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第8話

 翌日もまた、叶愛はクリスと一緒に観光した。昨日とは別の方へ足を向け、景色を楽しんだり普段は食べられない別の国の料理に舌鼓を打つ。  向こうでは米料理など出てこなかったのでこの世界に米がないのかと思っていたが、ここでは普通にメニューにあった。この国で作られているわけではなく、別の国から輸入しているのだという。旅行から帰ればまた食べられなくなるので、叶愛は昨日からずっと米料理ばかり選んで食べている。  馴染みのないクリスは、叶愛がはふはふしながら食べているオムライスを不思議そうに見ていた。 「叶愛、それ美味しいの?」 「うん。僕は好き」 「それなら私も食べてみたいな」 「はい、一口食べていいよ」  叶愛はクリスの方へ皿を差し出すが、彼は手を伸ばそうとしない。 「食べないの?」 「叶愛、あーんして」 「はあ?」  思い切り眉を顰めながらも、叶愛はスプーンに掬ったオムライスをクリスの口元へ運んだ。クリスは嬉々として口を開ける。 「んっ、うん、美味しいね、なんだか不思議な食感……」  クリスははじめて食べるそれを嬉しそうに味わっている。 「ありがとう、叶愛」 「別に」 「代わりに、私のも一口あげるね」  そう言って、クリスは自分が食べていた料理を同じようにスプーンに掬い、叶愛に差し出してきた。 「はい、あーん」 「んっ」  叶愛は躊躇いもなく口を開け、ぱくりと食べた。 「美味しい、叶愛?」 「うん」 「ふふ、よかった」  叶愛が素直に頷けば、自分で作ったわけでもないのにクリスは笑顔を浮かべ喜んだ。  すっかりクリスに食べさせられることに慣れてしまっている叶愛は、自分が人前でいちゃつくカップルのような振る舞いをしていることに全く気付いていなかった。周りからどう見られているかなど意識もせず、ただ純粋に食事を楽しんでいた。  そして叶愛が口元を汚せばクリスが自然な動作でそれを拭き、叶愛は大人しく受け入れる。  端から見れば、完全に二人は仲のいい恋人同士だった。  そんな風に見られているなど思いもしないで、食事を終えた叶愛はクリスに手を引かれてレストランを出た。  早めの夕食を終え、辺りはもう薄暗い。けれどクリスはホテルに帰らず、叶愛を広場へと連れていった。他にも人が徐々に集まってくる。 「ここでなにかあるの?」 「ここでランタンを打ち上げるんだ。ホテルからだと遠すぎてよく見えないし。折角なら叶愛と一緒にランタンを飛ばしたいなって」 「ランタン?」 「うん。叶愛はあまり興味はないかな? もうホテルに帰りたい?」 「そんなことないよ。僕、やったことないしやってみたい! ランタンの打ち上げ、生で見てみたい!」 「ほんと? よかった」  叶愛の反応に、クリスはふにゃりと頬を緩める。 (イケメンはいいよね、だらしない笑顔もだらしなく見えなくて! 僕だって前世では、どんな笑顔だって可愛く見えたのに……!)  不覚にもクリスの笑顔を可愛いと思ってしまった自分の気持ちを、叶愛は悔しさで誤魔化す。 「ねえねえ、あそこにめっちゃイケメンいるんですけど!」 「うわ、ほんとだ! なにあれ国宝級じゃん!」  不意に、そんな会話が背後から聞こえてきた。チラリと視線を向けると、若い女性の集団がクリスを見て黄色い声を上げている。 (国宝級? そんなの僕だって言われてたし!)  叶愛は心の中で張り合う。 「声かけてみよーよ、一緒に見れるかもよ」 「いーね! あんなイケメン、話せるだけでもテンション上がるし」 「よし、行こ行こ」  積極的な女性達は、一気にクリスとの距離を詰めてきた。  