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第3話
あ。
「せんせー」
多分、今オレ、熱で頭沸いてる。
「お前の身体だ」そう言われて急に心細くなるなんて、絶対変だ。
自分からこの人のこと、せんせーって呼んでしまうとか、手術の前にだってなかったってのにさ。
いやもう、こんな気の迷いなんて、絶対に熱のせい。
「大丈夫だよ」
ふふ、と小さく鼻で笑って、先輩が点滴液の調節をする。
「なにが」
「お前の言いたいことくらい、予想できる。大丈夫、予後は良好。入院が長引いてるのは、お前が医者の言うこと聞かないで、そうやってふらふらしてるせい」
「だって、外出していいって言った」
「体調次第だともちゃんと言っておいたし、安静にしていた方が治りが早いとも言ったよな?」
「治る?」
「当然。そのための入院だろ」
ぐらぐらと、横になっているのに頭が揺れる。
ぷころぷころと耳元で氷が転がる音がする。
治療してリハビリしたら、元のように「普通の生活」ができるようになるって、確かにそういう説明は聞いた。
けど、それってどれだけの時間が必要なわけ?
元って、どれくらい元よ?
「普通の生活」って、どれ?
先輩は自信満々に言い切ってくれる。
けどそれは、オレが揺らいでいるから安心させるための芝居なのか、それともホントのことだからなのか。
そんなことすら疑ってしまいたくなる。
廊下の向こうの方で、にぎやかな声がした。
場違いな程に明るいじゃんけんをせがむ声。
「お、きたな」
先輩が笑う。
「チヨ」
「なに」
「不安にならなくていい。ちゃんと治るし、退院もできる」
「うん」
「入院中はキスまでな」
「は?!」
なんてことないことのように言われて、驚いた。
頭を上げようとしてぐらんぐらんと目が回って、氷枕の上にぽすんと頭が後戻りする。
そんなオレを見て楽しそうに笑うから、力が抜けた。
「先輩」
「ん?」
どうせ今更だから、と、続きを口にする。
「そんな状態で、巻き込んでいいと思う?」
「入院がいつまでかわからなくて、その間はキス止まりだと浮気されるか?」
あんたじゃあるまいし。
ちょっとだけそう思ったけど、言わなかった。
っていうか、ぜんぜんそんなとこまでいってないし。
もっと手前のところ。
呆れるくらいに、どうしようもないところで立ち止まっちゃってるんだっていったら、この人はどんな顔をするんだろう。
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