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三、怪しい小僧

 ――この城だ。この城の中から、ものすごい妖気を感じる。  山を抜け、町の片隅で一晩過ごした旅装束のその者は、三津國城の門前に来ていた。小柄な身体に大きな編笠という不釣合な格好、黒の着物と袴はあちこち破れ砂埃に汚れ、近くを通り過ぎる人々には胡散臭げな眼差しを向けられる  そんなことはお構いなしに、その人物は門を守る二人の兵に近づいて行った。 「怪しい奴、何の用だ」  二人は厳しい顔を更に渋くして、手にした薙刀をその者の前に交差させ、行く手を阻む。 「私は、旅の者でござんす。この城の中から、不穏な気を感じるのですが、何かお困りなことはあるまいか」  二人は目を見合わせて、「不穏なのは貴様だ。この城は守られている。とっとと帰るがいい」「そうだ、小汚い輩に気にしてもらう謂れもない、帰れ」と、にべもなく言い渡す。  その者は、ふと自分の服装を見下ろしてはたと気付く。ぼろぼろに汚れた装束に、擦り切れた草履……必死でここまで来たため、格好などには構っている余裕などなかったが、たしかに怪しまれても不思議ではない汚らしい格好だ。 「しかし、何か起こってからでは……」 「しつこいぞ、この国は軍神様に守られているのだ。余計な世話は結構だ」 「軍神……?」 「おい、あんまり外の者に言うなと命令されているだろ」  口を滑らしたらしい兵が、もう一人の男にたしなめられている。その男は咳払いをすると、さらに大声で言った。 「とにかく!もう()ね!こんな怪しい奴、城に入れるわけにいかぬ!」 「……また、来ます」  その者はその場から一旦引きつつも、"軍神"という言葉に引っ掛かりを覚えていた。  ――神なものか、これはただならぬ妖気である。 彼らも、ひょっとしたら操られているのではないだろうか……?  旅人は顎に手を当てて考えながら、城下町を歩き始めた。どこか、城の中を覗ける場所がないかと探しながら。

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