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その後 殿下への贈り物はどうなったのか
昨日届いた衣装は、思った以上に体にぴったりとしたものだった。男の自分が身につけるにはあまりに恥ずかしく、ギリギリまで悩みに悩んだ。それでもこうして着ているのは、もしかして殿下が喜んでくださるかもしれないと思ったからだ。
「……本当に、喜んでくださるだろうか」
チラッと鏡を見ては、慌てて視線を逸らす。それをもう何度くり返しているだろう。
(少しは落ち着かないと……)
キルトが用意してくれた薄黄色の果実酒をひと口飲む。初心者向けだとキルトは言っていたけれど、初めてお酒を口にするわたしには刺激が強すぎて少しむせてしまった。
(……全部、飲んでしまおう)
三口ほど残っていた果実酒を飲み干すと、喉の奥がカッとした。
「殿下がいらっしゃるまで、あと少し時間があるかな……」
準備はすべて終わっている。いつもなら本を読んで過ごすのだけれど、今夜はそんな気分になれそうもない。
(……あと一杯飲んでおこう)
そうでもしなければ、どうにも落ち着けそうになかった。
「……っ、こほ、ごほっ」
二杯目は最初から一気に飲み干したからか、先ほどよりむせて胸がカッカと熱くなったような気がする。鼻の奥には、ほのかな柑橘系の香りが熱を持って漂っていた。
(……あれ? グラスがぼやけているような……)
テーブルに置いたグラスが二重……いや、三重に重なって見える。それに、なんだか気持ちがふわふわしてきた。妙に楽しくなってきて、ソファに座った足をブラブラと揺らしてみる。
「あはは、蝶々が飛んでいるみたいだ」
薄いレースの生地が足にまとわりついて、それがヒラヒラ舞う黒い蝶のように見えた。ますます楽しくなってきたわたしは、ブラブラ、ブラブラと両足を動かし続けた。
コンコン。
ドアを叩く音がした。きっと殿下がいらっしゃったのだ。
「はぁい」
返事をしたら、なんだか子どものような声になってしまった。間延びしてしまった声がおもしろくて「あははは」と声に出して笑う。何が楽しいのか自分でもよくわからないけれど、とにかく楽しくて仕方がない。それは立ち上がっても変わることはなく、「あはは」「うふふ」と笑いながらドアを開けた。
「うーん、これはまた見事に酔っ払っているね」
「酔っ払い? どこに酔っ払いがいるんですか?」
さっきから殿下は「困ったね」とか「どうしようかな」とか、そんなことばかりおっしゃっている。それがつまらなくて、ソファに座った殿下の膝に跨がりペタンと腰を下ろした。ほら、これなら殿下の目にはわたししか映らないし、わたしも殿下の顔をしっかり見ることができる。
「おや、今夜のルナは積極的だ」
「こういうのは、お嫌いですか?」
「とんでもない。どんなルナも大好きだよ」
「あはは、わたしも殿下のことが大好きです」
殿下に大好きと言われて嬉しくなった。あまりに嬉しくてギュウッと首に抱きついたら、「酔ったルナも可愛いね」と頭を撫でてくださる。
(うん? 酔った? 誰が酔っ払っているのだろう?)
酔っ払っているのが誰かはわからないけれど、殿下に頭を撫でてもらうのは嬉しい。
「さて、ルナが酔っ払っているのはそこにある果実酒のせいだとして、この夜着はどうしたのかな?」
「これですか? これは、殿下への贈り物です」
「贈り物? わたしへの?」
「はい」
抱きついていた首から腕を離し、自分が着ている夜着を見た。
黒いレースで作られた夜着は、細い肩紐のドレスのようにも見える。生地が薄いから、素肌に直接着るとところどころ透けてしまうのだけれど、それがいいのだとキルトが言っていた。
裾は足首くらいまであるのに、太ももの付け根近くから両脇に切れ目が入っているのも夜着としては変わった点だった。そのせいで、殿下の膝の上に座っていると太ももが随分と見えてしまう。さすがにみっともないと思って両手で何度か生地を引っ張ってみたものの、うまく隠れそうにない。
(……まぁ夜着だし、気にする必要もないか)
「さては、ハリスかキルトの入れ知恵だな」
「ええと、ハリスとサリウスに聞いて、それからキルトに相談しました」
いろいろ一人で考えてみたものの、結局よい贈り物は思いつかなかった。そこでキルトに相談したところ、この夜着を勧められたのだ。
「なるほど、キルトらしい提案だ。真面目なサリウスは仰天していただろうね」
「ふふ、はい。すごく驚いて、そのあとキルトを叱っていました」