害はないと判断したのか、離れた場所に控える護衛は動かなかった。叶愛が言うのもなんだが、危機感が足りないのではないだろうか。  女性達が軽い口調で声をかけてくる。 「すみませーん、お兄さん、一人ですかー?」 (一人じゃないだろ!! 真横に僕がいるんだから!!) 「お兄さんもランタンの打ち上げに参加するんですよね? 私達と一緒にどうですかぁ?」  心の声は届かず、叶愛は女性達にぐいぐいと押し出される形で後退り、そのまま足首を軽く捻って尻餅をついた。  自分の惨めさに叶愛は愕然とする。 (ぼ、僕が……この僕が、こんな扱いを受けるなんて……!)  前世ではめちゃくちゃちやほやされて大切に守られ愛されていたというのに。それも最早過去の栄光でしかない。 (僕だって、ファンクラブとかあったし! こんなマナーのなってない会員なんて一人もいなかったし! 全員礼儀正しくて思いやりのあるいい子達ばっかりだったし!)  そんなわけのわからない対抗心を燃やしていると、自分を囲う女性達を掻き分けクリスが血相を変えて駆け寄ってくる。 「叶愛……!」  クリスは顔面蒼白で、叶愛の傍らに膝をつく。 「叶愛、大丈夫、叶愛……!?」 「いや、大丈夫だから……」  ちょっと尻餅をついただけで、大袈裟に心配されると居たたまれない気持ちになる。  女性達は「なにあれ」みたいな顔でこっちを見ていた。めげずに声をかけてくる女性もいたが、クリスはまるで聞こえていないかのように見向きもしない。 「叶愛、怪我はない? どこか痛いところは?」 「ちょっと足首捻ったけど、でも……」  大したことはないから大丈夫、と続ける前に体を抱き上げられた。  公衆の面前で横抱きにされ、叶愛は慌てる。 「ちょ、なにしてんの!?」 「もうホテルに帰ろう。すぐに手当てしないと」 「いや、大したことないんだって。ほんと軽く捻っただけだから。これくらいなら、痛みもすぐに引くと思うし」 「ダメだよ、痛いんだろう?」 「で、でも、ランタン……」 「それより、叶愛の体の方が大事。帰るよ」  クリスは有無を言わせず歩きだす。  女性達が焦った様子でクリスを引き止める。 「ええっ、ちょっと待ってよ、お兄さん!」 「その子、大丈夫だって言ってるじゃん」 「そーそー、だからあたし達と一緒にいようよ。その子も一緒でいいし」  クリスはピタリと足を止め、能面のような顔で振り返った。 「私は、私が心から大切にしている人を傷つけるような者とは話もしたくない」  声も、彼女達に向ける視線も、ゾッとするほど冷ややかだった。  吐き捨てるように言ってから、クリスは再び足を進めた。  こんな冷たい態度の彼をはじめて見た叶愛はびっくりしてしまう。クリスは王子で、だけど叶愛が王子に対するとは思えないほど無礼なことを言っても決して怒ったりしない。いつも穏やかな彼の冷然とした対応に、叶愛は呆然としたままクリスに馬車に乗せられた。ホテルに着くと、そこからまたクリスに横抱きにされて部屋まで運ばれた。自分で歩くと言っても、クリスは頑なに叶愛を下ろしてはくれなかった。  部屋に入り、クリスが捻った足首を手当てしてくれる。本当に大したことはなく、安静にしていればその内治ると伝えたのだがクリスに無視された。  床に膝をついたクリスが、ソファに座らされた叶愛の足をとり、丁寧な手付きで靴と靴下を脱がせる。靴下を脱がせるときにクリスの指が素肌に触れ、それだけで体が勝手にぴくんっと反応してしまう。  恥ずかしくて顔を真っ赤にすれば、気づいたクリスが叶愛の頬に口づけた。 「ちょっ、なにしてんの!?」 「だって叶愛が可愛い顔するから」 「してないから!」 「してたよ」  そんなやり取りをしながらも、クリスは手を動かし手当てを続ける。