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第42話
―――ここどこだ?
霞む視界の中で目を開けると、さっきまでの図書室の風景とはまるで違っていた。
月曜日の放課後。
先週の金曜日の件があったから、咲にしつこいくらいに念を押され、図書室で大人しく待っていた。
今日は進藤は塾の定期試験で、田中はいつも通りの部活。
不安そうな表情をしている2人に、努めて明るく振舞った。
最初は司書を合わせて3人いたはずだが、予鈴のチャイムにふと顔を上げると、気づけば図書委員の男と2人きりになっていた。
男と視線が絡むと、怖いくらい瞬きの少ない瞳で見つめられて、微笑まれた。
全身に寒気が走りつつ、ズボンの中のお守りのスイッチを押す。
図書室の出入り口は、ひとつしかない。
男に塞がれてしまっては、どうにもできない。
―――やべ。逃げなきゃ。
そう思いながら男より先に取ってを掴んだはずが、それからの意識がない。
後頭部が割れそうなほど痛くて、吐き気がする。
乱雑に積まれた段ボールと、部屋の広さの割に少ない机の数。
こびりついたカビと埃っぽい匂いが混じっていて、普段使っている教室の雰囲気と大きく異なる。
カーテンは隙間なく閉まっており、こいつら以外の人間の気配が全くしない。
風も冷房もない密室は、やけに蒸していた。
―――ここ第三校舎か……?
俺たちが普段使用している教室の第1校舎。
音楽室や視聴覚室、図書室などがある第二校舎。
それとは少し離れた場所にひっそりと佇む、屋上にプールがある第三校舎がある。
生徒数が多かった時代に使われていた場所で、普段は幽霊スポットとして人気がある程度。
そう理解したところで、現状は変わらない。
ガチャガチャと乱暴に解かれるベルト。
ボタンが飛んで床で弾み、転がっていく。
羽交締めにしてる奴の物が、ダイレクトにケツに当たる不快感。
マジかよ……。
シャツだけが肩にひかっかるように残されただけで、しっかりと覚醒した時にはパンツもズボンも床に転がっていた。
「うっわ。こんなとこまで綺麗じゃん。」
「白いちんこ初めてみたわ。舐めていい?」
「なんだよ。勃ってねーじゃん。ホモってがせ?」
「別にどっちでもいいじゃん。触れば元気になるだろ?」
聞きたくない会話に顔を上げると、岩井と岡島の顔が見えた。
振り返ると、先ほどの図書委員の顔。
げんなりしながら、岩井たちを見つめる。
「マジで頭大丈夫?」
「うるせ。」
「暴行罪は立派な犯罪です。」
「教師にチクりやがって。今野にもキレられるし!!最悪!!!」
「お前らがキッショいことするからだろ?」
「アレのせいで推薦ダメになったんだけど?」
「同性の体操着にぶっかけする奴なんて、さすがに学校も推せねえわ。」
「今から勉強しても間に合わねえじゃん。俺の人生詰んでる。」
「そろそろ自分の行いに責任持てよ。しょうもな。」
「マジでお前のこと見てると腹立つ。」
「たつのは腹だけじゃないんじゃねえの?後ろのお前、当たってるんで控えてもらえる?キショいから。」
「うるせえって!!」
岡島の顔が、一気に近づいてくる。
咄嗟に唇を結んだが、強引な舌先に口の中を蹂躙された。
「唇すげえ柔らかいのな?かわいい。ヤりてえ。」
「キッショ……。」
吐き捨てるように呟くと、首筋を舐められながら乳首を引っ張られる。
気色悪くて岡島のみぞおちを蹴ると、背中の男に腕を捻られる。
「いった!痛いっ!!折れるって!!」
岩井は図書委員の男にやめるよう合図し、笑いながら近づいてくる。
「マジやめろって!キショい!!無理、無理、無理、無理っ!!離せって!!」
「足癖悪いな?」
「縛る?」
「いや、マジでしゃれにならねーから。やめとけって!」
―――足縛られると、マジで逃げられないじゃん!!
