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一、迷い込んだ場所
走っても走っても、追いかけてくる僧兵たちの罵声、怒号……。
左肩に受けた矢が、地を蹴るたびに深く食い込む。
背中に受けた創傷から、心臓の鼓動と共に大量の血が吹き出す。
白い狩衣は血と泥が滴り、翔ぶように駆けるこの両の脚も、だんだんと地に引きずられるように重くなる。
ここで、死ぬのか……? 人間に殺されるのか?俺は……。
死にたくない! こんなところで、死にたくない……!
母上、父上、怖いよ……! 怖い……!
✿
目を覚ますと同時に、飛び起きた。
辺りを見回すと、そこは明るく陽の入る清潔な六畳間だった。床の間には小さな白い花が活けてあり、開け放された障子の向こうには、木々の群れと晴れ渡る青い空が見えた。
少年の戸惑いとは不似合いな清々しい風が部屋を通り抜ける心地よさは、まるで現実感のない夢の中のようであった。
――ここは、どこだ……? 俺は僧兵共に囚われているのか? それにしては静か過ぎる。一体ここは、どこなんだ。
ふと、ぱたぱたという軽い足音が聞こえて来た。
少年は咄嗟に身構えるが、脳天まで貫くような痛みで一気に身体の力が抜けてしまう。
左肩に受けた、僧兵の破魔矢の傷だ。
足音の主がこんなに近づくまで、まるで気配感じ取ることが出来なかったことに驚愕し、同時にひどく不安になる。
しかし、ひょいと顔をのぞかせたのは、齢十ほどに見える小柄な少女だった。
少女は起き上がっている少年を見て足を止めかけたが、おっかなびっくり部屋に入って来ると、一定の距離を保ちつつその枕元に一膳の粥を置いた。
そして、はたと動きを止める。
「あっ、血が出てる……」
少年もつられて肩先に目をやると、傷から滲む赤い色が見えた。少女は立ち上がり、「ちょっと待ってて!」と言い置き、駆け出して行ってしまった。
少年は用心深く辺りを見回しながら、力の入らない身体を庇いつつ、仕方なく褥の上に座り込んだ。
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