叶愛の足首に冷却シートのような物を貼り付け、包帯を巻いていった。包帯を巻くのもすっかり慣れ、あっという間に綺麗に巻き終わった。 「ありがと」 「治るまで、叶愛は自分で歩いちゃダメだよ」 「大袈裟だってば……」  包帯でしっかりと固定してもらったので少し歩くくらい問題なさそうだが、心配症のクリスがそれを許さない。  過保護過ぎて呆れてしまうけど、本気で叶愛の心配をしてくれているので拒絶はできなかった。仕方なくクリスに抱っこされて室内を移動する。  バルコニーに出てクリスはガッチリとした高級感溢れる一人掛けの椅子に座り、叶愛は彼に背を向ける形で膝の上に座らされた。 「叶愛、見てごらん」  クリスが指差す先に、たくさんの小さな光が地上から舞い上がっていくのが見えた。  その幻想的な光景に、叶愛は目を奪われる。 「わぁっ、すごい、あれ全部ランタン……!?」 「そうだよ」 「すごい! 綺麗……!」  無数のランタンが、空を飛ぶ。ひたすらに美しく、叶愛は目に焼き付けるようにただ見惚れた。  すると、クリスの残念そうな声が後ろから聞こえてくる。 「やっぱり、ここからだと遠いね……」  確かにここから見えるランタンの明かりは小さいが、数が多いので充分に壮観だった。しかし振り返って見ると、クリスは酷く落ち込んでいる。 「ごめんね、私のせいで……」 「別にクリスのせいじゃないじゃん」 「私のせいだよ……。傍にいたのに、叶愛を守れなかった……。叶愛との旅行が楽しくて、舞い上がって、叶愛のことしか目に入っていなくて、周囲への警戒を怠ってしまった……。もっと周りに気を配っておけば、あの女性達が近づいてくるのに気付けたのに……」 「いや、あれは僕の不注意でもあるし……」  叶愛は女性達が近づいてくるのに気付いていた。聞こえてくる会話から、強引そうだとはわかっていた。そんな女性達がクリスだけを目的に集団で近寄ってきたのだ。彼女達の眼中にない叶愛はその場から少し離れるべきだった。叶愛が邪魔者扱いされるのはわかりきっていたのだから。それなのに、叶愛はクリスの傍から離れなかった。離れるのが嫌で、意地になったようにクリスの横に張り付いていた。そのせいで、無理やり押し退けられて転んでしまったのだ。 「叶愛はなにも悪くないよ!」  クリスは声を大にして否定する。 「叶愛は楽しみにしてくれていたのに、私のせいで全部台無しになって……本当にごめん……」 「別に台無しになんてなってないから! 僕はそんな気にしてないし」  暗澹とした空気を纏い、深く肩を落とすクリスに慰めの言葉をかけるが、彼はすっかりへこんでしまっている。  叶愛はクリスのせいなどと思っていないので、このまま放っておくのは気が引けた。あまりにも落ち込んでいるので、元気付けなくてはと思ってしまう。 (仕方ないなぁ……)  叶愛は腰を捻り上半身をクリスの方へ向けた。そして身を寄せ、彼の唇にちゅ、と唇を触れ合わせる。  クリスは大きく目を見開き息を呑む。 「いつまでも落ち込んでないの! この僕がキスしてあげたんだから、とっとと元気出しなよ!」  頬を赤く染めながら、叶愛は照れを誤魔化すように偉そうに上からものを言う。 「叶愛……」  クリスの頬もじわじわと紅潮していく。感激したように瞳を潤ませ、がばりと叶愛に抱きついた。 「叶愛ぁ!!」 「ぅわっ……!?」 「嬉しい! ありがとう! もう一生唇を洗いたくないよ!」 「なに言ってんの」 「だって叶愛がはじめて! 叶愛からキスしてくれたんだよ!? この感触を忘れたくないっ」 「だから、いちいち大袈裟なんだよ……これくらいで……」  まさかこんなに喜ぶとは思わず、叶愛は正面に戻した顔を俯けた。  