねた髪の毛をさらっと撫でられる。
―――いや、マジで何なの?
近くにいるはずの咲の気持ちが、本当に全く分からなくなった。
おっぱいしか見てないの??
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