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第4話
「じゃなくて、そんな先のわからない状態で、その……告ったりとか、さ……」
照れくさいけど言葉を継いだ。
やっぱり、絶対オレ、熱で沸いてる。
そうじゃないとおかしい。
この人にこんなこと言うなんて、素面じゃあり得ない。
だから沸いてる。
ふむ、と考えるそぶりをする先輩。
ばれてるから。
あんたのその態度、絶対本気で考えてないだろ。
オレがぐるぐるして頭沸いてるようなこと口走ってるのを、ものすごく楽しんでるよな?
「チヨは俺の患者だからなあ……」
もったいぶった様子で先輩が口を開く。
「キス止まりが生殺しって思う奴もいるだろうけど、不埒な行為が健康になってからって思えば、チヨの場合、それが励みになりそうで……治りもよくなるんじゃないかと思うんだよね」
「は……?」
「うん、やっぱりそうだな。告白がお前の励みになるなら、巻き込むくらいしてもいいんじゃないかと思うよ。病院で再会してるわけだし、見舞いじゃないのだって知ってたんだろ? だったらそれくらいは覚悟の上で口説いてたんだろうし、さあ」
「励みにしていいの?」
「本人に聞いてみるといいよ」
まあ、熱があるときに考えるような内容じゃないよね。
先輩はそう笑ってオレの髪をなでつけ、もう一度ベッド周りをチェックしてから、カーテンを細く開けてくれた。
ちょうど、病室の入り口が見える部分だけを。
「じゃ、点滴終わったらナースコールして」
「ん」
先輩の姿がカーテンをすり抜けてドアの方に向かう。
去っていく背中に手を伸ばしたいと思ったのは、もう遠い過去の話。
ぼんやりと見送ってそのまま目を閉じる。
瞼が熱い。
ぷくころん、と耳の下で、氷が転がる音がした。
「……が」
「ちょっと、はりきりすぎて……」
「え……じょうぶ……」
会話をしている声がする。
かつて大好きだった人の声と、今心惹かれている人の声。
何を話しているのか気になったけれど、耳を澄ませているうちに意識が溶ける。
ざわりとした雑音と氷枕の氷の音と、自分の鼓動が大きく聞こえ始める。
まだ、寝入りたくはないのに。
こつ、しゅ。
こつん、しゅ。
こつ、しゅ。
聞き覚えのない音が部屋の中に入ってくる。
入院していて物音に敏感になった。
目を閉じてうつらうつらと過ごす時間が長いからかな。
それとも、カーテンで仕切られているとはいえ、他人と同じ部屋の中で過ごすからか。
看護師さんの足音や運んでくる医療器具を乗せたワゴンの音。
点滴のスタンド。
ストレッチャーの音。
食事が運ばれて来る音は、食器を回収する時とは、ワゴンの音が違う。
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