赤く熱を持った叶愛の耳に、クリスの唇が触れる。 「ひゃっ……!?」 「叶愛、もう一回して」 「んっ、やっ、調子に、乗って……!」  はむはむと耳を食まれ、叶愛はぞくぞくと背筋を震わせた。 「叶愛、お願い……」 「っ……」  耳に直接熱っぽい囁きを吹き込まれ、びくんっと肩が跳ねた。 「わ、かった、から、耳、や、やめ……っ」  叶愛は首を後ろに向け、耳を彼の唇から離す。  クリスは嬉しそうに微笑み、目を閉じた。 「ん」  と、完璧に整った綺麗なキス待ち顔を見せるクリスに悔しさを感じながら、叶愛はそっと唇を寄せた。ふにゃりと唇が重なる。  苦しいくらいに胸がドキドキして、頭がくらくらする。全身が痺れるようにじんじんして、ただ唇を合わせているだけなのに体が火照り、震える。 (こ、これは、慣れないことして、緊張してるだけだから……!)  キスは何度もされたけど、クリスが言うように叶愛からするのははじめてなのだ。  心臓の高鳴りは緊張によるものなのだと、叶愛は自分で自分に言い訳する。 「はい、終わり!」  押し付けていた唇をパッ離し、赤くなった顔を隠すようにまた前へ向ける。  後ろから回されたクリスの腕が、叶愛の体を抱き締めた。 「ありがとう、叶愛。すごく嬉しい」  上擦る声は喜色にまみれている。どうやらすっかり気分は浮上したようで、これなら叶愛もキスをした甲斐があった。寧ろ叶愛にこんなことまでさせて落ち込んだままなら怒っていた。  叶愛の後頭部にすりすりと頬擦りしながら、抱き締めるクリスの手がさわさわと胸元を撫でる。そして、臀部になにか硬いものが当たっている。 「ちょっ、クリス……!」 「うん」 「『うん』じゃなくて! あっ、や、やだ……っ」  服の上から乳首を撫でられ、びくんっと肩が跳ねた。身動いだことで、ごりっとお尻に硬いものが擦れる。 「ふふ、叶愛、自分で擦り付けてるみたいだね」 「違っ、ちがぁうぅっ、やだもう、なんでおっきくしてるの……っ」 「叶愛からキスされたんだよ? おっきくならないわけないよね?」 「ばかぁっ、も、触るなってばぁっ」  クリスは真面目な声で当然のことのように言ってのけるが、こんな風になるとわかっていたらキスなんてしなかった。  動けばどうしたってクリスの陰茎を刺激してしまう。それを避けようとすれば満足に抗うこともできず、服のボタンを外されてしまい、隙間から入り込んできた手が直接突起を撫ではじめた。指の腹でこりゅんっと転がされ、甘い快感に叶愛の体は蕩けていく。  クリスの手ですっかり性感帯にされてしまった乳首は、すぐにつんと尖って更なる刺激を待っていた。  それを見て、クリスは興奮したように熱い吐息を漏らす。 「ああ……可愛いね、叶愛の乳首。私に摘まんでほしくて、すぐに硬く膨らんで……」 「ち、違うぅ……変なこと、言わないで……っ」 「違うの? でも、叶愛は乳首くりくりって扱かれるの好きだよね? こうやって、」 「んあぁんっあっあっんんんっ」 「軽くごしごししただけで、いっぱい感じてびくんびくんってなっちゃうもんね」 「あっあっやあぁっ、そんなに、しちゃ、あっあぁんっ」 「乳首を可愛がってあげたら、おちんちんもすぐ同じように硬く膨らんじゃうしね。ほら」  下肢に片手を伸ばし、クリスは叶愛のペニスを取り出す。そこは彼の言う通り、既に張り詰め勃ち上がっていた。  ぴんっと反り返ったペニスの先端を、クリスが指でつつく。 「んゃあっあっあんっ」 「ほんとに感じやすくて可愛いね。ちょっと弄っただけで、もう蜜が溢れてきた」  じわりと滲んだ先走りを、ぬるぬると塗り込めるように先端を撫で回される。  強い快感に、叶愛はクリスの腕にしがみつき身悶えた。はしたなく腰が揺れてしまうのを止められない。 