足首を抑え込まれて、解かれたネクタイで硬く結ばれた。
その上からさらにベルトでガチガチに結ばれて、ほぼ魚になった気分。
「後ろ押さえとけよ。」
岩井の掛け声に、後ろの男の拘束が強まる。
下着を脱がされているから、男が興奮しているのがすぐに分かるのが不快極まりない。
背中から腕を押さえつけられながら、脚の上に岩井が馬乗りになると、俺の股間に口をつけた。
え、マジで……?
なんでお前が舐めてんの??
3本しゃぶらせるんだろうと思っていたのに、お前がしゃぶる方なんすか???
意外すぎる行為に、気持ちの悪さよりも驚きが勝った。
強引にケツに突っ込まれると思っていたのに、岩井は丹念に俺の竿を舐めながら、玉の裏まで舌を這わせてくる。
意味が分からず呆けていると、岩井と視線が絡む。
「痛いことはしないから。」
その言葉通り、根元を手で扱きながら先端を舌で刺激される。
久しぶりの行為に、自然と腰が浮く。
俺の行動に微笑みながら、さらに激しく先端を吸われて息が漏れる。
声を聞かせるのは悔しくて唇を結ぶと、背中の男が口に親指を突っ込んできた。
「やだ!やあ、め……あ!あっ…んん!」
「勃ってきた。」
「マジだ。」
―――そりゃ勃ちますよ。ゲイだもん……。
俺が勃ってるのがそんなに嬉しいのか、顔を綻ばせながらさらに扱かれた。
裏筋に舌を這わせて、丁寧な愛撫をくわえる。
喉の奥まで俺のモノを銜えこむと、ケツに挿れていると錯覚し、慣れ過ぎた身体が無意識に腰を振った。
―――こいつ、マジでフェラをAVで学んでるわ。
そんな予感をさせる丁寧な行為に、トイレですきだと言っていたことを思いだした。
無理やり犯そうという意思がないことに、なんだか違和感すら感じる。
「えっろ!顔隠すなって。見せてみ?」
「あ、んん……んんあっ!ハァハァハァ。」
「イき顔ヤバい。すげえかわいい。」
「かわいい。いっぱい出たな?」
岩井の口内に射精すると、当然のように喉仏が動く。
「げ、飲んだの?」
「気持ちよかった?」
驚愕と不快が入り混じった顔のまま岩井を睨むと、恍惚とした表情を浮かべながら完全に勃っていた。
改めてキモいなと思いながら入り口に目を向けると、そこには誰もいない。
―――3人なら、逃げきれそうじゃね?
でも、足が動かないのはヤバイと思いながら、がちがちに巻かれたベルトを見つめる。
ネクタイだけなら暴れたら外れそうだけど、皮のベルトを引き散るだけの筋力はない。
3人の下半身は既に臨戦態勢に入っていて、すぐにでも発射できそうな勢い。
―――グズグズしてると、マジで掘られるわ。
岡島は俺のことを全身舐めるように見つめてきて、犯してやろうという気が満々の顔にすげえ萎える。
後ろの男も尻の窪みにヌルヌルした自身を擦り付け、耳障りな鼻息がかかるのが不快だった。
その中で、岩井には俺を痛めつける気がないことが、この状況の唯一の救い。
イった後も俺のモノを名残惜しそうに舐め続け、太腿に垂れた精液も綺麗に処理する。
―――マジで俺のこと愛しちゃってんの?
これ以上ないくらい迷惑な感情にドン引きしながら、岩井を見つめる。
俺と視線が合うと、この状況に似つかわしくないような穏やかさで微笑まれて、これまで経験したことがない鳥肌がたった。
―――こいつ、キレてるわ。
救いどころか、こいつが一番ヤバイ奴だ。
慎重にいこうと、改めて強く決心した。
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