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声がどんどん沈んでいるのが、自覚するぐらいに分かった。
やっぱり、一番楽しみにしていたことだから、自然とそうなってしまう。
自嘲気味に笑った。
葵人がそんな表情をしているのだろう、目の前にいる女中が、くっつかんばかりに眉を下げていた。
口を少しばかり開けて、声を掛けようか、しかし躊躇っているらしく、迷うような素振りを見せていた。と、少ししたのうち、一度キュッと閉じたかと思えば、こう告げた。
「葵人様が飾ってください」
「………………え?」
何かの聞き間違いだろうか。
その意味を込めて、目を丸くさせながら訊き返すと、「飾ってください」と葵人の手を取って、こちらに星を渡した。
凹凸のある感触が手に伝わる。
「いい、のですか……?」
すると、女中はにこっと笑った。
「だって、葵人様のいかにも自分がやりたいというお顔を見せられましたら、飾らせてあげたくなりますわ」
「僕、そんな表情を……」
ふいに手元に置かれた星に目を落とした。
表面に光沢があるので、自身の呆然とした表情が映し出されていた。
兄と一緒に飾っていた時も、もしかしたら、そのような表情をしていたのかもしれない。だから、兄はよりそうさせた。
兄さん。
心の中でよく呼んでいた言葉を呟く。
今になって兄の気持ちを分かってしまうだなんて。
何もかも遅すぎた。
両手で持ち直した星を、ぎゅっと握る。
今、何かに掴んでいないと涙腺が緩みそうだった。
「さあ、葵人様。私は脚立をちゃんと持ってますから。安心して飾ってください」
「はい。ありがとうございます」
「ふふ、素敵な笑顔ですね。その笑顔、是非とも碧衣様に見せたいものです」
そう言われて、少しばかり頬を赤らめた。
ちなみに碧衣は、女中らの手の届かない壁の飾り付けを手伝いに、葵人の元から離れていた。
その時、去り際に名残惜しそうに、何度も葵人のことを見つつも、同時に特に碧衣の母──葵人にとっては義母──の言うことは聞くなと釘を刺されてしまったが。
その義母は、クリスマスケーキを作るために台所にいる。
恐らく、大丈夫であろう。
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