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第45話

病室を出ると佐々木が待っていて、泣き顔の静の顔を見て少しだけ困ったように笑った。それに静は何も言わずに佐々木に頭を下げ、ここまで連れてきたことの礼を言った。 そして二人で車に戻り、屋敷へと向かった。佐々木の運転する車に揺られていると、今までの短かったが濃厚な時間が次々と湧き上がり、静はまさに感傷に浸っていた。 大多喜組に追い込まれていた毎日、それが傲岸不遜な俺様な心に拾われ一変する。眞澄に攫われて、助けられて、心への気持ちを実感し…。 そして今日、別れを告げられた。 神童が言ったことを実行することもなく別れることになったが、本当はいつまでもこんな日々が続くとは思ってはいなかった。 何故ならば、心の立場でこんなことが許されるとも思っていなかったからだ。世間一般的に忌み嫌われ暮らしにくくなっていると言えども、その勢力を弱めることなく成長している仁流会。 そのNo.2である鬼塚組の若き家長である心。家を守るためには静ではダメなのだ。組を存続していくためには、静ではダメなのだ。 家長である心の務めは、組の存続のためにも相応しい相手を見つけ子孫を残すということ。傲岸不遜で得手勝手で扱いにくい男ではあるが、見た目の問題は一切ない。 本業は極道といえど、フロント企業はあのイースフロントだ。表でも裏でも敵なしにするために、心と相馬が築き上げてきたもの。それを守るためには、男の静ではダメなのだ。 信号待ちをしていると、歩道を静と同じくらいの年の青年達が楽しそうに歩いていた。最近は静も雨宮と他愛もない話をしながら、ああやって歩いていた。 ほんの少し前では考えられなかったことだ。悲観して下ばかり向いて、絶望に苛まれていた訳ではない。 ただ、心の底から声を出して笑うことなんてなくて、意地だけで突き進んでいたところがあった。 そう、自分は恵まれていたのだろう。 あの地獄のような日々からも助けてもらえた。その上、男だというのに心の隣に居ることを許してもらえた。 多分それは、少しご褒美を与えられたということだろう。今まで自分で言うのも何だが、必死に頑張ってきた。だから、少しくらい幸せを感じてもいいと神様も思ってくれたのだ。 もう涙は出なかった。これからのことを考えなければいけない。そう、これからのこと。 「佐々木さん、相馬さんと話をしたい場合ってどうしたらいいですか?」 「若頭ですかぁ…。そうですね、僕が話を通しておきましょう。今日はもう屋敷にずっと居るんですよねぇ?」 「はい、何時になってもいいんで」 そんなに急いでも仕方がないような気がしたが、急がなくてはいけないような気もしていた。自分の気持ちの問題ではあるが、心の存在を意識してしまう空間から早く逃れたかったのだ。 部屋で私物を整理していると、コンっと壁をノックされた。振り返れば、相馬がいつもと変わらぬ様子で部屋の入り口に立っていた。 「あ、おかえりなさい」 「はい、ただいま帰りました。しかし、この部屋は少し不便ですね。中に居る人に声を掛けるにも、入り口から遠すぎで」 「はは…」 静は手に持っていたシャツをバッグに入れると、相馬の方を見た。相馬はにっこりと微笑むと、ソファセットの方へ手を向け静を促した。 相馬と向かい合うようにして座ると、静は何と切り出そうかと思案した。だが、相手は相馬だ。変に取り繕うのも無駄だと顔を上げた。 「俺、ここを出て行きます」 「あれに聞きました。いいんですか?本当に」 やはり相馬は驚く様子もなくそう返してきた。静はさすがだなと笑って、頷いた。 「俺…ここの人、みんな大好きです。初めは極道なんてって思ってたけど、本当に優しいって言ったら変だけど人の痛みとか分かってる人ばっかで、されすぎってくらい良くしてもらいました。大多喜組のこともだけど、親のことも妹のことも…。