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第23話
咲
「のぞ、だいすき。」
のぞが幸せそうに微笑む顔で、胸の中の風船が破裂しそうな程満たされる。
扉が静かに閉まるのを確認してから、風の音で飛ばされそうな音量で呟く。
のぞを見送って、寒さに身震いしながら足早に家に戻る。
家族に気がつかれないようにゆっくりと扉を閉めて、足音を殺して2階に上がった。
変な時間に寝て、変な時間に起きたせいか、目が妙に冴えている。
やっぱ匂いうつってる!
枕やば!
めっちゃのぞじゃん。もはや本人?
枕をぎゅうと抱きしめながら、保健室の温もりを思い出す。
このくらい華奢だったよな……?
枕のカタチを整えてから抱きしめなおすと、すぐにぺしゃんこに潰れてしまった。
―――あれ?のぞも痛かったかな?
今度することがあったら加減しようと思い直し、ベッドにダイブする。
のぞが寝ていたところに温もりが残っていて、先ほどの痴情を思い出し、また正直すぎるソコが頭を上げた。
ファブるのがもったいない。
けど、これじゃ絶対寝れない……。
むしろ、何をしてもここで安眠することはできない。
頭を抱えながらうつ伏せになると、目を閉じても脳裏にのぞのモノが浮かび上がる。
―――マジで、あれはエロすぎたわ。
のぞの裸体が脳にぴったりと張り付いて、目を閉じていようが起きていようが関係なしに浮かび上がる。
触りたい。
出来ればしゃぶりたい。
それから……
のぞがどんな顔をするのか、見てみたい。
正直すぎる欲望に項垂れながら、ベッドに自分の股間を擦り付ける。
***
部活終わりにいつもと同じ俺の部屋で、いつもと同じのぞとの勉強会。
のぞの説明は異国の音楽を聴いているようで、耳には心地がいいが言葉が頭から逃げていく。
そんな俺にも何度も丁寧に教えてくれる忍耐強さに、昨日のことを含めての申し訳なさで消えたくなった。
なんで見ちゃったんだろうという激しい後悔と、よく見るだけで耐え抜いたなと自分を讃えたい気持ちがせめぎあう。
昨日の裸体がずっと頭の真ん中を占拠していて、そればかり考えてしまう。
のぞの制服姿を見るだけで、昨日の裸体と重なり制服が透ける。
特にズボンは視界に入れるだけで動悸を感じ、まるで変質者になった気分だ。
「なんか今日も怒ってる?」
「え?」
「朝からずっと機嫌悪かったじゃん?全然こっち見ないし。」
「変なとこで寝たから、身体がバキバキなだけ。」
「ベッド借りたの、まだおこなの?」
「いや、別に。」
「嫌なことあんなら、ちゃんと言って?」
「だから、ないって。」
「だって……。」
文句をたらたらと言うくせに、歯切れが悪い。
表情はなぜか悲しそうで、意味がわからない。
「のぞ?」
「最近、咲が何考えてるのか全然分かんない。」
「怒ってないって。」
「昨日怒った。」
「じゃあ怒ったんじゃね?」
「怒ってんなら、ちゃんと説明しろよ!なんだよ。また空気悪いじゃん!」
怒っているのに表情は不安げで、昨日の今日でと思いながら腕の中に抱きしめた。
艶やかな髪が頬にあたり、なんだかくすぐったい。
―――あー、めっちゃいい匂いする。
「怒ってないっしょ?」
「うん。」
満足そうに微笑むと、のぞも俺の背中にしがみつく。
「これ落ち着く。」
抱きつかれて、落ち着くなよ。
危機感もてよ。
こっちはヤりたくてヤりたくて、眠れないくらいなのに……。
いつまで堅物で安牌でいられるのかなんて、俺さえも分からないのに。
「咲は嫌なの?」
「嫌じゃないけど……。」
「じゃあ、いーじゃん。きもちい。」
俺は、少しも落ち着かない。
ちっちゃい。腕の中すっぽり入ってる。かわいい。めっちゃいい匂いする。柔らかい。かわいい。かわいい。ちゅうしたい。背中に手入れたい。かわいい。かわいい。力入れたら壊れちゃいそう。でも、もっと密着したい。
―――やべ、勃ちそう。
「咲、聞いてる?」
「わかる。」
「絶対聞いてない奴の返事じゃん。」
「怒ってないのわかったろ?」
「わかんない。」
「はい、おしまい。」
「わかんないって言った!」
「はいはい。」
抱きしめて勃起したら、流石に誤魔化しようがない。
ぐずるのぞを嗜めながら引き剥がし、深呼吸を繰り返した。
「じゃあ、こっち座って。」
「え?」
腕を引っ張られ胡座をかくと、その上になんの躊躇もなくのぞが尻を落とす。
「いっ!」
「痛い?骨当たった?」
「いや、なんでもない。」
「お前の部屋ソファないから、これから咲がソファな?」
唇が触れそうな距離で、俺を見つめながら微笑む。
無邪気に笑いながら、背中を丸めて顎に頭頂部を擦り付けて甘えてくる。
―――こいつ、マジか?これで誘ってないの??普通に友達にやること???
