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「──あらぁ? そんなにも盛り上がって、どうしたのかしら?」
ひとしきり女中らの、「素敵です!」「いいものを見させて頂きました!」「眼福!」と喜びの声を浴びていると、おっとりとした口調が耳に届いた。
皆が声がした方へ振り向くと、頬に手を添えた、どことなく碧衣に似た女性──碧衣の母であり、葵人の義母がこちらにやって来る。
途端、女中らは一斉に頭を下げ、隣にいる碧衣は舌打ちをする。
「何か用かよ」
「そうね、葵人ちゃんに用があるの」
「え、僕ですか?」
「そうよ」
「ダメだ」
きょとんとした葵人に、にこやかに微笑んだ義母につられて笑いそうになったが、義母の言葉を遮った碧衣に、ぎゅうっと抱きすくめられる。
あまりにも痛いぐらいに密着するものだから、小さく呻いてしまった。
「あらぁ、碧衣ちゃん。私、今まで葵人ちゃんに酷いことなんて、したことがないでしょう? 離れがたいぐらい好きなのは分かっているけど、きっと碧衣ちゃんのためになるわ!」
「それでも、渡さねぇ」
さらにきつく抱きしめるものだから、胸辺りを叩くと、腕の拘束を緩めてくれた。
ひと息吐いた葵人は、今も自身の母を睨みつけている碧衣に声を掛けた。
「碧衣君。僕は大丈夫だから」
「お前、今までこの親に何をされてきたか、忘れたのか?」
「忘れてなんかないよ。お義母さまが僕にしてきたことは、兄さんに比べれば全く酷いことじゃないよ」
兄のされてきたことを思い出すだけで、身体中が震え出し、何かに掴んでないと不安が押し寄せてくることに加え、身体が求めてしまいそうになっていた。
それに対し義母は、葵人があまりにも可愛いからと、女の格好をさせるぐらいで、男としてのプライドが傷つけられるものの、身体を傷つけられることは無かった。
それに義母が言う通り、その格好をすると、少なからず碧衣が嬉しそうにしている。
だから、そのぐらいのことで親子喧嘩──義母は喧嘩だと思ってなさそうだが──をしないで欲しいという意味を込めて、微笑みかける。
何か言いたげに口を開けたが、皆に聞こえるぐらいの大きな舌打ちとため息を吐いた後、「…………わーった」と完全に腕の拘束を解いた。
「ありが──」
「いいか。本当に、本当に嫌なことをされたら、ちゃんと嫌だと言うんだぞ。分かったか!」
「……分かっているよ」
小さな子どもじゃないんだからと、拗ねた口調で言っていたが、そこまで心配してくれている碧衣のことを嬉しく感じ、心がじんと温かくなる。
「行ってくるね」と、ムスッとしている碧衣のことを軽く抱きしめた後、義母の後に着いていった。
いつも女物の着物を着せられているのだから、今回のもそういうのだろうと、楽しそうに話しかけてくる義母に相づちしながらそう思っていると、ある部屋に来た。
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