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婚礼式から七日が過ぎようとしていた。この間、ウィラクリフ殿下はほとんどの時間をわたしと一緒に過ごされた。
貴族や王族が結婚した場合、互いをよく知るための蜜月という期間が設けられる。おおよそ七日から十日だと言われているが、その間はどんな立場の人も休暇を取ることを促された。ウィラクリフ殿下も王太子の仕事をすることはなく、ご自分の部屋に戻ることもほとんどない。
(だから、ということではないのだろうけれど……)
ずっと側にいるからか、わたしが何かしようとすると必ず殿下が手を貸してくださる。移動するときは支えてくださるどころか抱き上げてくださることもあった。まるで自分が子どもに戻ったような気持ちがして恥ずかしくなる。ところがキルトに「さすが新婚ですねー」と言われ、ハタと気づいた。
(たしかに、横抱きというのはご令嬢方がされることのような)
そう思うと別の意味で恥ずかしくなった。
(そもそも、毎晩のように殿下がされるから……)
婚礼式の夜から毎晩、それこそ夜中近くになるまで慣れるための練習をしている。そのせいで元からあまりなかったわたしの体力はごっそり削られてしまい、足が震えて歩くのもままならないほどだ。
そんなわたしをご覧になった殿下は、ソファの上でほんの少し移動しようと腰を浮かせるだけで腕を握り背中を支えてくださる。お茶を飲もうと手を伸ばす前に、茶器を手渡してもくださった。なんて恐れ多いことだろうと思いながら、こそばゆさと喜びを感じて口元がだらしくなく緩みそうになる。
(けれど、さすがに入浴はどうだろう)
昨日も微笑みながら「入浴を手伝ってやろう」とおっしゃった殿下に、慌てて「おやめください」と拒んだ。おそらく戯れだとは思うけれど、殿下の緑眼がそう見えないときもあるからか気が気でない。
(いくら伴侶とはいえ、殿下に入浴を手伝っていただくなんて……無理だ)
ただでさえ恐れ多いことなのに、恥ずかしすぎて落ち着かないに違いない。今夜も冗談のように「わたしが手伝ってあげるのに」とおっしゃる殿下をなんとか押し留めた。すぐに諦めてくださったものの、「残念だね」と微笑まれた顔は戯れのようには見えなかった。
こうしたやり取りをずっと見ているからか、キルトが「愛されてますねー」とニヤニヤ笑っている。
「そうなのかな……」
「そうですよー」
それはいいことなのだろうけれど、ああいうことを人前で言われるのは恥ずかしい。もっと恥ずかしいことを教えてくれたキルトが相手でも、それは変わらなかった。そんなわたしの様子を気にすることなく、キルトの手が泡を優しく肌に伸ばしていく。
「そういえば、もう張り型には慣れました?」
「あー……、うん、たぶん……。圧迫感はすごいけど……」
不意に昨夜のことを思い出した。みっともないほど震える自分の体と、そんなわたしに優しく触れてくださる殿下の手の感触を思い出し顔が熱くなる。
(そういえば、途中で液体を注いでくださることが増えたような)
きっとわたしが苦しくないようにと気遣ってくださっているのだろう。どんなときでもわたしを慮ってくださる殿下に顔がほころびそうになる。
(殿下はどんなときもお優しい。……でも、やっぱりああいうことは恥ずかしいというか……)
いまさらながら、殿下にすべてをさらけ出しているのだと思うと居たたまれなかった。それに最近は得体の知れない感覚に体が震えることが増え、それも少し怖いと思っている。
(あれは何だろう)
殿下に触れられるだけで肌が熱くなる。皮膚のすぐ下がゾクッとして、ほんの少し痺れるような痒いような不思議な感覚になることもあった。とくに腰や背中はその感覚が顕著で、じっとしていなければいけないと思えば思うほど腕や足が震えてしまって仕方がない。
昨夜もそうだった。生まれて初めて感じる不思議な感覚に、いくら唇を噛み締めても吐息が漏れそうになった。
