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終話 うたごえ

 夜顔は、暖かな布団の中で目を覚ました。  ぴちち、と燕の歌う声に、夢から現へと引き寄せられたのだ。夜顔は笑顔を浮かべ、その可愛らしい声のする方へと誘われてゆく。  隣で眠っている藤之助を起こさないように、静かに戸を開いて外へ出た。  朝日が登りはじめた森の中は、ぼんやりと立ち込めた霧の中に光の筋が浮かび上がっている。  ――きれい。きれい。  夜顔は、美しい風景の中へと駆け出してゆく。  黒い燕が頭上を飛び回るのを、夜顔は笑顔で追いかけた。  自然と、笑顔が溢れる。  燕たちはひとしきり森の中を飛び回った後、二人が住み着いている小屋の軒下へと、すいと入っていった。  夜顔は燕の巣を見上げて、手を伸ばそうとする。 「こら、だめだよ、夜顔」  のっそりと起きてきた藤之助が、夜顔を嗜める。 「だめ?これ。とり……」 「これはつばめ、と言うんだよ。この中で雛が育っているんだ、触っちゃ駄目だ」 「つばめ」 「そう、つばめだよ」  藤之助はにっこりと笑って、少し背の伸びた夜顔の頭を撫でた。夜顔もにっこりと笑い返す。 「ここから大きくなって、空を飛んでいくからね。見守ってあげような」 「うん!」  夜顔は朝日に負けぬきらきらとした笑顔を浮かべて、燕たちが再び、歌いながら空へと飛び立ってゆくのを見上げていた。  ぴちち、ぴちちと、楽しげに歌いまわる声が、夜顔を笑顔にする。  明るい木漏れ日の中、元気に飛び回る小さな小鳥が、青空の中を自由に羽ばたく。  くるくる、くるくると、空に溶け込んでいくように。  異聞白鬼譚【七】ー燕と夜顔ー  ・  終  

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