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第39話

「ガチでやめろ!!恥ずかしくて死ぬとこだった!!」 「あんな童貞やめといて、マジで俺にしとかない?」 そう言いながら、ふわりと抱きしめられる。 声にも顔にも余裕があるのに、耳に聞こえる進藤の心音はだいぶ早くて、すきだって身体中で叫ばれているようで気恥ずかしい。 「しつこくてごめん。悲しそうな顔見てるのつらい。」 悲しそうな顔してたか。 バレバレか……。 取り繕えないくらいの感情が、顔に溢れる。 好きって怖い。 バレそうで怖い。 「おい!?なに抱き付いてんの?」 背中に咲の声がして振り向こうとすると、進藤の胸の中に苦しいくらいに押し込められた。 Tシャツに俺の涙がしみ込み、少し濃くなる。 顔を擦り付けるようにして涙を拭うと、さらに強く抱きしめられた。 「望海は嫌がってない。」 ―――でも、苦しんではいます。 見上げると、俺よりも苦しそうな顔をした進藤の顔。 焦ったような、悲しそうな、色んな感情をことこと煮込んだ、辛そうな表情。 「ごめん。ありがとう。」 「俺がごめん。」 進藤の胸を軽く押すと、すぐに腕が解かれる。 俺が泣きそうだったから、咲に怒ってくれた。 割と優しいどころじゃなくて、進藤はすごく優しい。 ―――好きになってくれてありがとう。 進藤の小さくなっていく背中を見つめながら、心の中でそう呟くと、咲が俺の肩に軽く触れる。 見上げると、不安そうに顔を覗き込まれた。 ―――何、その顔。ムカつくんですけど……? 心配したふりしてんじゃねえよ。 俺のことなんてすっかり忘れて、女子と楽しそうに喋ってた癖に!! 「のぞ、大丈夫?」 「うん。」 「さっきの子たちは本当に、道聞かれただけで……。」 「うん。」 「聞いてる?」 「うん。」 「のぞ、ちゃんと聞いて?」 「別に、いいから。」 「は?」 「咲が何をしていようが咲の自由だから、友達の俺には一切関係ない。どうぞご自由に。」 「はあ?」 綺麗に微笑んでやってから立ち去ろうとすると、腕を引かれた。 その腕を捻って無理やり剥がすと、また掴まれる。 「触んな!」と言いながら睨むと腕をぱっと離して、怒られた子供のように俺の後ろを大人しくついてくる。 ―――マジで好きすぎて、腹立つわ!! 「ねえ、キャップは?」 「いらない。」 「ひとりで歩くなって。」 「俺の自由。」 「いつも絡まれるだろ?」 「慣れてる。」 「俺がいやなの!」 その言葉に振り返ると、耳まで真っ赤に染めながら俺を睨む咲の姿があった。 俺が足を止めると、すかさず近寄ってくる。 「のぞが絡まれるの見るの嫌だし、顔も私服も全部見せたくない!かわいいから誰にも見せたくない!」 「はあ?」 ―――俺が怒ってるから、ご機嫌取りかよ。 腹立つくらい嬉しい言葉を、俺のツボを刺激されて…… 嬉しすぎて怒れなくなる。 ―――咲はずるい!! 「ごめん。なんか寂しい思いさせてた?なんか泣かせた?」 焦ったように話す咲は、服装が変わっても咲のままだ。 いつだって俺の心配してて、いつだって俺に優しい。 ―――言うつもりなんてなかったのに、進藤のバカ。 「ゴールデンウィーク、寂しかった。」 「あー、試合?軽い感じの奴が多い学校で……。のぞに会わせたくなかった。のぞかわいいから、絶対絡まれるし。」 ―――はあ?俺が見に行くの、迷惑だって言ってたじゃん!! 絡まれるのが嫌なんてこと、一言も言わなかった。 だから、俺の応援なんて迷惑なんだって思って、すげえへこんだのに!!! 