「やっああぁっ、やだ、こんなとこでぇっ」  叶愛は羞恥に涙を浮かべ、いやいやとかぶりを振る。  ここはバルコニーなのだ。外だ。こんな場所で痴態を晒し淫らな声を上げてしまうなんて、恥ずかしくて堪らない。  周囲にはバルコニーを覗けるような高い建物はない。けれど、下の階の利用者がバルコニーに出ていたら、そこまで叶愛の声が聞こえてしまうかもしれない。  そんな叶愛の不安を察したようにクリスが言う。 「大丈夫だよ、叶愛。このホテルの高層階は全て私が貸し切ってるから。下の階には誰もいないよ」 「えっ……」 「叶愛の可愛い声を聞くのも、可愛い姿を見るのも私だけだよ。他の誰にも、ほんの少しだって聞くことも見ることも許さない。だから安心してね」  言いながら、叶愛の耳の裏をねっとりと舐め上げる。  安心させたいのなら部屋の中に戻ってくれるのが一番なのだが、そのつもりはないようだ。  安心して乱れていいと言わんばかりに、クリスは叶愛のペニスを握り込みくちゅくちゅと上下に擦り上げる。ペニスを刺激しながらちゅぱちゅぱと耳朶を舐めしゃぶられて、ぞくぞくっと背筋に震えが走った。 「ふぁっあっあっあっ」 「気持ちよさそうな声……。太股ぷるぷるして、可愛い」 「んっやっやぁっあんっ、も、もぅっ、んっひっ」  クリスは安心していいと言うけれど、まともな羞恥心を持ち合わせている叶愛はやはりこんなところで射精なんてしたくない。必死に我慢するが、クリスがそれを阻止するように手の動きを速くする。射精感が込み上げ、とぷとぷと先走りが溢れ出した。 「んやぁあっあっ、やっ、出る、出ちゃうぅっ」 「出していいよ、叶愛。ほら、ぴゅーぴゅーって。気持ちよくなっていいんだよ」  熱い吐息を舌と共に耳の中に吹き込まれる。ちゅぽちゅぽと淫靡な音を立てながら耳に舌を抜き差しされて、叶愛はびくんびくんっと腰を浮かせた。 「ぃっ、く、いっちゃぁっあっあっあっあっあ~~~~っ」  嬌声を上げ、叶愛はクリスの掌に精液を吐き出した。  強烈な快感が過ぎ去り、放心したようにただ荒い呼吸を繰り返す。  真っ赤になって熱を持った叶愛の耳に、クリスは柔らかく歯を立てた。 「んひぁんっ」 「気持ちよかった? たくさんぴゅーぴゅーできたね」 「やだぁっ……恥ずかし、こと、言わないで……」 「ふふ。叶愛は恥ずかしいこと言われると感じちゃうもんね」 「ち、がぁっ……あっ、や、やめ……っ」  クリスは力の入らない叶愛の体を支えながら、器用にズボンとパンツをずり下げる。膝の辺りまで下ろされ、陰部を剥き出しにされた。  露になった後孔に、放った精液を塗りつけられる。 「んひっあっ、やだぁっ」  バルコニーで致すつもりなのか。焦る心とは裏腹に、後孔はひくひくと期待するように開閉を繰り返す。ともすれば、自らクリスの指を飲み込んでしまいそうだった。 「叶愛のここ、早く私の指を食べさせてって言うみたいにぱくぱくしてるね」 「ちが、うぅっ、そんなの、してないからぁ……っ」 「でも、ほら、少し指を埋めただけで、中がきゅんきゅんって動いてるよ?」 「んっんっ、やっ、も、ばかぁっ」  わざと羞恥を煽るようなことを言われ、叶愛は恥ずかしさに泣きそうになる。  恥ずかしいのは、彼の言葉が正しいからだ。浅ましい自分の体の反応に、叶愛はこれ以上ないほどに顔を赤く染めて悶えた。  そしてクリスは恥じらう叶愛の姿を見て、劣情に駆られたように息を乱す。 「可愛い、叶愛、叶愛……っ」 「ひやぁっあぁんっ、耳、やぁんっ」  ちゅばちゅばと耳をねぶりながら、クリスは後孔の指を奧へと埋め込む。内壁は悦ぶようにそれを受け入れ、蠢いた。 