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第18話

なるほど…… 経験なさすぎて、考えてすらなかったわ。 そうだよ。忘れてたわ。 のぞ、男にもクソモテるじゃん!! ―――え、男イけんの?イけんなら、迷わず俺がイくし!! 挨拶しかしない先輩にキスできるくらいだから、友達の俺なら触るくらい許してくれる? そんな不埒な願望がムクムクと増大し、ズキズキ痛む頭に追い打ちをかける。 先輩に告られてうざったそうな虚無顔してたから、完全に無理なんだと安心と落胆していたんだけど……。 ―――てか抱かれた?男に??? いや、マジでそれは想像したくねえな。 キツすぎる。 のぞのタイプをもっとガキの頃に詳細に聞いとけばよかったわ。 くだらない会話しかしてなさすぎる。 好きなポケモンとか、マジでどうでもよくね? 「コンコン!咲、大丈夫?」 声でノックしながら、俺が寝ているベッドのカーテンをゆっくりと開ける。 「まきちゃん達から、体調悪いって聞いて。」 「大丈夫だから、ほっとけ。」 「でも、顔真っ青じゃん。」 「寝てればなおる。」 「寝るまでここにいる。」 そう言いながら椅子をベッドの傍に引っ張ると、眉毛をハの字にして覗き込んできた。 ―――何度見ても、綺麗な顔してんなー……。 滑らかな頬に手を伸ばすと、くすぐったそうに首をすくめる。 その反応すら、腹立つくらいの色気があった。 すげえかわいい。 もっと、いろんな顔みたい。 頭の中だけじゃ全然足りなくて、いろんなのぞの顔を俺も見てみたいなー……。 「あのさー。」 「ん?」 「男としたの?」 「何を?」 「セックス。」 「は?」 マジで、今日の俺はどうかしている。 頭の中で浮かび上がってくる考えと口に出る言葉のスピードが、どうしてもうまく一致しない。 言葉だけがどんどんあふれだして、それを頭の回転が死に物狂いで追いかける。 追いかけても追いかけても追いつけず、ただ失言だけが残る。 俺の言葉を理解するのに時間がかかったのか、のぞはたっぷりと間をあけてから、不快そうに眉を潜めた。 身体の奥から噴き出すような不快と嫌悪の念を張り付けた表情で、全てを察した。 のぞが保有する特大の地雷を、思い切り踏みつけたことに。 「いや、ごめん。なんでもない。女子が言ってて気になっただけ。忘れてください。」 「び、びびった。するわけなくね?普通にキモい。冗談でもキツい。」 俺の言葉に早口でそう捲し立てると、疲れたように椅子に腰を下ろした。 「そう、だよな。」 ―――キツいよな。それが普通の反応だよな? 俺がもし昨日あそこで告ったら、この顔をされていたのかと思うと、安堵と緊張で口の中がやたらと乾く。 「咲、俺のことホモだと思ってたの?」 「いや、そうじゃなくて。」 「じゃあ、どうして?」 「のぞって平気で誰にでも触るし、触らせるから。」 「は?」 「野口の膝の上に常に座ってるし、河合と永遠にハグしてるし、田中に頭しょっちゅう撫でられてる。」 「いや、それ誰でもすんじゃん。」 「マジで気がついてない?あいつらのぞにしかしてない。」 「え?」 「いや、ガード緩すぎ。」 「気のせいじゃね?普通に友達だし、あいつら彼女持ちだし。」 「マジでいい加減、自覚もって?」 眠気と苛立ちで頭が回らないせいで、自分でも驚くくらい余計な言葉が口から滑り落ちる。 もっと言葉の端まで気を遣って、もっといつもみたいに遠回りな会話をしなくちゃいけないのに……。 俺だって、のぞの心にもっと触れたい。 その気持ちが先行して、自分でも驚くほどに饒舌だった。 「そっか。咲、それ見てキモいって思ってたんだ。」 「え?」 「だから俺のこと避けたり、触られるの嫌がってたんだ。俺のことホモだと思ってたから。」 「のぞ、ちが。」 「違わねぇじゃん!!もう、やだよ。」 「のぞ?」 椅子から勢いよく立ち上がったせいで、静かな部屋に甲高い音が響いた。 「もういい!無理して構ってくれなくていい!疲れた!だるい!!咲なんていらない!!!だるいっ!!!」 思い切り声を荒げると、乱れた吐息がやけに大きく聞こえた。 「のぞ?落ち着けって。」 「嫌い。」 「え?」 「そうやってスカした顔して、内心バカにしてんだろ?男にチヤホヤされてキモいわこいつって、痛い奴だと思ってんだろ?マジで性格終わってんな!!」 「馬鹿にしてないし、無理して構ってない。だから、さ。」 「泣かないで。」 肩を小刻みに揺らしながら、息が細かく切れる。 