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第8話
「まあ、それはさて置き」
「俺の気持ち、さて置かないでくださいよ」
「置くだろ、普通。そんでよ、枕もとの紙袋、とって」
「これ?」
「そう。やるからもってけ」
ベッドサイドの椅子からも手を伸ばせば届くところに、今日買ってきたものを置いておいた。
コイツが食いたいと言った、チョコレート。
手に取って中を確認したバカが、何とも情けない顔をした。
「……先輩、これもってけって……あの」
「お前が食いたいっていったんだろ」
「でも、今日、バレンタインデイじゃないですか。こんなんもらったら……」
「迷惑なら置いてっていい」
コイツの好意がオレの勘違いだったのかって。
さっきは先輩に巻き込んでもいいんじゃね、なんて言ってもらったけど、やっぱ駄目だったんじゃん。
反応を見てそう思った。
うん、なら置いて行ってくれたらいい。
見ていられなくていたたまれなくなって、よっこいせと体を起こして、紙袋を取り返そうと手を伸ばす。
「迷惑なわけないでしょ!」
病室だっていうのに、でかい声。
びっくりしてその顔を見たら、いい年した男が、涙目になってた。
って、えええええ?
「本気にしますよ」
「オレもちゃんと本気だけどね」
そう言ったら、今度はびしっと固まった
「せ、先輩?」
「お前が『健康的デート』もしたいとか、『白寿デート』したいから長生きしろって言ったんじゃん。だからオレは……」
「先輩」
「そのくせ、なんも言わないでヘタレてるから、オレが言ってやるよ。お前が好きだよ」
ポロリと一粒落ちた雫は、シーツに吸い込まれた。
オレも熱でグラグラしてるし、バカも座ってるのがやっとのはずで、せっかく盛り上がってんのに抱き合うこともできなくて、つないだ手に力を入れた。
指を絡めてつなぎなおして、お互いの手元に持ってって、順番に唇を落とした。
ああ、バカみてえ。
なのにどうしよう、泣きそうに嬉しい。
「で、どうしたんですかこれ」
興奮しすぎちゃだめですよ、また熱が上がっちゃうから寝てください。
思い出したように佐藤が言ったので、枕に頭をつける。
横になって顔がよく見えるように体の位置をなおす。
紙袋を嬉しそうにのぞいていた佐藤が聞くから、正直に答えた。
「買ってきたよ」
「先輩が?」
「そう」
「いつ?」
「今日。外出届出して、行ってきた」
「は? 今日?」
確認されてうなずいたら、慌てた顔で責められる。
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