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二、青葉国棟梁 大江光政
「目を覚ましたのか、気分はどうかな?」
小具足姿の大柄な男が立っていた。萌黄色の鎧直垂を身に着け、引立て鳥帽子に白い鉢巻が凛々しい、見目のいい若者である。好奇心に溢れた大きな眼と太い眉は、その男の性質を表すかのように真っ直ぐで曇りがない。
年の頃は二十過ぎといったところだろうか。筋肉質な身体つきは逞しく、さぞかし華やかな鎧が映えそうな佇まいだ。
――どこの武将だ……?
と、少年は男の全身を素早く観察し、痛む左肩を庇いながらじりじりと距離を取って後退る。
男は、射殺すような目つきで睨みつけてくる少年に向かって両手を挙げ、ひらひら振って見せながら「そう怯えるな。何もしない」と言った。
部屋の隅に飛び退って丸くなり、手負いの獣の如く殺気の満ち満ちた鋭い目でこちらを睨みつける少年を安心させるように、男は微笑んで見せた。
「思ったより元気そうじゃないか。俺がここへ連れてきた時は虫の息だったのに」
男はさっきまで少年が寝かされていた褥の傍らに座り込むと、小首を傾げてその顔を覗き込んだ。
「こうしてみると、ほんの子鬼よ。おなごのような顔をしておるな。歳はいくつだ?」
「……」
少年は、人ではない。
常人離れした蒼白な肌、波打つ長い銀髪。そして、薄暗がりの中でぎらりと光る猫のような黄色い目は、どう見ても人間のものではない。
小柄で痩せた体躯にはおよそ似合わない鋭く伸びた鉤爪を、床板に突き立てて四肢を突っ張っている姿は、怯えた白い子猫を彷彿とさせる。
なおも警戒を解かない少年に苦笑して、男は先に名を明かした。
「俺はこの青葉の棟梁、大江光政だ。小鬼よ、お前の名は?」
「……」
「言葉が分からぬか?」
「……分かる。馬鹿にするな」
「ははっ、喋れるじゃないか。名を教えてはくれないか、話がしにくい」
「千珠 、という」
「千珠、か。雅な名だな。ほら、もう少し近くへ」
「ここはどこだ。俺をどうするつもりだ」
「お前、かの有名な白珞 族だろう?」
千珠と名乗った少年は、部屋の隅で縮こまったまま、鼻を鳴らした。
「……何故それを問う」
「そなた、この俺に仕えぬか?」
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