ぎゅっと固く結んだ唇が僅かに震えて、その振動が全身に広がっていく。 次第に嗚咽が混じり始めると、堰き止めていたダムが崩壊するかのように、涙が勢いよく床に溢れ落ちた。 いつものガキみたいな泣き方じゃない。 見ているだけで、心がヒリヒリと凍てつくようなそんな泣き方だった。 「う、うぅっ……んっ。ぐすっ……うぅ。き、き……うっ、らい……うぅ。」 「ごめん。ごめんね?キモいなんて一度も思ったことない。のぞがかわいいから心配なだけ。マジで。疑ってごめん。でもさ……嫌いとか、いらないは言わないで。」 どうしていいのかわからず、のぞの周りを右往左往しながら、とりあえず指先で目尻の涙を拭った。 「ごめ……んな、さい。ひっ……すん。」 謝るのは俺なのに、泣かせたのも俺なのに…… のぞは俺の胸に顔を擦り付けながら、謝ってきた。 「大事だよ、マジで。だから他の奴に触らせないで。」 「は?」 ―――あ、まずった。本音漏れたわ。終わったわ。 俺の失言に驚きながら顔を上げると、しきりに瞬きを繰り返す。 先ほどあんなにも溢れていた涙が急に枯れて、大きな瞳でこちらを覗き込んでいる。 全て暴かれそうなほど瞳が澄んでいて、先ほどの涙で濡れてるせいか、深い湖のように静かに光を放っていた。 「あー、ええと……のぞは自分のこと普通の男じゃなくて、アイドルだと思ってた方がいいから。お触りファンサなしな。」 「ハート作ればいい?」 ―――いや、ハート超可愛いけど、真面目にやってくんねえかな? 「学校で俺に触るのも、他の奴に触らせるのもやめてくれる?」 「わかった。家で咲に触るのはいいってこと?」 「え?」 家でわざわざ触んの? なんで?誰得?? いや、間違いなく俺得だけど、だけど…… 密室で触られるの、諸事情ですげぇキツイんすけど? その辺は分かって言ってんの??? え、これ誘ってんの? もしかして、めっちゃ誘われてんの??? ワンチャンある感じ??? わからん。 B型謎すぎる。 元から寂しがり屋で、甘えただしなー……。 安心したいだけ、なんだよな? のぞの両親に、マジで顔向けできないじゃん。 「……うん。」 「はい。答えるまで2分かかりました。」 「いや、別に他意はない。」 「嫌なの?」 「嫌じゃないって。」 「どうせおっぱいないからだろ?」 「はあ?」 「かわいい顔してようがついてるもんはついてるし、おっぱいないし。」 「そんなの当たり前じゃん。俺もないよ?むしろかわいい顔もない。ごついだけ。てかなんで家で触んの?」 「だって、学校だとダメなんだろ?」 「いや、だから触る理由を聞いてるんだけど?」 「もういい。」 「何が?」 「もういい!」 「だーから、何がって聞いてんだろうがよ?お前こそちゃんと口で説明しろよ!!」 やべ、また言いすぎた。 ってか、また泣かせてんじゃん。 ―――あー、好きな子泣かせるとか、最低だろ。ガキかよ。ガキだわ。だって童貞だもん。 「だ……から、急に怒んなよ。怖いじゃん。最近イキりすぎてなんなの?」 「な、泣くなよ。で、何?」 「嫌なら、もう触んない。」 「え?だから、嫌じゃないって。」 「いつも面倒くさそうだし、実際クソ面倒くさいから。自分でも自分のこと面倒くさいし、クソうぜぇし。」 「面倒くさいなんて思ったことない。のぞのこと嫌じゃないよ?」 「ひっひっ、ん……うっ。うう、うぅ〜……ひっ。」 「なんで、また泣くの?怒鳴ったの怖かった?ごめん。ごめんね?」 もう、かわいすぎて無理。 泣き方、マジで赤ちゃんじゃん。 抱きしめたい。 てか、抱きしめていいよな? これ、合ってんの??? おそるおそる華奢な背中に手を回すと、のぞも俺の背中に腕を回してきた。 ―――あー、既に手出しそう……。 キスはさすがにアウトだろ? いや、のぞのモラルでいけばOKなのか?? 何が許されるんだっけ??? 本当は身体の隅まで撫で回したいけど、どこまでならOK? 背中とか頭はセーフだよな? てか尻揉みてぇ!!すげえ柔らかそう!!! まず太ももに密着してるのぞのちんこ、弄りまわしてぇ!!! ―――まじ、分かんねえ……つらすぎ。 前までどうやって慰めてたんだっけ? 意識しないでやっていたから、意識して自然を装えばめちゃくちゃ不自然になる。 抱きしめられてすげえ嬉しいのに、すげぇ疲れる。 「このまま、ぎゅうして寝ない?ちょうどいいところに、いい感じにベッドあるし。」 「あの、俺の話は聞いて頂けてました?」

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