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第19話
「繫さん」
風呂から出て保湿クリームを雅美の背中に塗っている時だった。
「どうしたの?」
「産まれるみたいっす、赤ちゃん」
「へ?」
お腹に手を当てて話す雅美。
「あいつの声が、赤ちゃん産まれるよ、って声が聞こえました」
「そうなんだ……」
少し緊張したような面持ちの雅美。
俺はそんな雅美を抱き寄せ、まだ少し濡れている髪を撫でる。
「最後まで付き添い出来なくてごめんね」
「大丈夫っす。オレ、必ず元気な赤ちゃん産みますから心配しないでください」
そう言って、雅美は俺にキスしてくれた。
アッカムイのところに向かおうと支度をして外に出ると、そこにはもう奴の姿があった。
「繫くんは久くんに連絡してから一緒に来て。多分来る頃にはもう産まれてるだろうけど」
「わ、分かった」
いつもとは違う、真顔のアッカムイにその時が近づいているのを感じた。
ふたりを見送ると、俺は父に連絡した。
父はすぐに来てくれて、ふたりでアッカムイのところに向かったんだけど、アッカムイの言う通り、到着した時にはもう全てが終わっていた。
「おめでとう、繫くん」
「…………!!!」
あの小屋に案内された俺を待っていたのは、最愛の人とアッカムイに抱かれた小さな生命だった。
「久くんもおめでとう。良かったね、可愛い子のおじいちゃんになれて」
「ありがとう、アッカムイ」
しきたりに従って、父が俺より先に赤ちゃんを抱いた。
すやすやと眠っているその顔を隣で見ていると、涙が溢れてくる。
「良かったな、繫」
そう言って、父が珍しく笑顔を見せてくれた。
「もういいか?アッカムイ」
「うん、繫くんに抱かせてあげて」
「あぁ」
父が俺に赤ちゃんを託してくれる。
チロの子育てを手伝ってたとはいえ、赤ちゃんを抱くのは久しぶりで少し緊張した。
「繫さんに似てると思います」
雅美が隣に来てくれて赤ちゃんの顔を覗きながら嬉しそうに話す。
お産を終えて、少しだけ元の体型に戻っていた雅美は、また別の色っぽさを俺に感じさせた。
「そうかな」
すっと通った鼻筋は雅美に似てる気がしたんだけど。
と俺が返すと、雅美が絶対繫さんに似てますと言い切る。
そこにアッカムイがやって来て、
「名前はもう決めてるかもしれないけど、歩き始めるまではまだ呼ばないでね。悪い妖怪に連れていかれたら困るから。連れていかれないような変な呼び名で呼ぶんだよ」
と赤ちゃんの頭を撫でながら笑顔で言った。
「は?」
それ、初耳だけど。
雅美も驚いた顔をしてアッカムイの方を見ている。
「ごめんね、産まれてから言えばいいと思って言ってなかったよ」
そんな俺たちに、アッカムイは申し訳なさそうにしながらも笑顔で言った。
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