「んひぁっあっあっひんんっ、そこ、やぁっ、あっあっ、らめぇっ」  指が前立腺の上をぐりゅっと滑り、強い刺激に叶愛は反射的に首を振り立てる。  するとクリスはピタリと指の動きを止めた。 「ダメなの? じゃあここは擦らないようにする? 叶愛の大好きなところは避けてぐちゅぐちゅする方がいい? 叶愛はもどかしくて泣いちゃうだろうけど。擦ってほしくなって腰もじもじしちゃうかもね。叶愛が可愛くお尻を揺らしても、擦らないように周りだけなでなでしてあげようか。そうしたら、叶愛はきっともっと泣いちゃうね」 「ひっ、うぅ……っ」  囁く声はとても甘く、けれど内容はあまりにも意地悪だ。  ここで意地を張れば、クリスは本当に叶愛の感じる箇所を避けて延々弄り続けるのだろう。そして叶愛は泣かされることになる。もどかしくて、感じる膨らみを擦ってほしくて堪らなくなって、泣きながら腰を振る羽目になるのだ。  それがわかったから、叶愛は羞恥に肩をぷるぷる震わせつつ、正直にねだるしかなかった。 「や、だめじゃない、から……そこ、擦ってっ」 「そこ?」 「と、叶愛の、気持ちいい、ところっ……」  クリスに教え込まれたおねだりのセリフを口にすれば、彼が満足そうに微笑むのが見なくてもわかった。 「可愛い……上手におねだりできたね」 「はっあっあっんっ……」 「たくさん可愛がってあげるよ」 「んあぁっあっああんっ」  二本目の指が差し込まれ、こねこねと膨らみを捏ね回される。  内部の膨らみを揉み込みながら、クリスはもう片方の手で胸の突起を同じように刺激しはじめた。  前立腺と乳首を一緒に弄り回され、叶愛は強烈な快楽にあられもない嬌声を上げる。 「ひあぁっあっあんっ、んっひっひはぁあんっ」 「両方こりこりされて気持ちいい? 叶愛の蕩けた声、可愛いね」 「あっひっ、待っ、ぁああっ、いくっ、また、いっあっあっあっあ────っ」  叶愛はぎゅうぅっと爪先を丸めて絶頂に達した。ぶるぶると全身を震わせながらも、精液は出なかった。ペニスは勃起したまま、透明な蜜を滴らせている。  射精しないで達くなんて、そんな快感を叶愛は知らなかった。頭の中がどろどろに溶けてしまうような、全身が性感帯になってしまったような、そんな途方もない快楽を教え込まれてしまった。クリスの手で覚えさせられていく。  きっともう、後戻りできないほどに体を作りかえられてしまった。知らなかった頃には戻れないのだ。  絶頂に痙攣する肉筒を、指で掻き回される。終わらない快感に体は歓喜し、叶愛は涙を流して喘ぎ続けた。 「んひっひっあっ、きもちぃっ、あぁっあっひぃんっ」 「何回もイッて、もうわけわかんなくなっちゃってる? 叶愛の顔も中も、とろとろに溶けちゃって……ああ、可愛いよ、叶愛」 「あんっんっ、くりすぅっ、はっひぅんっんあぁっ」 「奧の方、むずむずしてきた? 一生懸命私のものにお尻を擦り付けてきて、いやらしくて可愛いね」  耳を甘噛みされ、叶愛はびくりと背中を反らせる。  体がクリスの熱を求め、それを埋めてほしいと、無意識にねだるように彼の下肢に臀部を押し付けていた。 「私のこれ、入れてほしいの、叶愛?」 「ほ、しぃっ、入れて、クリスの、おちんち、んああぁっ」  快楽に頭を侵された叶愛が恥じらいも忘れ素直にねだれば、ぬぽんっと指を引き抜かれた。  クリスは叶愛の膝の裏を掴み、ぐいっと下半身を持ち上げる。綻んだ後孔に、取り出されたクリスの肉塊が押し当てられた。持ち上げられた下肢が下ろされ、ぬぷぬぷぬぷっと陰茎が埋め込まれていく。 「あっはっあっひはああぁっ」  ごりゅんっと亀頭で前立腺を抉るように擦られ、その刺激に叶愛は射精した。ぴゅっぴゅっとペニスから精液が飛び散る。 