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ツリーに置いてあった脚立に足を乗せる。
一段一段登る度に胸が高鳴っていく。
ギシ、ギシと軋ませ、脚立の一番上へと昇った。
しかし、やっぱりそうだった。自分の身長では楽に届きそうにない。
限界まで背伸びを、手を伸ばし、ツリーのてっぺんに星を乗せようとする。
あともう少し。もう、少し……。
と。突然、大きくバランスを崩した。
「…………あ…………っ」
小さく声を上げていた時には、宙に投げ出されていた。
下からは、葵人の名を悲鳴混じりに叫ぶ声が聞こえる。
そこそこの高さのあるから、ここから落ちたら……。
どうすることも出来なくて、目を閉じた。
「葵人っ!」
女中ではない、鋭くたくましい声。
呼ばれたのと同時に、たしかな腕にしっかりと抱きとめられた。
この腕は。
「お前は何しているんだっ!」
頭上から降り注ぐ怒声。
ぴくり、と身体を震わせ、恐る恐る目を開けると、険しい顔の彼と目が合った。
「にし、のじ……君……」
彼が来てくれて嬉しいはずなのに、怒鳴られたものだから、つい呼び慣れた名前でつっかえる形になってしまった。
「お前その格好なのに、何で危ないことをするわけ?」
「……星を、飾ろうと……」
「そんなの、他の人にやらせればいいだろう。お前しかいなかったわけ?」
「違うけど……」
「……ったく、俺が来なかったら大ケガをしていたぞ」
「ごめんなさい……」
落とさず持っていた星を抱きしめて、俯いた。
思っていた以上に怒られてしまった。それはそうだろう。あんなに高さがあるし、下手したら、怪我では済まないのだから。
目を吊り上げて怒るのは、当たり前。
「僭越ながら、碧衣様。私が結果的に葵人様をそうさせてしまったのです。ですから、これ以上は怒らないでくださいませ。代わりに私が──」
「そうじゃねぇ」
「「え?」」
抱っこの形にされたかと思うと、これでもかと高く上げられた。
「え? えぇ?」
突然、碧衣は何をし出したのだろう。
彼の真意が分からず、さっきよりかは機嫌良さげな碧衣のことを見下ろしていると、「これなら届くだろ」と言われた。
「届くって…………あ」
横を見やると、少しばかり見上げる形になるものの、ツリーのてっぺんが手を伸ばせば楽に届く高さまでなっていた。
そっか。そういうことなのか。
理解した葵人はそっと星を飾った途端、いつの間にか観客が増えていたらしい、歓声と拍手の中に黄色い声も下から聞こえた。
顔が沸騰しそうなぐらい真っ赤になった葵人は、小さく礼を言うと、「飾れて良かったな」と床に下ろしながら、満足気に笑う碧衣がいた。
もう、本当に分かりづらい優しさなんだからっ
その意味を込めて、こっそりと頬を膨らませていた。
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