「……っ」
ほんの少し思い出しただけで体の奥がゾクッとした。慌てて頭を振ると、キルトが「ということは、最後のまで?」と問いかける。
「……うん」
「そうですかー。じゃあ今夜はさらに念入りな事前準備、しておきましょうか」
こういう話題は恥ずかしいけれど、キルトが普通に話してくれるからかろうじて答えることができる。それに事前準備を一人でするのはまだ難しく、最初のほうはいまだにキルトに手伝ってもらっている状態だ。そういう状態なら、いまがどういう段階か知っておいてもらうほうがいいのかもしれない。そもそも自分では何も判断できないのだから教えてもらうしかない。
「あの、念入りというのは……?」
「上の兄に確認したんですけど、殿下のは結構ご立派らしいんですよねー。あ、いろいろあるんで念のため上の兄に聞いておいたんです。兄は殿下と一緒に剣や馬の稽古をしていたんで、もしかして着替えのときに見ているんじゃないかって思ったんですけど、当たりでした。聞いた限りじゃあ、結構ギリギリまで洗浄しておいたほうがいいんじゃないかなって感じなんですよねー」
「ぎりぎり、」
「最後の張り型までいけたのなら大丈夫ですよー」
そう言って始まった事前準備は、いつもよりもずっと体力を使うものだった。
(準備だけでこんなに疲れるなんて……)
しかし、キルトはそのくらいまで洗浄しておいたほうがいいのだと言っていた。ということはつまり……そういうことなのだろう。
入浴後は、いつもどおりメリアンが全身をくまなく手入れをしてくれた。それから殿下がいらっしゃるまでの間にお茶を少し口にし、なんとか気持ちを落ち着かせる。
(そういえば、あまりお茶を飲まないほうがいいと教えてくれたのもキルトだったな)
たくさん水分を取ってはあとが大変だと、事前準備を始めたときに教えてくれた。たしかにそうだと実感したのは初日を経験したあとだった。もしたっぷり飲んでいたら殿下の前で粗相をしてしまったかもしれない。
茶器をテーブルに戻したところで、カチャリと音を立ててドアが開いた。現れたのはもちろん殿下で、昨夜とは違う色合いの夜着をお召しになっていらっしゃる。たったそれだけのことなのに、わたしの胸はどうしてか落ち着きをなくした。やけに鼓動がうるさくなり、殿下にも聞こえてしまうのではないかと心配になる。
「思ったより落ち着いているね」
「……そんなことは、ありません」
「あぁ、たしかにほんのり頬が赤くなっている。そういう顔も愛らしいね」
「殿下、」
「さぁ、ベッドへ行こうか。今夜、ルナのすべてをわたしのものにするからね?」
横抱きに抱きかかえられ耳元で囁かれた言葉に、やっぱりふるりと全身が震えた。
「今夜はわたしだけを感じてほしい」
夜着を脱ごうとしていたわたしに殿下がそうおっしゃった。一瞬意味がわからず首を傾げ、すぐにどういうことはわかり顔が熱くなる。
真っ赤になった顔を見られなくなくて、夜着を脱ぐとすぐにうつ伏せになった。そんなわたしに少しだけ笑った殿下が潤滑剤を注ぎながら指を差し入れ、まるで張り型のようにヌチュヌチュと動かし始める。まさか指でそんなことをされるとは思わず、驚きのあまり身をよじった。ところが耳元で「ルナ」と囁かれ途端に動けなくなる。
「いい子だ」
殿下の声よりも、ヌチュヌチュとした音のほうが気になって腰が震えた。最初は出切り口のあたりで動いていた指が、気がつけばビリビリするところを何度も擦るように中のほうへと入っていく。張り型よりもずっと細いはずなのに、それが殿下の指だと思うだけで体中に力が入った。そのたびに「まだ食い締める必要はないよ」と殿下が囁く。
しばらく中のあちこちを擦っていた指がチュプンと音を立てて抜けた。無意識に力が入っていたらしく、緊張で強張っていた体から少しだけ力が抜ける。ふぅと小さく息を吐いていると、尻たぶに殿下の手が触れたことに気がついた。
「そのまま力を抜いていて」