「可愛いなぁ、私のものを入れただけでミルクを漏らすようになっちゃって……本当に可愛い……」  うっとりと感嘆の溜め息を吐き、クリスはびくびくと蠢動する肉筒を自身の欲望で深く貫いた。 「ひあっあっああぁっ」  胎内にみっちりと肉棒を咥え込み、叶愛は感じ入ったように胴震いする。その瞳には確かに愉悦が浮かんでいた。 「んあっあっ、お腹、いっぱい、なってるぅっ」 「そうだね。叶愛の中、私でいっぱいになってるよ」 「ひっはっ、あんっ、クリスの、熱いのぉっ、おっ、奧まで、入って……っ」  ずんっずんっと下から突き上げられ、亀頭が奧へとめり込んでいく。 「んひっあっ、らめ、らめぇっ、それいじょ、奧らめぇっ」 「ダメ? 叶愛のこの奧に、私を入れてほしいな」 「やらぁっ、あっひぃんっ、こわい、深すぎるのっ、こわいから、らめぇっ」  とちゅとちゅとちゅとちゅっと小刻みに最奥への入り口を亀頭でノックされ、叶愛は涙を零して無理だと訴える。痛みはない。感じるのは快感だけだったが、腹の奧の奧を暴かれる恐怖に叶愛は怯えた。  クリスはそれ以上無理強いはせず、ごりごりと入り口を擦るにとどめた。 「あぁっあっひぅっ、おくぅっ、ぐりぐりってぇ、あっあっあっあんっ」 「擦るのはいい? 奧ぐりぐりって気持ちいい?」 「んひっあっ、いいっ、きもちいいぃっ」  亀頭をごりゅごりゅと擦り付けられ、叶愛は陶酔した顔で甘い嬌声を上げる。そうして擦られることで徐々にそこが緩み、迎え入れるために慣らされていることに気づかずに。  絶頂を迎え快楽に酔いしれる叶愛を背後から見つめ、クリスは唇に弧を描く。 「あっあっあっひぁんっ、んっあっ、くりすぅっ」 「ああ……私も気持ちいいよ、叶愛。中が蕩けて、すごく気持ちいい……っ」 「ひあぁっ、あっひっはっあっあっあっあぁっ」  クリスは叶愛の腰をがっちりと掴み、激しく律動をはじめた。  腸壁全体を繰り返し擦り上げられ、叶愛は何度も絶頂へと導かれる。  内部が陰茎を扱くようにきつく締め付け、やがてクリスも低く呻いて射精した。  どぷどぷどぷっと、大量の体液を注がれる。一滴残らず搾り上げるように、叶愛は無意識に後孔をきゅうきゅうと蠢かせていた。  クリスは叶愛の肩に顔を埋め、荒い息を吐き出す。  吐息が肌を擽り、叶愛はぴくぴくと戦慄いた。  ぼんやりと見やった遠くの空には、ランタンの光が無数に輝いている。ここから見えるそれはもう随分小さくなってしまっていたが、目に映る光景は変わらずに美しい。  叶愛は純粋に、この綺麗な光景を見られたことが嬉しかった。  体に回されたクリスの手に手を重ねる。 「ありがと、クリス」 「? なにが?」 「色んなものを食べて、色んなものを見られて、すごく楽しい。旅行に連れてきてくれたクリスのお陰だから、ありがと」 「叶愛……」  素直に感謝を伝えれば、クリスは感極まったようにぷるぷると震えていた。  ぎゅうっと叶愛を抱き締め、ぐりぐりと首筋に顔面を擦り付けてくる。 「うわっ、ちょ、擽ったい……っ」 「叶愛、叶愛、私の方こそ、一緒に旅行してくれてありがとう! 私も叶愛と旅行できてとても楽しくて幸せだよ!」 「……だから、いちいち大袈裟なんだって……」 「大袈裟なんかじゃないよ! 寧ろこんなんじゃ全然伝え足りないくらい感激してるんだから!」 「そしてだからなんで入れたまままたおっきくするんだよ……っ」 「今回は確実に叶愛の責任だと思うよ?」 「違うしっ……あっ、もう、やだ、擦れるぅ……っ」  一体なにがクリスの琴線に触れるのかわからない。発言は慎重にしなくてはならないのだと胸に刻みながら、叶愛は思い出深い夜を過ごした。  

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