でも、もう終わりです」 自分で言葉にすると、また目の奥が痛くなったので慌てて顔を上げて笑顔を見せた。 「あいつはめっちゃ自己中で、俺様で、言うこと聞かないし出来ないことはないって思ってるとこあるし、本当、マジでムカつくけど、でも…でも好きでした。本当に。だけど、もう一緒には居れない…」 今までの色んな思い出が一気に溢れてきて、静の大きな瞳から涙の粒がボロッと溢れた。静はそれを慌てて拭って唇を噛んだ。 相馬はその顔を見て、大きく息を吐いた。 「あれは一度こうと決めたら、そうする男です。私の言葉を聞くわけもないし、残念なことに、あなたもそこはあれと同じですよね。私からすれば頑固者同士という感じですが…。ですが二人が決めたことにケチをつけるのも違うと思っています。なので…仕方がありませんね」 相馬は額に手を当てると、少しの間、瞠目した。そして切り替えるように一息つくと、顔を上げて静を見据えた。 「早瀬には私から連絡を入れます。静さんには申し訳ないのですが、店とはもう関わらないようにしていただきたい。あと、住居ですが…」 「それは自分で探す」 前回は心が保有するマンションに入ってしまったので、仕事を探すのも大変だった。今度は本当に1から自分で動きたいと思ったのだ。 「自分で探すし、ここは明日には出て行く」 「そんなすぐに見つからないでしょう?」 相馬が心配そうな顔を見せたが、静はそれに得意げな顔を見せた。 「妹のとことかアテがないわけじゃないし、相馬さんも知ってるでしょ?俺、住居見つけて転々とするんの得意なの」 大多喜組に追い回されてたときに得たことは、とにかく小規模な生活をして、いつでも身動きを取れやすくすること。今は追われる立場ではないが、住居を見つけるのは得意だ。 駅に近いとかそういう贅沢を言わなければ、わりかしあるものなのだ。 「そうですか…。では、この部屋にあるもので必要な物は何でも持って行ってください。屋敷を出る時間を行ってくだされば人払いをして門を開けておきます。必要であれば、どこかまで送りますが?」 「大丈夫、本当に色々とありがとうございます。あの、雨宮さんは?」 静はやはりそこだけは気がかりで、聞かずにはいられなかった。だが、相馬は首を振るだけだった。 「見つかりませんね。まぁ、見つけるには骨を折りそうです。雨宮は内偵を得意としてきた上、こちらの行動パターンを熟知しているので」 「相馬さんは、雨宮さんが消えたのは内通者だからって思ってる?」 「そうですね…。2重、3重スパイってことですよね。出来なくはないでしょうね、雨宮なら」 やはり相馬もそう考えているのかと、静は肩を落とした。崎山だけがそう思っているのではなく、裏世界の人間ならば疑って当然のことなのかもしれない。 それは寂しいことだと思いつつも、それが極道なのかと思い知ったような気もした。 「静さん、あなたのことは外部には漏れてはいませんが、これは100%というわけではありません。少しでも何か異変を感じたり、何か妙な連中に声を掛けられたりしたら連絡をください」 そう言うと、相馬はスーツのポケットから名刺を取り出し静に差し出した。 「この裏の番号は、私のプライベートの携帯です。組とは関係のないものです。いいですか、別れてたとしても鬼塚と繋がりがあった人間は利用価値があると思われがちです。些細なことでも異変を感じたら、すぐに連絡をください」 普段の相馬からは考えられないような強い言いぶりに、静はいらないとは言えずに黙って受け取った。 心は灯りを落とした病室のベッドの上で、天井を眺めていた。入り口に神経を向けると、人気を感じる。 少しだけ顔を傾けて耳を澄ます。高杉と、相川…あとは聞き覚えのない男の声が数人。 「厳重やな」 心はフッと笑うと枕の下に手を入れた。そしてスマホを取り出すと、それを徐に弄り始めた。 「塩谷の野郎、また点滴に何か入れたやろ…」 心にしては珍しく、眠気が何度も襲ってくる。