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序
夢を見た。
目に映るのは、吹き上げる血飛沫と、肉の裂け目の赤い色。
まるで、腐り落ちる寸前の柘榴のような、淫靡な色。甘く芳醇な香りを匂い立たせながら、ぼたぼたと崩れ落ちてゆくどす黒い赤。
かの戦で、俺の手によって奪われた数多の命。
怨みがましい目線。
恐怖に見開かれた虚ろな目の中にある、果てのない闇。
俺を奈落へと誘うような、深い、昏 い、闇。
しかし俺は、自らの創り上げた地獄の中で、笑っている。勝ち誇ったように、死体の山を睥睨しながら。
儚いものだ。
この鉤爪のひと振りで、消えてゆく脆弱な命。
力無きものは、力持つものに喰われゆくのがこの世の理。
――そのような目で俺を見上げたところで、何になる。
お前たちはここで朽ちてゆくだけの、くだらない肉塊に過ぎないのだ。
怨め、恐怖しろ、泣き叫べ……!!
俺は嗤う。心から、愉しげに。
――もっと、血を浴びたい。もっと、肉を喰らいたい……!!
俺は吼える。
衝動と本能に身を委ね、自らを鼓舞するように。
殺す、殺す、殺す……!!
死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!
✿
「く、ぁっ……!!はぁっ……!はぁっ……」
荒い呼吸と共に目を開くと、そこには見慣れた天井があった。
がばりと起き上がり辺りを見回すと、そこは自分の部屋だった。
ぐっしょりと汗に濡れた衣は重く、心臓はばくばくと暴れ回っている。胸を押さえ、千珠は大きくため息をついた。
――もう何度目だ。こんな夢を見るのは。
夜顔の憎しみに満ちた妖気を引き受けてからというもの、記憶の中に眠る戦の記憶に脅かされ、感じたこともないほどの凶暴な気持ちに身体中が支配される。
夜顔の妖気は一ノ瀬佐為によって封じられているのにも拘らず、夜顔の抱えていた心の闇は、千珠の心をじわじわと蝕んでいるのだ。
千珠はもう一つため息をついて、両手で目を覆った。
視界を遮った所で、見えなくなるものなど何一つもないことを知りながら。
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