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第35話

咲と一緒に食堂を訪れると、すぐに学年主任に見つかり説教をくらった。 でも、担任のふくちゃんが精一杯庇ってくれたお陰で、反省文や罰などのお咎めはなし。 泣きそうな顔をして反省している風を装えば、ふくちゃんはちょろい。 ―――持つべきものは、ちょろい担任に限るわ。はっはっはっはは! メシの時間は少なくはなったが、その分咲と一緒にいられた。 怒られていようが、咲が隣にいたらそんなことは気にならない。 一緒にいられたら、それだけで幸せなんだから。 「あー、食った。」 「咲のご飯の盛り方、昔ばなしみたいでマジウケたわ。」 「担任の前であの顔やめろ。わざとだろ?」 「俺の演技力に感謝しな?」 「あんまかわいい顔見せんな。のぞ狙われてる。」 「中坊狙う教師はやばいわ。ウケる。そのうちテレビで特集やるんじゃね?」 「冗談じゃなくてさ……?」 「あ、田中じゃん!」 咲と一緒に食堂を出ると、珍しくぼっちの田中とあった。 俺を挟んで3人で肩を並べながら、大名行列のような流れに合わせて、ゆっくりと歩き出す。 「田中の顔を見ると、本当に安心するわ。最高の安牌だわ。」 「いや、それは男としてどうなの?」 「田中はしない?」 「どっち答えても俺が得をしないことだけは知ってる。」 「抱き枕にならない?」 「まだメンブレ?のぞみんがそういうこと言うの激レアじゃん。ま、でも俺ものぞみんと同室の方が安心感あるわ。他の野郎を信用してないから。」 「なんか、マジで陽兄に似てきた気がするわ。あの人が言いそう。」 「ブラコンのイケイケお兄様?そのポジはちょっと荷が重いわ。パスで。」 「今日もめっちゃ心配されて、LINEの嵐。安定の未読スルー。」 「のぞみん見てたらそうなるっしょ?ちゃんと返してあげな。さすがに哀れだわ。」 「てか、今野の私服それ?どこで買ってんの?」 咲の服装を上から下までじっくり見ると、田中が困ったように眉を潜める。 確かに俺は見慣れているけれど、同世代の男が見たらこの反応が妥当。 黒字によく分からない謎のイラストと英文字。 幅がやけに余るズボンを穿いていて、一言でいえば超絶ダサい。 「変?」 「個性的だなって。よかったら俺の服着る?」 「え?」 優しさの権化の田中は、ダサいのだの字もださない。 「なんで?」と顔に分かりやすく張り付けた咲が、田中を睨む。 同クラになったせいか、田中と咲の距離感が妙に近い気がする。 「んな嫌そうな顔すんなよ。明日私服だろ?のぞみんも今野オシャレなほうが嬉しいっしょ?」 「あー、うん。」 「借りる。」 「おっけ。いっぱい持ってきたから。」 「そういえば、2人で風呂入ったの?のぞみんが今野に部屋風呂連れてかれたって聞いてさ。」 「「入ってない!」」 焦りすぎて咲とユニゾンすると、田中がおかしそうに腹を曲げる。 「ふっくくく……あっはは!相変わらず仲いいね?俺も彼女と入りたかったわ。」 「だから入ってないって。」 「今野はのぞみんの裸見た?」 「ぶっ!!」 咲が珍しく噴き出すと、田中のにやけ顔に拍車がかかる。 「あ、見たの?綺麗だった?」 「何その失礼な質問。綺麗に決まってんじゃん。こちとらみんなのアイドルよ?」 なに当たり前のことを聞いているんだと田中をいなすと、それでも懲りずに咲を弄る。 咲が上手い冗談を返せるわけも、悪ノリに合わせることもないことは決まっているのに、その質問の意図が掴めない。 咲と違って全裸を見られたわけではないが、体育の着替えで何度も見られている身体に新鮮味もクソもない。 「のぞみんじゃなくて、俺は今野に聞いてんの。どうだった?」 「すげえ……綺麗だった。」 腕で顔を隠しながら、咲が咲じゃない台詞をはいた。 冗談で言っているわけでも、ノリで返しているわけでもない。 