四六時中、寝てばかりで動けもせずなのに馬鹿みたいに眠れるわけがない。 起きていられると何をされるか分からないのでということかもしれないが、医者の職権乱用じゃないのだろうか。 ブブッ…とスマホが振動した。メールだ。 心はメールを開くと不敵に笑い、スマホの電源を落とした。そしてゆっくりと、包帯で覆われた上半身を撫でる。 「The die is cast.」 誰に言うわけでもなく、そう呟いて心は目を閉じた。 静は少し大きめのキャリーケースを持って、鬼塚組の屋敷の門の前に立っていた。 相馬が言った通り、屋敷は人払いされているのか人の気配もなく門も開け放たれていた。静は門を潜ると振り返り、背を正した。 「今まで…、今まで短い間だったけど、お世話になりました。ありがとうございました!」 誰に言うわけでもなくそう叫ぶと、深々と頭を下げた。そして踵を返すと、振り返ることなくいつもよりも大股に早足で歩き始めた。 視界が歪んで頬を熱い涙が伝っても、それを拭うこともなく必死に歩いた。 ぎゅっと引き締めた唇が震えて嗚咽が漏れても、歩を止めることなく必死に歩いた。 心に連れられてきたことを思い出しながら、二人で屋敷に向かって歩いた道を今度は一人で屋敷とは反対方向へと歩いた。 終わったんだと、これで本当に終わりだと思った。それを実感して、初めて全身が震えた。 そのせいで足が縺れ、何もないところで躓いた。いつもなら耐えれる衝撃が耐えきれずに、静はそこにしゃがみ込むように蹲った。 そして、止まることのない涙を流し、小さく声を出して泣いた。初めて味わう恋人との別れは、想像を絶する絶望感が伸し掛かるものだった。 散々、泣いたあと、このまま駅に向かうにはと視界に入った公園に足を踏み入れた。入り口から見ると小さいと思われた公園は、中に入ると奥まで広がっている大きな公園だった。 大きな滑り台にブランコ、ジャングルジムと所々に植わった木々。だが昼に差し掛かった時間のせいもあってか、人はおらず静はベンチに腰掛け空を見上げた。 見上げた空は静の心とは裏腹に突き抜けるような青い空で、それが今は恨めしい。これもいつかは笑って話せることになるのだろうかと、穴さえ見えそうな空虚感に苛まれた。 静はふと、キャリーケースとは別に持っていたリュックを漁り出した。手にした預金通帳は静の名義だ。 cachetteで働いてきた給料がほぼ手付かずで残っている。かなりの金額になっていることに驚いたが、これで住居などは何とかなりそうだと思った。 そして通帳を戻すと、リュックの一番奥からスマホを取り出した。 今まで自分が持っていたスマホは心の部屋に置いてきたので、これは神童に渡されたスマホだ。 静はそれの電源を入れてみたが、やはりメッセージも何も入ってなかった。持つだけ無意味じゃないのかと電源を落とそうとしたとき、スマホが振動を始めた。 ディスプレイに表示された非通知の文字に、慌てて電話に出た。 「てめぇ!!」 『君ねぇ…』 静の威勢に相反するように、電話口から呆れを滲ませた声が返ってくるので静は押し黙った。 「神童…」 『君、本当に僕より若いのかい?携帯の使い方知ってる?電源を入れないと、電話はかからないんだよ』 おかげで何度、無機質な声を聞かされたかと神童は愚痴るように言った。 「自分の意思に関係なく持たされた物の電源を、いそいそと入れる奴が居るとでも思ってんのか」 『まぁ、確かにそうだけどねぇ』 「俺に何か脅しみたいなものかけても、もう無駄だぜ」 静は足元にあった石ころを拾うと、誰も居ない空間に電話の向こう側の男に投げつける気分でそれを投げた。 『それは、別れたってこと?振ったの?』 「俺が、振られたの」 『君が?へぇ…』 さして興味もないような言い方に苛立ちを覚えたが、話すだけ無駄だと通話を終えようとした。 『吉良くん、これで君は自由になったと思わないほうがいいよ』 「は?何言ってんの、あんたが…!