会いたいと思っているのは俺だけなんだって思って、すげえ泣いたのに!!! 「なんでそれを言わない?」 「恥ずいじゃん。」 「かわちい。」 マジで、マジか……? 咲もヤキモチ妬いてる??俺に??? 「いや、俺は全くかわいくないんで。てか、寂しくて泣いたの?」 「泣いた。」 「かっわ!!!」 ぎゅうぎゅうに抱きしめられて、胸が苦しい。 幸せすぎて、胸が苦しい。 「引かない?」 「何に?」 「キモくない?」 「何が?」 「かわいいね~!すげえかわい~!のぞはかわいいの天才だね!」 「かわいい」と連呼しながら、いつもの無表情が嘘のように、目じりを下げて頭を撫でられる。 子どもを愛でるような眼差しではあっても、悪い気はしない。 甘やかすように抱きしめられて、あんなに沈んでた気持ちがどこかに吹っ飛んだ。 「あ、岩井になんかされたろ?言ってみ?」 「ん?何もないよ。平和。清水も飽きたみたいだし。」 「なんかあったら絶対に言って?殺すから。」 「咲はガチで殺しそうだから怖い。ガチトーンやめろし。」 「その時はのぞが止めて。自分で止められる自信はない。」 「こわ。」 「やっぱり、俺より田中がいい?あいつ陽海さんに似てるし、頼りになるから。」 「何?そっちもやいてたの?」 「俺の方が付き合い長いのに、田中に負けるのは悔しいじゃん。」 「はっははは。馬鹿じゃん。だるいわ。あ、でも俺もやいてた。」 「あ、さっきのは本当に違うから!」 「咲イケメンだから、服装と塩対応やめれば俺よりモテるよ。もったいない。」 「のぞがオシャレなほうがいいって言うから、これ着たのに。」 「え?そんなこと言ってなくね?」 「言ったろ?田中の質問にうんって答えた。」 「記憶ない。」 「はあ。」 「今度、俺が選ぶわ。」 「ん?」 「咲の服。」 ―――で、俺が全部脱がす。 にっこり笑いながら伝えると、お気楽な咲がぱっと喜ぶ。 男に服選ばせて、ありがとうでおしまいな訳ないのに……。 「それは嬉しい。」 「隣を歩いてて恥ずかしくないやつにする。」 「え、ずっと恥ずかしいって思ってたの?」 「俺は田中じゃないから、クソダサいってはっきり言います。」 「ひでえ。まだ時間あるしどっか行く?お土産買いたい。」 「なんか記念におそろ買う?」 「お、おそろ……。」 「どした?腹痛い?」 急に蹲る咲に不安になって、俺もしゃがみ込む。 朝も腹の調子悪そうだったから、何かに当たったんじゃんないのか? 顔を覗き込むと、赤い顔した辛そうな表情。 「いや、なんでもない。気にしないで。」 「トイレ寄ろ?」 「マジでお気遣いなく!あ、おそろはNGワードにしてもらえる?」 「なんで?」 「卑猥だから。」 卑猥? え、なんで?? 生ストリップ見せても、ベッドにかもーんしても反応しなかったくせに、おそろが卑猥??? 生身の俺より意味もないワードに反応する咲に、なんか負けた気がして悔しくなる。 「童貞の思考回路、謎すぎるわ。」 「放っておいて。」 「おそろがエロいの?」 「エロすぎる。」 「耳元で囁いてやろうか?」 「ガチでやめて。」 ふざけて耳元に口を寄せると、顎を掴まれて離される。 でも、指先が俺の唇にふにっと触れた瞬間、思い切り仰け反りながら地面に尻もちをついた。 「だっさ。何してんの?」 「ガチでやめろ!!」 大声で怒鳴りながら俺から距離をとる姿がおもろすぎて、集合時間も忘れて2人ではしゃぎまくった。

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