尻の窪みに俺のモノがもろ当たってる。
のぞが身じろぐ度に刺激されて、前かがみになる。
やばい。まずい。柔らかい。かわいい。エロい。ヤりたい。ハメたい。柔らかい。
全身が煩悩の塊で、頭も心も割れそうだ。
「はい、お時間です。」
「時間の切り方、握手会の係員並じゃん。」
「あのさ、膝の上座るのはやめない?」
「なんで?」
「いや、普通に隣に座ろ?」
ちんこがベスポジ過ぎて、色々諸々辛すぎる。
昨日死ぬほど抜いたおかげで、まだ平静を保ち続ける相棒に感謝状を贈りたい。
俺のギリギリの申し出に、先ほどまでの幸せそうなのぞの表情が消し飛んだ。
美人の真顔は、怖いくらいの迫力がある。
「わかった。」
「いや、それ分かってない顔してる。」
「わかったって。キモいんだろ?お前いちいち周りくどいよ。触るなきめえでいいじゃん?」
「だから、違うって。」
「じゃあ何?」
「のぞが女子に見えるから、意識しちゃうって。」
「だから女じゃないんだけど?この話、何回すんの?この前触ったろ?」
「いや、んなこと分かってるって。」
昨日は勝手に拝見までしたから、ついていることは百も承知。
教室で友達の膝の上に座りながら、平然と喋っているのぞの顔を思い出す。
距離感がバグっているせいで、その異常さに気がついてない。
気がついてなさすぎて、これを普通に男友達にやられるのは怖すぎる。
これを他の男にやったら、絶対に勘違いする。
「別に、勃っても気にしないよ?」
「は?」
「女に見えるってことは、そういうことじゃない?」
「違う。」
気がついてないふりをしているだけで、本当は見透かされているのではないかと怖くなった。
ひよった返事しか出来ず、あと一歩の勇気はでない。
「あっそ。」
「てか気にしろよ。勃ってる奴いたら、即逃げた方がいいよ?まさか野口が勃ってたの?」
「あー、わかったわかった。」
「何が?」
「じゃあ裸ならいい?」
「裸?」
「男だって分かるじゃん?」
天使の笑顔を浮かべて、悪魔の提案をしてきた。
試すような目でじっと見つめられて、心臓が今にも張り裂けそう。
「いやいやいやいや、裸で抱っこって……それ完全にエッチじゃん。無理っしょ?」
―――いや、のぞがしたいなら全然したいっつーか、俺はめちゃくちゃウェルカムだけど。
違うんだろ?
安心感を得るっていう、いつもの甘えただろ??
「流石に引っかからないか……。」
「てか、なんでそんなくっつきたいの?」
―――こっちはキツイんすけど?既に限界なんすけど??
俺の手首をとって、自分の頬にぺたりとくっつける。
スリスリと甘える姿に、戸惑いと欲望で血管がぶちっとキレそうだ。
最近、ボディタッチが度を過ぎている。
触らないように避けてきた時間が長すぎて、普通の基準がバグっているのかもしれない。
「安心するから。」
「安心?」
「咲に触られるの気持ちいいし。」
「そうですか?」
安心して気持ちがいいって、もはやベッドじゃん。
大興奮してる俺と真逆の感情じゃん。
無理、マジ無理。
俺に安らぎを求めんな。
欲しいだけ与えられる自信が、まるでないから。
「咲はキモい?」
「キモくはない。」
「気持ちいいってこと?」
「落ち着かないって感じ。」
「不明瞭な答え。3点。再提出を命じます。」
「きびし。」
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