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VACATION 第2話
広い芝の丘を、石田は無邪気に、側転や宙返りをしながらはしゃぎ回る。
その体が空中で回転し、ふと着地に失敗してしたたかに背を打ちつける。それでも石田のはしゃぎようは止まらず、痛みさえ笑いに換えて、ごろごろと体を横にして転がっていく。
そうして木陰まで来て、ようやく仰向けに寝転がった。
「おーい、背中大丈夫?」
ゆっくりと追いついてきた秀明が、仰向いた石田を覗き込む。
「へーき」
「淳がそんなに身軽だと思わなかった。運動神経いいんだね、いいなぁ」
羨ましそうに石田の隣に腰を下ろした秀明が、早速のようにポケットから煙草を取り出す。その背中にすかさず、石田の膝が入った。
「イテッ」
「こんなとこまで来て肺汚すの反対ー。それにお前の場合、運動神経云々やのうて、煙草と運動不足のせいやろ」
グッサリと体力のなさを指摘されて、秀明は渋々、煙草をポケットに収めた。
「禁煙してくれへんかなー。長生きしようや、秀明ー」
「……禁煙したって、淳みたいにはしゃいだりできませんよ俺は」
ニコチンの代わりに澄んだ空気をたっぷり吸い込んで、秀明も大の字になって芝に寝そべる。
木漏れ日がチラチラと眩しく、眇めた目はやがて閉じた。日差しは平地と同じく強いけれど、木陰に入ってしまえば乾いた風が肌に心地よい。
「涼しい…なんか寝ちゃいそうだね」
すっかり落ち着いてしまった秀明の老け込みように、隣の石田がクスクスと笑いをもらす。
「オヤジやなぁ。俺はあかん、こんな広いとこ来たら、遊びたなってしゃーない。童心に返るってことやな、これが」
「…返ってるんじゃなくて、普段から子どものままなんじゃないのー?」
「なにおー。失礼な奴」
口を尖らせて言いながら、石田も少し疲れたのか、頭の下に手を組んで目を閉じる。
二人とも黙ってしまえば辺りはひたすら静かで、俄かに渡った風が頭上の木の葉をザワザワと鳴らした。
「…あの二人、何事もなさそうでよかったな」
不意に、石田が静かに声をかけた。
「うん?」
「柴崎さんから、どうしても俺らにも来てほしいって言われたときは、また何かあの二人の間に、二人きりじゃ旅行もできんような問題でも起きたんかと思って、心配したけど。べつに何も問題はなさそうやし、むしろ俺ら、お邪魔やんな」
ハハハ、と秀明は苦笑する。
「もう、俺らもあの二人に関しては心配性だよね。保護者並に」
「そうやなぁ、何かと気ぃ揉んできてるからな。また何かあったんかと思うとめっちゃ心配になんねんな」
自分たちの過剰な老婆心を、二人は笑った。
「けど、じゃあなんで俺らを誘ったんやろ?」
「さあ。でもまあいいじゃない、俺たちだけじゃ、こんなところに避暑旅行には来られなかったんだからさ」
「…こんな豪華じゃなくてもええから、今度は俺ら二人で来たいなぁ」
石田の呟きに、秀明が体を返してうつぶせ、そのまま石田の傍へ這っていく。
「あの。ちゅーしてもいいですか」
二人きりの旅行を望んだ石田の言葉が嬉しかったのか、唐突にふれ合いを求める秀明に笑みを返し、石田は口づけを受け止めた。
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