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二十一、仮初めの安堵

 夕暮れ前に浮丸がふらふらと戻ってくると、立浪と淳之介は揃って茶を飲んでいた。佐為は例のくノ一の見舞いへと遅ればせながら出かけており、そこにはいないようだ。    それを見て安堵した浮丸は、人知れず大きく息を吐きだした。ひとまず、この二人の前でなら動揺も隠せよう……。 「どこ行ってたんや、浮丸」 と、立浪がのんびりとそう尋ねる。淳之介は何も言っていないのだろう、おずおずと目を上げて浮丸を見ている。 「ちょっと散歩です。豊かで美しい国ですね」 と、浮丸はそつなくそう言った。 「まったくだ。都ほどごみごみもしてへんし、穏やかでええ国やなぁ」 と、立浪。 「歩き回っていたら、わたくしようやく眠気がやって参りました。少し早いですが……もう床に入らせていただいてもよろしいでしょうか」 「おお、ええよ。明日はまた長い道のり歩くんや、しっかり休んどけ」 「ありがとうございます」  浮丸はさらに安堵した。これならば、佐為と顔を合わせずに済む……。  夜中まで床の中にいて、厠へ行くと見せかけて札を貼り付けに行こう。そしてそのまま、ここを去れば良い……。  浮丸はせかせかと布団の支度をしながら、そんな算段を立てた。  早くこの禍々しい札を手放したい。  早くこの恐ろしい企てから、身を離したい……。  浮丸の頭にはそれしかなかった。  切羽詰まった表情を浮かべている自分を、淳之介がじっと見つめていることにも気づかずに。

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