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第32話
咲
「のぞ、何してんの?」
「風呂入りに来たに決まってんじゃん。なんの冗談?」
「は?」
「マジで?ラッキースケベじゃん!」
「のぞみんと風呂入れるなんて最高ー!男でラッキー!」
「キッショ。」
―――え、マジで入るの?
シャツのボタンを外しているのぞの指先を見つめていると、のぞと視線が絡んだ。
でもこの前のような挑戦的な目はなく、すぐに逸らされる。
この前の生ストリップでも見えなかった、シャツの中。
期待と興奮と恐怖で、もう感情が分からない。
―――すげえ見たいけど、すげえ見せたくない。
Yシャツが華奢な肩から滑り落ち、乱雑に丸められる。
そのままシャツの裾に手を掛けると、恥じらうことなく一気に頭から脱ぎ捨てた。
乱れた髪の毛をかきあげ、耳にかけるのぞの癖。
それがあまりにも様になっていて、トクンと心臓が大きく跳ねる。
すると、それは俺だけではなかったようで、先ほどまであんなに騒がしかった脱衣所から音が消えた。
その変化にはのぞも気がついたようで、不愉快そうに眉を潜めた。
「俺で勃ったら1万課金だからな?」
そう宣言するのぞに、いつも教室で見られるような揶揄いの返しはない。
日焼けの知らない滑らかな肌が、陽射しを浴びた男たちの中では際立って見える。
胸にはもちろん膨らみはなく、滑らかでキメの細かい肌の上に控えめな飾りがついていた。
薄い色素のそこは俺が知る男の乳首などではなく、洋物でしか見たことがない桃色の女性もの。
―――マジで、どこもかしこも綺麗すぎるんだけど……。
俺が驚きと興奮で固まっていると、のぞが不思議そうに見上げてくる。
「咲は入らないの?」
「え?」
「見惚れていました」とは流石に言えない。
中途半端に脱いでいたシャツを丸めると、のぞがベルトに手をかけている。
その時、俺の部屋で見たのぞの下半身を思い出し、ようやく我に返った。
―――え、アレをここで見せんの?こいつらに?無理無理無理!!
のぞの肩にシャツをかけて、前を隠す。
自分のことは思い切り棚上げして、無遠慮な視線を浴びせる野郎共に睨みを効かせた。
「のぞ、行くよ。」
「は?」
「生理だろ?」
俺の一言に嫌そうに顔を顰めながらも、脱衣所に現れた岩井の姿を見るや否やさっと顔色が変わる。
岩井に背中を向けて、乱れたシャツを慌てて着なおす。
D組とは体育でも被ることがないから、実情が分からない。
「なんかあったよな?」その不安を募らせながら、岩井の前へ歩み寄る。
粘着質にのぞを見つめる岩井に、自分の身体で壁を作った。
「見てんじゃねえよ。」
「セコムうぜ。」
「は?うぜえのどっち?」
「咲、行こ。」
のぞに背中を押されて、脱衣所を出ると……
見惚れて止めなかった自分を、ひどく責めた。
―――クソッ!あいつらにのぞの乳首見られた。
「咲って心配性だよな。悩みすぎてそのうち禿げそう。」
「のぞがしないから代わりにしてる。」
「なるほど。代行サービスか?」
「全く儲かりませんが。」
俺が泊まる部屋にのぞを招き入れて、脱衣所の前で背中を向けた。
「え、何してんの?」
「見張っとく。」
「時間ないから一緒に入れば?」
揶揄するわけでもない笑顔で誘われて、その場にしゃがみ込みたくなった。
―――あんだけ視線を浴びていたのに、こいつはなんで懲りないんだ?
「ひとりで入れ。」
「なー、俺の裸見たくない?」
「見たくない。」
「比べっこなんて、修学旅行の醍醐味じゃんよ?」
「普通に俺の勝ちだろ。」
「言ったな?公平にジャッジしてやるから。」
そう言いながら俺のベルトに手をかけてくるから、流石に止めた。
「いや、無理!」
「俺、身体の割にでかいもん。見る?」
「見ない!!」
―――てか見たわ!こちとら見た上で公平なジャッジを下してるわ!!
「そんな怒んなくていいじゃん。」
俺の照れを怒りだと判断し、ぶつくさ文句を言いながら風呂場に入る。
聞き慣れたシャワーの音。
その中でのぞが裸で浴びているんだと思うと、もう堪らない。
ただの水音すら卑猥に思えて、奥の部屋の見たくもないテレビをつけてボリュームを上げた。
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