「サリウスだから説教だけで済んだだろうけど、これがハーディンなら剣でお尻を叩いていたかもしれないな」
「お尻を叩くのですか?」
「そう。そのくらいは叱りそうだ」
「それは、もしかして兄弟喧嘩になっていたかもしれないということですか?」
「大丈夫、あの兄弟は仲がいいから、そのくらいで喧嘩になったりはしないよ」
そうだ、キルトたちは本当に仲が良い兄弟だ。サリウスがキルトを怒ったときも、最後は困った顔をしながらも許していた。
キルトたちも仲が良いとは思うけれど、殿下たちも仲が良いご兄弟だと思う。だって、弟殿下が婚約破棄したからといって、王太子である殿下がわざわざお詫びにいらっしゃるなんてあり得ないことだ。そのくらい殿下は、ハルトウィード殿下のことを心配されていたのだろう。
「殿下も、仲の良い兄弟だと思います」
「うん? わたしとハルトのこと?」
「はい、とても仲良しです」
そう答えれば、ふわりと笑った殿下がわたしの頬をふにふにと指で摘んだ。ふふ、なんだかくすぐったくて笑ってしまう。
「そうだね、王族の兄弟としては仲が良いほうかな」
「殿下のような兄上がいたら尊敬しますし、わたしも大好きになると思います。きっとハルトウィード殿下も、ウィラクリフ殿下のことを尊敬し敬愛されているのだと思います」
「敬愛されているかはわからないけれど、ハルトは小さい頃からよくわたしの後ろをついて回っていたな。そういえば、初めて口にした言葉も“にぃたま”だったか」
「あはは。小さい頃のハルトウィード殿下、お可愛らしいですね」
思わず笑ったわたしの下唇を、殿下の指がむにむにと揉み始めた。それもくすぐったくて、また「ふふふ」と笑ってしまう。
「そう、ハルトは小さい頃から可愛かったよ。わたしの言うことをよく聞き、わたしが教えたとおりのことをやってきた。年の離れた末の子だったから周囲に甘やかされはしたけれど、わたしが思うとおりの弟に育ってくれたかな」
「殿下も、ハルトウィード殿下のことがお好きなんですね」
「そうだね、嫌いではないよ。……それに、馬鹿な子ほど可愛いと言うし」
殿下の指が唇を少し押して、それからヌッと口の中に入ってきた。その指先がわたしの舌をフニフニと揉むように撫でている。それがくすぐったくて何度も舌で追い出そうとしたけれど、逆にどんどん奥へと入ってしまった。それじゃあと、お返しにチュウチュウ吸ってみることにした。
「おや、今夜は本当に積極的だ。これもお酒のせいかな」
「んちゅ、ん、」
お酒のせい? よくわからないけれど、さっきからずっと頭がふわふわしている。いろんなことが楽しくて、なんだかわくわくもしてきた。
殿下の指で舌をいじられるのも、なんだか楽しい。こんなことは初めてされたけれど、楽しくてチュウチュウ吸い続ける。
「パーティでは、お酒にも気をつけなければいけないね」
「んぅ、ちゅ、……ぅぁっ」
急に上顎をぞろりと指で撫でられ、おかしな声が出てしまった。上顎はキスのときに何度も殿下の舌に擦られてきたからか、指で擦られても背中がゾクゾクする。そのまま指の腹でスリスリ擦られているからか、下腹部がゾワゾワとしてきた。
「そろそろベッドへ行こうか」
「ん……っ」
最後に少し強く上顎を撫でられ、腰がヒクッと跳ねてしまった。
「さぁ膝から降りて。一人で立てるかな?」
「はい、立て、ます」
なんとか立つことはできたけれど、足が少し震えてしまう。
「……なるほど、これはたしかに……」
殿下のつぶやきが聞こえた。……わたしの全身を見ていらっしゃるようだけれど、どうしたのだろうか。
「絶妙な透け感と言い、両脇の切れ目と言い、たしかに素敵な贈り物だね」
「お気に召されましたか?」
「あぁ、とっても」
「よかった……!」
キルトは「絶対に喜ばれますって!」と自信たっぷりに言っていたけれど、本当かどうか少し疑っていた。だって、こんな破廉恥にも見える夜着なんて、殿下がご不快に思われるんじゃないかと心配だったのだ。でも、喜んでもらえたなら嬉しい。
そう思ってホッとしていたら、太ももに温かな感触を感じてびっくりした。
「っ」
「なるほど、この位置からの切れ目なら、……こうしてちょうどよく手が入る」
下を見ると、殿下の手が切れ目から中へと入っている。慌てて殿下の手を止めようとしたけれど、するりと内側に入ってきて間に合わなかった。
「ひゃっ!?」
「おや……、下着は着けていないんだね」
「キルトが、こういうのは、着けないほうがいい、って、ぁふっ」
