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第17話

「咲、これちょうだい。」 「え?」 「一口だけだから。」 「ちょ……!!」 「あま。いちごミルク久しぶりに飲んだわ。咲が甘いの選ぶの珍しいね?」 俺の制止も聞かず、のぞがパックのストローを口に含んだ。 唇についた液を小さな舌で絡めとる姿も、童貞を卒業したせいか、艶かしさが増している。 ―――なんか、エロくなってない? 朝の硬い表情が大分緩み、少し瞼が重そうではあるが頬にも赤みを取り戻していた。 顔色よくなってきて、本当によかった。 「ボタン間違えた。」 「眠いの?」 「昨日考えてたら、寝れなくなって。」 「そかそか。あやちゃんかわいいもんね。」 「あやちゃん?誰?」 「いや、だから朝の。」 「いや、あの子関係ない。のぞ狙いじゃなかったじゃん。」 「は?」 のぞは「意味がわかんない」と口の中で呟きながら、不思議そうに顔を覗き込んでくる。 ―――俺、なんか変なこと言ってる? 考えすぎの寝不足と普段仕事をしない脳を珍しく酷使していたせいで、頭が回らない。 迂闊に変なことを口走りそうで、朝からのぞとまともな会話ができていない。 「胡蝶おはよ。ついでに今野も。」 「もうすぐ昼だし。遅刻ってゆーかメシ食いに来たの?」 「あ、いちごミルク!なついな?俺にもちょうだい。」 「絶対やだ。」 「なんで?胡蝶にあげてたじゃん。」 「のぞは勝手に飲んだだけ。」 「じゃあ俺も勝手に飲も。」 「自販行けって。」 「けち。」 進藤から無事にいちごみるくを取り上げると、のぞは予鈴に合わせて駆け出していく。 小さな背中を見つめながら、うつらうつらと船を漕いでいると、進藤に肩を組まれて囁かれた。 「胡蝶と間接キス。ストローだと舌あたってるんじゃね?」 「お前。」 「今野ってむっつりだよな?」 「は?」 馬鹿にしたように笑うと、俺に何か言われる前に女子の輪に肩を並べた。 ―――あいつ、いつにも増してうぜえな……? てかエッチしたってことは、キスもしてんだよなあ……。 マジであのツヤツヤぷっくりの唇に?無理、マジ無理!! 俺もしてぇし!!! 舌入れてぇし!!! ―――俺なんてストローの間接キスだけで、こんなに大興奮してんのに??? あー、無理だわ。 座ってるだけでキレそう。 告白も秒で断るから彼女とか面倒なんだと思ってたけれど、普通に性欲はあるんだな……。 いや、あるのが普通なんだけど、のぞって女子の前でめっちゃ爽やかじゃね? かっこつけているとかではなく、もはや同性みたいなもんじゃね?? ヤりたいだけで、彼女はいらない感じなのか? でも、すきな子はまた別でいるんだよな?? のぞがフラれるところなんて想像できないし、普通にすきな子とすればいいのに…… 意味が分からない。 油断した。 てか、マジで相手誰? のぞよりかわいい子なんて、リアルに存在する? いないじゃん。のぞがダントツに単独トップで優勝だろ?? のぞが女子を振る時の決まり文句が、俺より可愛いがマストという言葉。 それを言って嫌味じゃないレベルにのぞは桁違いにかわいいし、自分の容姿を鏡で見れば誰もが納得できる。 「ねー、聞いた?マジ泣くんですけどー。」 「胡蝶くん、彼女いるんでしょ?」 「他校って言ってたけど、中学生かな?」 「キスマあったらしいから、年上かも?独占欲強そう。」 「泣く~~~!」 「胡蝶くんがOKだしたってことは、絶対爆美女だよね?」 「てか後ろにあったの怪しくない?」 「それな。」 「男かな?」 「胡蝶くんかわいもんね。十分ありでしょ。」 「は?」 2人の会話が耳に入って、考えるより先に口から漏れていた。 「あ、うるさくてごめん!今野くん相手知ってる?」 「いや、付き合ってないってだけ。」 「そなの?遊びかな。ヤリモク?」 「遊びならまだ希望あるかな?」 「待って。なんで男?」 「いや、だって女子がつけるとしたら、前にあるじゃん?」 「っ!?」 マジで?マジか??? それ考えてなかった!!!! ぼんやり歩いている時に、背中から思い切り蹴り飛ばされた気がする。 頭が割れそうな程、ズキズキと痛んだ。 痛いのは心なのか身体なのか、もうよく分からない。 「あ、分かんないよ?うつ伏せの時とか、バックハグの時とかもありえるしね?」 「そうそう!今野くん、大丈夫?」 「息してる?」 「ちょっと、保健室。」 「「ごゆっくり!!!」」 2人に見送られ、命からがら保健室に向かった。

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