ガチで照れている表情に、背中から熱の波が押し寄せる。 「お前は咲じゃない!」 「だから俺だって。」 「咲はそんなこと言わない。普通って答える。」 「綺麗なものは綺麗って答えるよ。」 「恥ずいことばっか言うな!バカ!!」 しっかりと見つめながら褒められて、返す言葉が見つからない。 どんな返しをすれば正解なのか分からず、咲の腕を拳で殴ると手首を掴まれた。 少し湿ったやけに熱い手のひらの感触に、何かが湧きたちそうになる。 田中に小声で「よかったじゃん。」と追い打ちをかけられても、ただ頷くしかなかった。 「よし、恋バナかまそ。」 「マジで?女子じゃん。」 「のぞみんの部屋後で凸るわ。」 「夜這い?」 「してほしいならしてあげよっか?」 「や~~ん。田中くんのえっち~~~!!」 いつもの調子で抱き付いてくる田中の首に腕を伸ばすと…… 「触んな。」 咲が俺の背後から、腕の中に抱きしめる。 背中に咲の体温と鼓動が伝わってきて、身体が硬直した。 俺から仕掛けることは多くても、咲からのボディタッチは少ない。 意味が分からず見上げると、パッと腕の拘束を解かれた。 「あ、わり。間違えた。」 ―――何を?もしくは誰と? そう突っ込みいれたくなったが、身体と一緒に口まで上手く動かない。 「あっははは!やっぱ今野いいわ。ガチですき。おもろい。」 「おもろくない。」 田中を睨んでいるけれども、先ほどの岩井たちに向けてのものとは全然違う。 親愛のある視線に、軽くジェラる。 今まで俺としか話さなかった咲が、田中と仲がいいことに違和感しかない。 咲の肩を抱きながら楽しそうに会話する田中から、反対の腕を掴んで咲を奪い返す。 ―――触んなって。咲は俺のだから。 咲の世界が広がって、いつかいらない宣言をされるまでは、俺の隣にいてほしい。 俺の子供じみた様子に田中も噴きだしながら、咲の肩から腕をどける。 「今野も一緒に行こ?」 「どこに?」 「のぞみんの部屋に夜這い。」 「は?」 「恋バナかまそ。」 「無理。」 「のぞみんの恋バナ聞きたくない?」 「それは聞きたいかも。」 「だろ?ついでに猥談な?とびっきりの用意したから。後で見せてやる。」 「は?無理!!!!」 先ほどの咲の会話を思い出し、声の加減が出来ずに思わず叫ぶ。 俺の声のボリュームで、大名行列の視線が一気に集まる。 恥ずかしくなって声を潜めながら、咲を見上げる。 「咲は絶対無理!!来なくていいから!!」 「んな興奮すんなよ。別に抜きっこしようなんて言ってないし?」 「ぬ、抜きっこすんの?」 先ほど咲のモノを見てしまったから、触りたくて仕方がない。 触りたいし、触られたい。 ノンケでも抜きっこくらいなら許されるのかと特大の願望を抱きながら田中を見上げると、額に軽めのチョップが飛んでくる。 「いや、だからしないって。そんな溜まってんの?最近いつヤった?」 「ずっとしてない。」 「だからのぞみんムラってんだ?」 「は、え……あ。」 ムラってる。 マジで猿ってる。 皮膚の内側がくすぐられているかのように、ムズムズする。 ナカを掻き混ぜられる感覚を思い出し、脳が痺れる。 ―――抜きっこじゃなくて、ヤりたい。 「あ~~~、その顔はやめて?彼女に顔向けできない。」 「は?」 「のぞみんのエロ顔は見たくねえって。」 「してない。」 「してたしてた。18禁だった。」 猿顔で田中を見てしまったのか、意識すると恥ずかしくなって、慌てて咲の背中に顔を埋める。 いつもなら「寄るな、触るな」と突き放される行為なのに、俺の腕を掴みながら無言で歩く。 無遠慮な視線を浴びても、周りから揶揄いの言葉が飛んできても、咲は腕の拘束を外さない。 それがとてつもなく嬉しくて、咲のお腹に腕を回した。 ―――咲、だいすき。

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