「たしかにそうだね。すぐに滑らかな肌を楽しめるし、……愛らしいここにも、すぐに指で触れることができる」
「あの、殿下、」
気のせいでなければ、殿下の手が尻たぶを揉んでいるような……。
「殿下じゃないだろう? ほら」
「ウィルさ、ま、ぁ……っ!」
尻たぶに触れていた手が少し動き、奥まったところを撫でられた。
「ルナのここは、今夜も物欲しそうにしているね。…………あぁ、しかもすでに中が濡れている」
指先が少し入ったからか、クチュンと濡れた音が聞こえる。
「あの、今夜は、最後まで準備、しておいたほうが、いいって、ふ、ぅ!」
「そうだね、興奮していろいろ手順を飛ばしてしまいそうだから、それは当たっていたかな」
「あ、ふ、ぅんっ」
「いつもよりずっと柔らかい……。準備だけでは、こうはならない。ということは、自分でここをいじった?」
「ん、んっ、潤滑、ざぃ、入れるの、に……っ。張り型を、小さいの、つかっ、ひぁ!」
ビリビリと感じる部分を指で押されて、下腹がぞわっとした。
「なるほど。そういうことなら今回は大目に見よう。でも、今後は使わないでほしい。もうルナの中にわたし以外のものを入れたくないからね」
「はぃ、ぁ、ぁふ、ふ、」
「ほぐすのなら、自分の指を使うといい。そうだね、今度は自分でここを柔らかくする方法を教えてあげよう」
「ひぁ、ぁっ、あふっ!」
奥のほうまで指が入ってきた衝撃で、足の力が抜けてしまった。慌ててウィル様の首に両腕を回して抱きついたけれど、両足ともガクガク震えて立っていられなくなる。それでも倒れてはいけないと思い、ウィル様に縋りつくように体をくっつけた。
「あぁ、今夜は本当に積極的だね。こんなに必死に抱きついて」
「ふ、ふぁ、ぁ、あ!」
「ほら、支えてあげるから、少し左足を上げてみようか。うん、そう、わたしの腕に足をかけて、……そう、上手だ」
「や、倒れて、ぁぅっ!」
「大丈夫。……ほら、足を上げたから、ここも少し開いた。だから、ね……、指が簡単に中に入ってしまうよ」
一度抜けた指が、また中に入ってくるのがわかった。先ほどよりも太く感じるから、きっと二本……、違う、三本、かもしれない。
少し太いものが何度も出たり入ったりするだけで、下腹部が震えるほど気持ちいい。何度も何度もビリビリするところを擦られ続けると、気持ちよすぎて全身から力が抜けそうになった。
(駄目……これ以上は、立っていられない……!)
そう思ったとき、チュポンと音がして圧迫感が消えた。
「おっと、こちらも大変なことになっている。……あぁ、レースがぴたりと張りついて、これはたまらないな……」
左足を抱えられたまま、少しだけウィル様の体の熱が遠ざかった。
(……いやだ、もっと、くっついていたい)
離れたくなくてわずかに身をよじったとき、下半身に強烈なものを感じて全身がぶるりと大きく震えた。
「ひぅっ」
「レースの中が大変なことになっている。ほら……、擦ると音がするね……?」
ウィル様の言葉どおり、下半身からヌチャヌチャと滑った音が響いている。
「ひ、ひっ。ひぁ、あ、ぁあ!」
「なるほど、濡れたレースで擦られると気持ちがいいんだね? ふふ、これはいいことを知った。また一つ、ルナを喜ばせる方法が見つかったということだ」
「ひゃうっ。や、それ、やだ、ぃや、や、ぁ!」
「これはすごいな、こんなにドロドロにして……。あぁほら、しっかりわたしにつかまって」
「やぁっ。先、いじらな、で、ぇ!」
「こんなに乱れて、なんて美しくて愛らしいのだろうね」
囁き声のあと、耳たぶをカリ、と噛まれた。それだけで首筋がブルッと震え、仰け反りそうになる。それでもウィル様から離れたくなくて胸を突き出すようにくっつけると、今度は胸の尖りがレースと擦れて上半身に痺れるような感覚が走った。
体のあちこちがビリビリして、どうしていいのかわからなくなる。自分がきちんと立っているのかさえわからず、必死に目の前の体に抱きついた。そんなわたしの耳にはヌチョヌチョとした音が絶えず聞こえていて、それがますます気持ちを昂ぶらせた。そうして敏感な部分を濡れたレースで強く早く擦られ続けたわたしは、下腹部を貫いた強烈な感覚に我慢することもできず、思い切り吐き出していた。
「ぁ……ぁぁ……ぁ……」
体が何度もブルブルと震え、目の奥がチカチカと点滅する。抱え上げられたままの左足は感覚がなく、右足も爪先立ちのまま小刻みに震えていた。
(……すご、かった……)