「え?」と思ったときには尻たぶを大きく割り開かれていた。戸惑うわたしをよそに、先ほどまで指が出入りしていたところに熱いものがあてがわれる。ぬるりとした感触のそれは指とも張り型とも違っていた。「もしかして」と顔を赤らめていると、「そのままだよ」という殿下の声がし、すぐにとんでもない質量のものが出入り口を押し広げ始めた。
「うぁ……ぁっ」
「大丈夫、上手に入っている」
とてつもない圧迫感に広げられたかと思えば、縁がグウッと引っ張られるような感覚に声が漏れた。張り型を使っていたときにも感じたことがない感覚に冷や汗が出る。火傷しそうな熱さと強烈な圧迫感に息が止まってしまった。
「息を吐いて」と言われ、必死に口で呼吸をした。鼻ではまったく息ができず、まるで溺れているような感覚になる。
「ふぁ、ぅ、ぅ……っ」
「大丈夫だから……そう、いい子だね」
「ぅ、ぁ……。ぅ、ふぁ、ぁっ」
「……っ、ふぅ。結構入った、かな」
(熱い何かが……腰を、撫でている……)
これは殿下の手……だろうか。熱い感触が腰を撫で、そのままお腹のほうへと移る。臍の辺りをくるりと撫でた熱が、今度は何かを確かめるように臍から下腹部へと移動した。
「ルナの愛らしいここも喜んでいるようだ」
「ひっ!」
急にとんでもないところに熱を感じて、思わず腰を動かしてしまった。
(そこは、そこはいけない……!)
不浄なところに触れているのは殿下の手だ。そう思い、慌てて右手で殿下の手を押さえる。
「そ、こは、だ……っ」
「駄目です」と言い終わる前に握られ言葉が詰まった。そのうえ事もあろうに殿下の手が擦るように動き始める。
「本当は張り型のときにここも愛でたほうが早く快感を得られたのだろうけど、どうしても嫌だったんだ。ルナが全身で感じるのはわたしだけであってほしくてね」
「わたしの我が儘に付き合わせてしまったな」という殿下の言葉は、混乱したわたしの耳をすべり落ちていった。
わたしの全神経は不浄の部分へと集まっていた。熱に包み込まれ、上下に擦られるたびに下腹部が震える。するとお腹全体に力が入り、とてつもない圧迫感の元を強烈に締めつけてしまった。
「ひ……っ!」
締めつけた瞬間、ぞくりとした何かが下腹部の奥を刺激した。自分の体が生み出した感覚に悲鳴が漏れる。あまりしてこなかった自慰をはるかに上回る衝撃に下腹がうねるように動いた。そのたびに張り型よりもずっと太く熱いものをギュッギュッと締め上げてしまうのがわかった。
それは苦しいはずなのに、それとは違う感覚が下半身を覆っていく。逃げたいのに逃げられない。気がつけば口からはみっともない声がひっきりなしに漏れていた。
「ぃや……、ぁ、や……っ。やめ、ぁぅっ! ひ……っ、やめ、て……っ」
「大丈夫、怖くない。……中がうねってきたね。そのまま身を委ねて……そう、いい子だ」
「やぁ……っ! 手、離し、て、ぃや、や……! ぁ、ぁ……っ」
「怖くないから……。そう、ほら、先のほうも愛でてあげよう。ここは敏感なぶん、とても気持ちがいいはずだ」
「いやぁ……! や、やだ、はなし、先は、いやぁ」
「大丈夫。……ほら、もうそろそろかな。睾丸もこんなに迫り上がって……。ふぅ、中もすごいことになっているね」
「や、やめ、さわらな、で……っ。ひ、ひぃっ、やだ、こすらな、や、ぃや、やぁ……!」
「大丈夫、いってごらん」
耳元で「いってごらん」と囁かれた途端に自分でも驚くくらい一際大きくブルッと震えた。同時に瞼の裏がチカチカと瞬き、腰がガクガクと震え出す。
耳の中では、これでもかというほどドクドクと鼓動にも似た音が響いていた。気がつけば額を枕に必死に押しつけ、両腕までもがブルブルと震えている。擦られた不浄の場所がふるふると震えているのを何となく感じた。
「ひぅっ」
わたしの中から圧迫していたものがズルリと抜けた。ゾクゾクとしたものが背中を這い上がり、肘をついていた両腕から力が抜けて上半身が崩れ落ちる。
「ルナの体液は甘いね」
(え……?)