あんたが心をフードの男に襲わせて、あんたが、あんたが全部っ!!」 神童が現れたあたりからおかしくなった。別れろと言われたり、心が襲われたり雨宮が姿を消したり。 全て、神童が悪いと思わざる得ない状況に、静は唇を噛んだ。 『フードの…ああ、Thanatosか』 「タナトス?」 『ああ、君は知らないのか。君の言うフードの男の名はThanatos。殺し屋だよ』 「こ、殺し屋!?」 殺し屋なんていう人間がこの世に、この国に存在するのかと静は思わずベンチから腰をあげた。 『そう。殺し屋。でも前にも言ったけど、あれは僕の指示じゃない。だいたい、心は僕の愛する人の忘れ形見なんだよ。そんなことしたら楽しみがなくなっちゃうだろ』 「楽しみ?」 『そう、僕はつまらないのが嫌いなんだ。誰でも楽しいことが好きだろ?それなのに…まぁ、だから僕は一抜けすることにしたよ』 「は?なに、それ」 『だって、楽しくないんだもん。これは僕が望む形じゃないんだ。奴がしようとしていることは、猿猴月(えんこうつき)を取るだよ。いいかい?これは僕からの助言だ。いつもよりも周りを良く見ておくんだよ。いいね?』 神童はそう言うと、一方的に通話を終了した。 「猿猴月を取るってなんだっけ…」 「身の程をわきまえずに、自分の力以上のことをして失敗することじゃよ」 公園に入ってきた杖をついた老人が、静の独り言を掬って答えた。静はそれにハッとして頭を下げてお礼を言った。 身の程?自分の力以上?一体、誰のことを言ってるんだ?神童が手を引く。だが、それで終わるのだろうか?いや、そんな訳が無い。 「フードの男…雨宮さんの弟が殺し屋?」 雨宮の弟が殺し屋だとしたら、心や崎山が言うように雨宮と共謀して今回の襲撃を企てたのだろうか。いや、そもそも神童の言うことを鵜呑みにしていいものなのか? 考えれば考えるほどに訳がわからなくて、静は乱暴に頭を掻き毟った。 「周りをよく見ろだと?」 静は膝の上に両肘を突いて、手に顎を乗せて瞠目した。そしてしばらく考えたのち、すっと立ち上がりキャリーケースを引いて駅へ向かって歩き出した。 静が出て行って数日してから、鷹千穗は自分の部屋のある離れで着物を脱ぎ捨て全裸でベッドに座っていた。 透き通るような白い肌は血の通った人には思えず、鷹千穗の異質さを際立たせていた。その鷹千穗が手にしているのは、どう見ても不似合いなスマホだった。 鷹千穗はそれをジッと見つめていたが、やがて着信を知らせるサウンドが響き、戸惑いを見せることなく慣れた手つきでそれに応じた。 向こう側から聞こえる声に返事もせず、表情も変えず、頷きもせずに居る。だが、やがてスマホを話すと指先で、トントンとノックするように叩いた。すると、それが合図のように通話は切れた。 鷹千穗はスマホをベッドに置くと、クローゼットに向かった。そして着物ではなくジーンズとパーカーを取り出すと、それに腕を通し始めた。 長い銀の髪は一つに纏めて紐で器用に結った。次々と身支度を整えると、最後に大きめのリュックを引っ張り出した。中はきっちり詰まっていて、鷹千穗はそれを背負うと布で包んだ刀を手にして部屋を出て行った。 入り口の格子を開けて外に出ると、ジーンズのポケットに捩じ込んでいたスマホを取り出した。メッセージアプリを開き、短いメッセージを送る。 すると、すぐに返信が来て、鷹千穗はそれを見るとスマホを仕舞い屋敷の入り口に向かって歩き出した。 心はこう毎日転がってばっかりいるのも退屈だなと、相馬が聞けばどの口がと言われそうなことを思いながら雑誌を捲っていた。 暇だと言う心に差し入れられた雑誌は成田のチョイスだ。車雑誌ばかりだが、こういう類の雑誌を見ていると新しい車が欲しくなる。 そういえば、自分の愛車はどうなっただろう。血で散々、汚してしまったのでシートなどは交換だろうが車に傷が付いているわけではないだろうから手放してはいないとは思う。だが、験が悪いと処分されていてもおかしくはない。 