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ぐきゅるるる……。
ひとまずビーズ状のイクラを片付けようとした時、なかなかに大きい空腹音が鳴った。
「おい、秀。さっきのヤツにつられてシャケを食ったんじゃなかったのか?」
「いや、俺じゃねーし!」
「この音は……」
碧衣の言いたそうな声に、白状せねばと顔を真っ赤にして、恐る恐る手を上げた。「はい、僕です……」
「ほらな! 俺じゃねーじゃん!」
「葵人。腹が減ったのか?」
「……お義母さまの料理が楽しみすぎて、朝もそんなに食べていなかったもので……」
恥ずかしくて消え入りそうな声で答えると、「マジかー! けど、それは分かるわー!!」と大笑いで言う山中に、さらに顔が熱くなるのを感じ、身を縮めていると、「うっせーぞ」という碧衣と、「このビーズ、口ん中に詰めんぞ」と鷲掴みしたビーズを、山中の胸倉を掴んで入れようとする石谷がいた。
「そ、そこまでしなくても……」
「このぐらいやって当然だ」
「いくらなんでもやりすぎだって」
「そんなことよりも、腹減ったんだろ。食いに行くか」
「あ、え……っ」
さも当たり前のように抱き上げて行こうとするのを、「自分で歩けるってば!」と声を上げた。
「さっきも言っただろ。お前のことを触るヤツがいるから許せないと。二度も言わせるな」
「…………っ」
さっきよりも怒気を孕んだ声音で、強く言われたものだから、噤み、そうして、何も言えなくなった自分に苛立ち、持ったままのシャケのぬいぐるみをきつく抱きしめた。
いつにも増して不機嫌な彼に声をかけることが出来ず、廊下を歩いていくのを、続いてその後ろに並んで歩く山中と石谷が何やらこそこそ話し合っている声が聞こえてくる。
端々に自分らのことを言っているらしいことは聞こえるが、訊く気にはならず、碧衣と共に黙っていると、ある扉の前に来る時、そっと床に下ろした。
急なことに疑問符を浮かべている葵人はよそに、碧衣は目の前の扉をさっさと開けた。
「碧衣ちゃん、葵人ちゃん。それに石谷君と山中君。そろそろ呼びに行ってもらおうと思っていたところなのよ。お腹が空いたのかしら?」
扉が開かれた先の、テーブルのそばに立っていた義母がこちらに気づくなり、微笑みにも似た笑みで言ってきたことにより、何故、下ろしたのかと分かり、「葵人がお袋の飯が食いたいんだってさ」と素っ気ない言い方をして、葵人の腰に手を回して入っていった。
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