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23.碧衣side
「……葵人」
目を閉じた拍子に流れた涙を拭おうとした時、黒く滲んでいることに──いや、さっきも気づいた。
いつもの化粧が涙で崩れてしまったのだろう。
このことも葵人の意思でしたことではないが。
惜しみながらも葵人のナカから抜いた時、葵人が小さく呻いたのを聞いたせいで、また勃ち始めていたことに、流石に反応しすぎだと頭を抱えながらも、何も無かったかのように、ズボンを履いた。
そうして、縄を解いてやり、顔と下を拭き、服を整えた後、何となしに頭を撫でた。
「可愛い、な……」
この服を見た瞬間から思っていたことだった。
だが、碧衣の好みを完全把握している母がいる手前、そう素直に言えるわけがなく、また母が勝手にそのようなことをしたのもあって、怒りで誤魔化してしまった。
本当はそうと言いたかったし、一人で堪能したかった。
だから、自身の苛立ちも含め、八つ当たりするかのように葵人へのプレゼントも、同意なしにそうしてしまった。
しかし、痛みが快感に変わる葵人なら、突然そのようなことをされても、嬉しがるに違いなかった。
実際に、葵人はアソコが張り付かせんばかりに悦んでいたのだから、結果的には良かった。
──そう、そして、プレゼントといえば。
傍らに落ちていた包みを見やった。
あの二人に快くない態度をしたから、謝るまで預けるなんて言って、ムキになって取らせない葵人の怒った顔が思い出された。
「……しょうがないヤツだ」
小さく笑いながら、その包みを拾い、剥がし、中から現れた箱を開けた。
「…………!」
瞳孔が開いた。
中には、縦にした水色のマカロンが五個、並んで入っていた。
碧衣は昔から甘い物には目がない。
何に対しても、誰に対しても、大して興味がない自分が、唯一興味があったもの。
一つ摘み、半分ほど口に入れた途端、驚いて、口を動かすのを止めた。
美味しい。
お菓子作りは兄の方が上手いから、自分はそこまで作ったことがないと言っていたような気がするが、碧衣が学校に行っている間に母と作る練習をしていたのだろうか。
また兄の話をしていると苛立ったが、自分のために一生懸命作ろうとする、葵人の姿が容易に浮かぶ。
そうして、あっという間に平らげてしまったことに残念に思っていたのも一瞬で、マカロンの下に、半分に折りたたまれた紙があったことに気づき、手に取る。
そして、開いてみると。
『碧衣君、メリークリスマス! 碧衣君の誕生日の時は、買ってきた物だったけど、今回は頑張って作ってみました。甘党な碧衣君のお口に合ったら、とっても嬉しいです︎︎︎︎︎☺︎』
数秒間、固まった。
そして、ふっと笑った。
ああ、やっぱりそうだったのか。誕生日の時はあれはあれで嬉しく思ったのだが、それでも、本人は納得がいかなかったのだろう、得意ではなくても作ってくれた。
なんて、愛しいんだ。
未だに寝ている葵人の頭に、今度は手を宛てがうと、その薄く開いた唇に、軽く口付けた。
途端、ふにゃりと頬を緩ませた。
本当に可愛い。
「……美味しかった。礼を言う」
それからしばらく、幸せそうな顔をする葵人のことを抱きしめ、見続けるのであった。
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