あれは結構、気に入ってたのになぁと思っていると、ノックと共にドアが開き相川に伴われて男の看護師が入ってきた。 「組長、検査ですって。車椅子で移動っす」 「え、かっこ悪、歩けるやろ」 「いえ、一応、その、規則でして…。怪我も、その、ひどいので」 看護師の男はおどおどした様子で心と相川を交互に見ながら、強制ではないのですが、規則でと繰り返した。 この部屋の担当は、この男の看護師と看護師長である。看護師長は年配で貫禄のある”おばさん”で、極道者だからどうしたという肝っ玉の持ち主だが経験の浅そうな看護師のこの男は、長身で体格こそ立派だが極道と聞いて腰が引けているようだった。 「傷開いたら、また若頭が激おこっすよ」 激おこね…。お前のその言葉使いを崎山が聞けば、もっと激おこになるぞと思いながら心は渋々、男が押してきた車椅子に移動をした。 すると、身体を動かしたせいか切られた箇所に激痛が走った。縫合されたところが引っ張られているような気がする。ざまぁないなと思いながら、徐に拳を握ってみた。 「相川、あれ買ってこいよ、ハンドグリップ」 「落ちたんすか?」 「落ちるやろ、こんなゴロゴロしとったら」 「いつもと変わらないっすよ、ゴロゴロは」 悪気ゼロ、考えゼロだとしても、言うな、コイツと心は笑った。だが病院という環境のせいか、いつも以上に鈍っているような気がする。 身体全体に力を入れれないせいで、体幹も狂っている。 「あ、ここでお待ちいただけますか?中は関係者以外、入れませんので」 関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアの前で看護師に制されて、相川は仕方がないかと頷いた。 「検査って何すんねん」 「今日はMRIを撮ります。あと、血液検査です。塩谷先生は腕がいいので、中に異常はないと思いますが念のためです」 「ふーん」 「では、こちらが今日の説明になります。目を通していただいて、問題がなければサインをしてくださいね。僕、担当技師を呼んできますんで、少し待っていてください」 看護師は心にペンとファイルを渡して奥へと消えていった。心はファイルを開けると検査内容と書かれた紙に目を通し笑った。そしてその紙をファイルから抜くと、ゆっくりと立ち上がった。 「これは、どういうことだ?」 崎山は屋敷の入り口付近で処置を受ける組員を見て、顔を強張らせた。数分前、高杉から連絡を受けて屋敷に戻ってきたものの、すでに時は遅く…。 「死神がやったのか?」 「そーそ、ったく、躾がなってねぇなぁ、あのアホは」 「鷹千穗が見張りの組員を襲って、外に出たってこと?お前は?」 「高いんだぜぇ?あのシステム」 高杉は指を指したのは車庫兼高杉の武器庫にもなっている建物。その入り口にあるタッチパネルは破壊され、中の配線が剥き出しになっていた。 「外から壊されると、中から出るのに時間が掛かるのは困りもんだなぁ?」 「何で、あいつ、そんなこと…」 システムを破壊したのは、高杉が外に出られないようにするためだろう。鷹千穗は恐らく、高杉が苦手なのだ。武器に長けていて尚且つ、本物の戦闘に慣れている高杉は刀を使わずに鷹千穗を止めることが出来るからだ。 そこまでして外に出る必要があったのか?まさか、彪鷹のところに? いや、彪鷹には定期的に逢っているし、山場は超え回復に向かっている。だったら何故? 訳が分からないと困惑をしていると、奥から成田が必死の形相で走ってくるのが見えた。次は何だと眉を顰め、高杉と顔を見合わせた。 「やられた!!組長が消えた!!!」 成田の言葉は、まるで悪夢の序章を告げるような気がして、崎山はぎりっと奥歯を鳴らした。 そして次の瞬間には、全身の怒りを吐き出すように「クソ…ッ!!!!」と大声で叫んでいた。

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