4 / 9

第4話

「じゃなくて、そんな先のわからない状態で、その……告ったりとか、さ……」  照れくさいけど言葉を継いだ。  やっぱり、絶対オレ、熱で沸いてる。  そうじゃないとおかしい。  この人にこんなこと言うなんて、素面じゃあり得ない。  だから沸いてる。  ふむ、と考えるそぶりをする先輩。  ばれてるから。  あんたのその態度、絶対本気で考えてないだろ。  オレがぐるぐるして頭沸いてるようなこと口走ってるのを、ものすごく楽しんでるよな? 「チヨは俺の患者だからなあ……」  もったいぶった様子で先輩が口を開く。 「キス止まりが生殺しって思う奴もいるだろうけど、不埒な行為が健康になってからって思えば、チヨの場合、それが励みになりそうで……治りもよくなるんじゃないかと思うんだよね」 「は……?」 「うん、やっぱりそうだな。告白がお前の励みになるなら、巻き込むくらいしてもいいんじゃないかと思うよ。病院で再会してるわけだし、見舞いじゃないのだって知ってたんだろ? だったらそれくらいは覚悟の上で口説いてたんだろうし、さあ」 「励みにしていいの?」 「本人に聞いてみるといいよ」  まあ、熱があるときに考えるような内容じゃないよね。  先輩はそう笑ってオレの髪をなでつけ、もう一度ベッド周りをチェックしてから、カーテンを細く開けてくれた。  ちょうど、病室の入り口が見える部分だけを。 「じゃ、点滴終わったらナースコールして」 「ん」  先輩の姿がカーテンをすり抜けてドアの方に向かう。  去っていく背中に手を伸ばしたいと思ったのは、もう遠い過去の話。  ぼんやりと見送ってそのまま目を閉じる。  瞼が熱い。  ぷくころん、と耳の下で、氷が転がる音がした。 「……が」 「ちょっと、はりきりすぎて……」 「え……じょうぶ……」  会話をしている声がする。  かつて大好きだった人の声と、今心惹かれている人の声。  何を話しているのか気になったけれど、耳を澄ませているうちに意識が溶ける。  ざわりとした雑音と氷枕の氷の音と、自分の鼓動が大きく聞こえ始める。  まだ、寝入りたくはないのに。  こつ、しゅ。  こつん、しゅ。  こつ、しゅ。  聞き覚えのない音が部屋の中に入ってくる。  入院していて物音に敏感になった。  目を閉じてうつらうつらと過ごす時間が長いからかな。  それとも、カーテンで仕切られているとはいえ、他人と同じ部屋の中で過ごすからか。  看護師さんの足音や運んでくる医療器具を乗せたワゴンの音。  点滴のスタンド。  ストレッチャーの音。  食事が運ばれて来る音は、食器を回収する時とは、ワゴンの音が違う。

ともだちにシェアしよう!