ぼんやりした頭に殿下の声が聞こえた気がした。聞き返そうとしたものの呼吸がうまくできないからか頭がクラクラする。口どころか指一本でさえ動かすことができなかった。
「さぁ、続きをしようか」
再び殿下の声が耳元で聞こえ、柔らかく暖かなものが耳たぶに触れた。もしかして殿下の唇だろうかと思っていると、再び尻たぶを熱いものに撫でられる。
(あぁ、これはきっと殿下の手に違いない)
ぼんやりとそう思い、なんとか目を開いた瞬間――。
「……っ!」
再び強烈な圧迫感に襲われて声にならない悲鳴が漏れた。熱く太く硬いものがグイグイと内臓を押し広げながらクチュ、ヌチャという粘度の高い音を立てる。
「ぅぁ……っ」
「……ふう、さっきよりも、もう少し奥まで入ったかな」
「ふぅ……。ふ、ふぅっ」
「ルナはこんなところまで物覚えがいいね。あぁ、泣かないで。意地悪をしているわけじゃないんだ」
頭を撫でられ、押しつけていた枕から少しだけ顔をずらす。すると濡れた目元を指で拭われるのがわかった。
「早くルナをわたしだけのものにしたい欲と、ようやくこの手に抱ける喜びで、どうにも興奮が抑えられそうにないんだ。ルナ、わたしの愛しいルナ……」
ぼんやりとした耳に聞こえてきたのは、初めて聞く高揚した殿下の声だった。それなのに、なぜか泣いているようにも聞こえる。
(どう、されたのだろう)
もしや本当に泣いていらっしゃるのかと気になったけれど、うつ伏せのわたしには確かめようがない。それどころか背後から殿下を受け入れている状態では振り返ることすら難しかった。
「さぁ、奥の奥までわたしのものになって」
「……!」
圧迫感がグウッと深い場所にまで入ってくる。何度か揺すられたあと、奥を抉るように何度も出し入れされた。そうしてさらに奥を開かれ、そのままどんどん奥へと進んでいく。
それはとんでもなく苦しいのに、なぜか別の感覚も混じっていた。苦しい中に少しずつ奇妙なものが入り込む。それを感じるたびに腰が震え怖くなる。閉じた瞼の裏が再びチカチカと瞬き、口からは意味のない音が漏れ続けた。
「ひ、ぁ、ぁぅ、ぅ、ふ、ぅ……!」
「そう、そのまま身を委ねて……。あぁ、ルナの中はとても気持ちがいいね……」
「うぁ……っ!」
「ルナ、わたしのルナ、ようやくだ。なんて長かったんだろう。十年以上も待つことになるとは思わなかった。しかし、これでルナはわたしのものになった。未来永劫きみはわたしだけのものだ」
「ふぁ、ぁ……っ! や、もぅ、やぁ……!」
「誰にも渡さないし、わたし以外の誰にも触れさせない。ルナ、エルニース、わたしだけのエルニース」
「ぁ、あ――――!」
内臓が迫り上がるような圧迫感のあと、これまで感じたことのない感覚に襲われた。まるで大量の潤滑剤を奥に注がれているような、それを内臓に擦りつけられているような違和感にも近い。
そのまま奥のほうを熱いもので何度もグッグッと開かれ続けた。頭の奥がチカチカと明滅するのを感じながら、わたしの意識はそのまますうっと遠のいていった。
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