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第43話
「俺の舐めて興奮してんの?変態じゃん。」
岩井の股の中心を、足の指で軽く突っつく。
根元から裏筋を擦ると、面白いくらいに身体を仰け反った。
「やめろ、やめろ」と言う割には、やめてほしい顔はしていない。
それどころか自らベルトを外して、ファスナーを下ろしだす始末。
―――めっちゃよさそうじゃん。こいつマゾか?
知りたくないもない情報が頭をかすめ、足首をクロスさせて甲で挟み込んで擦りあげる。
濡れてきた先端を足裏でぐりぐりと刺激し、窪みを親指で抉りながら、無心で扱いた。
慣れない愛撫ではあったが刺激は十分だったようで、気持ちよさそうに腰を揺らしている。
あー、ガチで足つりそう……
足コキ女優、マジリスペクト。
「足コキでカウパー出まくりじゃん?パンツまで染みちゃってる。ヌルヌルでキッショいわ!てかゴムとローション持ってきた?」
「え、ないけど?」
「ケツに生で挿れようとしてたの?」
「え?あ、まあ。」
こいつらの反応からすると、ゲイビを見ている感じはしない。
俺の顔だけならともかく、身体は普通に男。
で、俺の裸をみても、引かずに興奮する意味が分からない。
ヤれたら誰でもいいのか、慣れていないから誰でも興奮できるのか。
「ええと、童貞?」
「お前に関係ねえだろ!」
岡島に噛み付くように怒られ、童貞なんだなと理解した。
童貞でしかもゲイビも見てないクソに掘られるのは、絶対にごめんだ。
無理やりしてきたら、しゃぶるふりしてチンコ噛み切ってやろう。
「後ろ解さないと、ちんこ挿らないよ?女じゃないから勝手に濡れないし、挿れても狭すぎて痛いだけ。分かってる?」
「え?」
「知識も経験もテクもないんだろ?」
「うるせ。」
「俺の虚無顔じゃなくて、イき顔が見たいんだろ?」
俺の言葉に、3人が目配せをはじめた。
もっと怖がったり嫌がったりされることを想定していたのだろうか、絶対にそんな顔は見せてやらない。
絶対にこいつらの前で泣かないし、主導権を握ることも許さない。
恥は捨てても、プライドは絶対に捨てない。
「痛いって叫び声よりさ、あまい嬌声を聞きたくね?可愛くあんあん啼いて、よがって泣いてやるからさ。俺のトロトロにさせたナカにそれ突っ込みたくね?きっと超気持ちいいよ。」
にっこり微笑みながら、唆す。
「お前らに任せるの不安だし、準備できるまで俺見てオナってろ。ローション代わりに精液使うから、いっぱい出せよ。」
「うん。」
「これだと出来ない。外せ。」
「わかった。でも、お願いしろ。」
「は?」
「お願いしろ。可愛くキスしてお願い出来たら、外してやる。あ、触れるだけはダメ。ちゃんとエロいやつ。」
―――キッショ!!!
いや、顔に出すな。逃げられなくなる。
慣れてんじゃん。こんなこと。
キスもセックスも何回してんのよ?
こんなこと、全然大したことじゃない。
大したことじゃない。
大したことじゃない。
大丈夫、大丈夫。
普通に誘えばいいだけじゃん。
かわいい顔してりゃ、きっと酷いことはされないから。
髪をかきあげて、気持ちを落ち着かせる。
ドネコ役者の仮面を被ってれば、こいつらは満足なんだから。
「たっぷりサービスしてやるわ。」
馬乗りになっている岩井の首に、自分の腕を絡める。
ぎゅっと密着しながら、耳元で甘い声で囁く。
「優しくして。」
「わかってる。」
「乳首、痛かった。」
「ごめん。優しく触るね。」
「俺のことすき?」
「すき。だいすきだから。胡蝶からキスして。」
何も感じるな。
何も考えるな。
いつもやってるみたいに、やればいいから。
こんなのはキスじゃなくて、作業だ。
岩井を見つめながら、半開きの唇を軽く重ねた。
角度を変えて、舌先で唇を舐めてやる。
絡みついてきた舌を軽く吸って、身体を密着させて根元まで絡ませた。
たっぷりの唾液をだして、水音を他の野郎にも聞かせて、耳を愛撫する。
たっぷり念入りに舌を絡ませてから、リップ音を出して唇をゆっくりと離した。
目を開けると、キモいくらいに興奮した瞳で見つめる岩井がいる。
―――よっしゃ!俺の勝ちだわ……。
おちたことが嬉しい気持ちと一緒に、自分の中の大切なものが内側から壊れていく気がした。
目に見えない大事なものが、どんどん壊され剥がされていく。
それが怖くて不安で、自分を保てなくなる。
ふと、咲の顔が浮かんだ。
思い浮かべると泣きそうで、逃げ出したくて、助けてほしくて、心が張り裂けそうになる。
でも、今は駄目。
思いだすな。助けを呼ぶな。
大好きだから、咲の未来を考えなきゃ。
心を殺そう。
「お願い。外して?」
「マジでエロい。すげえきもちかった。」
そう言うと、身体をふわりと抱きしめられた。
足の拘束も外され、ようやく身体が自由に動かせる。
大きく伸びをして、軽く腕を回す。
足首を軽く動かしたが、けがをしている様子はない。
頭痛は続いていたが、先ほどよりはましになっている。
―――これなら、全然走れるわ。
そのことにほっとしながら、3人を見つめる。
両手で髪をかきあげて、顔がよく見えるように耳にかけた。
3人に向かってとびきり綺麗に微笑んでから、膝立ちの体勢になる。
片手でふにゃふにゃの竿を握り、軽く扱く。
もう勃ちそうもない大根役者なそこに呆れながら、手の平に涎を垂らし指に絡ませる。
糸が引く様を見せつけてから、固く閉じている蕾に指を差し込む。
周りの肉が緊張で硬くなっているせいか、指が全然進まない。
それでも、円を描くように押し広げる。
最悪。最悪。最悪!!!
