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四、時代

 時は明応九(1500)年、葉月の暮。東西を分かつ大戦の最中(さなか)である。  明応元年水無月の頃。日向灘及び駿河沖を震源とした大地震が日本国を襲った。日本国全土を揺らしたと言っても過言ではないこの大天災は、人々を大いに恐れさせ、惑わせた。  多くの人死(ひとじに)が出て、当て処のない怒りと悲しみが人々を苦しめていた。  この厄災は神の怒りのせいか。  何故に大地の怒りを買ったのか。  人心は荒れ、国家としての統制は崩れ、その混乱に乗じた強者達が各地で乱を起こす、そんな時代だった。    次第にこの国の勢力は二分していく。  天孫降臨以来、神の血を繋ぐ神武天皇の血族たる現天皇、後柏原天皇を御旗とし、朝廷を守らんとする西軍。  一方、東国を武力で制圧し、のし上がった難波江(なばえ)一族棟梁、難波江利治(としはる)率いる東軍。   帝を擁している西軍に義があるものの、荒くれ者の多い東軍軍勢に西軍は常に押され気味であった。  このままでは、いずれ早いうちに帝を奪われてしまう……そんな悪い予感が西軍の中に漂い始めている。  帝を奪われ、難波江利治に高位が賜われてしまえば、この国は武力でしか物事の道理が通らぬ、荒れ果てた国となるであろう。  そんな危惧が人々を追い詰め、さらにその心を暗くしていく。  そんな時代である。

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