なんで学校でこんなことしてんだよ。
マジ黒歴史じゃん。
「んん、あ……んあ。ハアッハア。」
うっわー、めっちゃこっち見てるわ……。
視線うっぜ!にやけ顔キッショ!!
殺してえ!!
タマ蹴り飛ばしてえ!!
てか、ガチで完勃ちじゃん。
俺はこんなに萎えてんのに……引くわ。ドン引き。
幽霊と一緒に、ここで一生埋まっててほしい。
1人ならタマ蹴飛ばして即逃げるのに、3人まとめては俺には荷が重いよな。
大人しくオナってる間に、ちゃっちゃと逃げよ。
ここから職員室はめっちゃ遠いし、野球部うぜえから裏庭通るのも嫌だな……。
咲には絶対会いたくないから体育館大回りすると、テニス部に田中いるからヘルプ頼むか。
出口は塞がってないよな。オケ。
こいつらの足の速さなら余裕で撒ける。
あ、こいつらイきそうじゃん。
今だ、走れ!!!!
一番出口に近い岩井の股間を思い切り蹴り飛ばし、全速力で走りだした。
「い、痛えっ!!!クソが!!!」
「あ、おい!?待てこら!!」
「待つわけねえだろっ!クソがっ!!!」
テニス部、テニス部は……
角曲がって、右に直進。
―――走れ、走れ、走れ、走れ!!!!
陸部なめんなよ!先輩に死ぬほど走らされてたっつーの!!
裸足だろうが、お前らになんかは絶対負けない。
てか頼むから、田中に会うまで誰にも会いませんようにっ!!!
この格好は流石にイタ過ぎる!!!
シャツをかろうじて肩にかけているだけで、ほぼ全裸。
この姿なら、襲われたのは一目でわかる。
背中にあいつらの声がするが、その声は徐々に遠ざかっていく。
音のない静かな廊下を前傾姿勢で駆け抜け、その勢いを殺さずに階段を下まで一気にジャンプする。
着地を決めようとした瞬間、なぜか大きくよろけて転がった。
「いっ……た。」
勢いをつけすぎて壁にでもぶつかったのか、衝撃で尻もちをつく。
痛む尻を撫でながら顔をあげると、今一番会いたくない顔があった。
「のぞ?何、その格好……。」
「さ、咲?なんでここいんの?」
―――嘘だろ?マジでタイミング最悪。
俺を見てすべてを察したようで、一瞬で般若の表情を浮かべる。
自分のTシャツを脱いで、俺の身体をぐるぐる巻きに覆ってくれた。
咲の指が俺の身体よりも震えていて、苦しそうな表情で涙を浮かべながら小さく「ごめん」と呟く。
「あいつら?」
角を曲がった岩井たちが、咲の姿を見つけてすぐさま背中を見せる。
蜘蛛の子を散らすような速さで退散していく背中を、咲が階段を全速力で駆け上っていった。
「いや、違う……違うって!咲!!!お前推薦あんだろうが!!掘られてねぇよ!!え?マジ……かよ?待て!」
震える脚でなんとか立ち上がったが、追いつける気が全然しない。
自分の足じゃないみたいに関節がぐにゃりと曲がって、自分の脚にもつれてすぐに躓く。
まっすぐ立っていても曲がっているような気色の悪さで、平衡感覚が全く掴めない。
―――なんだ、これ?
頭が割れそうに痛くて、ひどい吐き気がする。
這いつくばりながら咲を追うと、乱雑に積まれた机と段ボールがひどく散乱した教室で、4人を見つけた。
岩井たちは自力では立ち上がれないようで、血だらけになりながらうつ伏せで頭を必死に守っている。
―――マジで最悪。
自分の足を殴ってようやく立ち上がると、馬乗りになってなおも殴りつける咲を、背中から押さえつける。
「ちょ、咲!!やめろ!死ぬって!!!」
俺が止めてるのに、それでも痛々しいくらい腫れた拳で執拗に頭を殴り続ける咲に、初めて恐怖を感じた。
腕を抑えても止められなくて、視界を隠すように頭をぎゅっと抱きしめる。
「もういい!!やめろって!」
「なんで庇うの?」
「お前、自分のこと考えろって!何してんのかわかってんの?」
俺のことを見上げると、息が吸えないくらいに抱きしめられた。
その息苦しさよりも、頭が割れるように痛くて、咲がいることに安心して、意識がどんどん遠ざかる。
「のぞ、ごめん。マジでごめん。こんな……ごめん。ごめんなさい。」
数えきれないくらいの謝罪の言葉を聞きながら、だいすきな人の胸の中で意識を手放した。
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