ぼんやりとそんなことを思いながら、そうっと目を開く。いつの間にかウィル様の肩に額を押しつけて俯いていたわたしの目に、黒いレースと殿下の手が映った。
(ウィル様の手が……まだ……)
殿下の手は黒いレース越しに不浄のものに触れたままだった。レースは不浄のものにぴたりとくっつき、気のせいでなければうっすらと肌の色が見える。その場所をウィル様の手が、指が何度も触れ、音を立てるように擦り、またグチュグチュと音を立て……。
「ウィル、さま」
たまらずウィル様の名を口にした。不浄の場所に触れている手を止めたいのだけれど、うまく言葉にできず身をよじる。すると逆にウィル様の体に不浄の場所を擦りつけるような状態になってしまい、ますます体が熱くなった。
「ウィルさま、ウィル、さま、」
自分の声が、とてもいやらしいものに聞こえた。浅ましい声を聞かれたくないと思っているのに、ふわふわした頭では何をしようとしていたのか段々とわからなくなってくる。
「酔ったルナは危険だね」
「きけん……?」
「そう、あまりにも淫らで、嬉しいけれどとても心配になる。だからね、お酒はわたしがいるところでしか飲んではいけないよ? あぁ、この部屋でなら少しくらいは飲んでも構わないけれど、そのときは必ずわたしを呼ぶこと。いいね?」
頭も体もふわふわしていて、よくわからない。何かを恥ずかしいと感じていたはずなのに、それが何だったかもわからなくなる。
ただ、ウィル様が「いいね?」とおっしゃったのだから、返事をしなければということだけはわかった。
「はい」
「いい子だ。さて、わたしとしては続きをベッドでしたいのだけれど、ルナは?」
「つづき?」
「そう、もっと気持ちよくしてあげるよ?」
気持ちよくしてあげる、という言葉に、体の芯がカッと熱くなった。もう何度もしていることを思い出し、あらぬところがジンジンと疼いてくる。
「……したい、です」
わたしの頭は、ウィル様に気持ちよくしてほしいということで一杯になった。いまも気持ちいいけれど、もっと気持ちよくなれることを知っている体が、もっともっとと疼き始める。
(もっとキスをして……指ではなくて、ウィルさまの……)
指で擦られていた場所がキュウッと引き締まった。ここにもっと太くて熱いものを入れてほしくてたまらない。はじめは少し苦しいけれど、少しずつ押し広げられるのが気持ちいい。奥をトントンされるのは、もっと気持ちいい。そうして中を熱い液体で満たされるのは、もっと気持ちがよくて……。
「お腹が、じんじん、します……」
「ルナ?」
気がつくと、両足が床についていた。フラフラするのに立っていられるのは、ウィル様の手が腰を支えてくださっているからだ。ウィル様はどんなときも優しい……そう思ったら、ますますお腹がジンジンした。
「ここが、熱くてじんじん、するんです……」
両手で自分の下腹部をゆっくりと撫でる。
「だからここの中を、ウィルさまにたくさん、こすってほしいです」
頭のどこかで「そんな恥ずかしいことを言っては駄目だ」ともう一人のわたしが叫んでいた。その声を無視したわたしは、ふわふわした気持ちのままウィル様を見上げる。
(ウィル様が、笑っていらっしゃる……)
それはとても美しい笑顔で、心臓がドキンドキンと跳ね上がる。
「酔ったルナはとても素直だ。……しかし、これでは劇薬のようだな」
「げきやく……?」
「さすがのわたしも、理性を失いかねない」
どういうことかわからず首を傾げると、ウィル様の綺麗な顔が近づいて……キスをしてくださった。嬉しくて「ふふっ」と笑ったら、今度は頬や首にもキスをしてくださる。
「ウィルさま、だいすきです」
お礼にとわたしからもキスをすると、ウィル様がギュッと抱きしめてくださった。
・・・・
「ええと……」
目が覚めたら、ベッドの中だった。隣には殿下が寝ていらっしゃって、いつものように素肌の腰に殿下の腕の感触がある。ということは、昨夜も殿下とそういうことをしたということだ。
…………覚えていない。いや、殿下が部屋にいらっしゃったことは覚えている。たしか、話をして…………その後の記憶がまったくなかった。
(……何か、とんでもない粗相をしていなけばいいけれど……)
以前も途中から記憶がなかったり最後のほうを覚えていなかったりといったことはあったけれど、行為に及ぶ前から覚えていないのは初めてだ。
戸惑いながらも記憶をたどっていると、殿下の体が動いたことに気がついた。お目覚めになるのだろうと思いながら殿下の顔を見ていると、ゆっくりと開いた瞼の奥から優しい緑眼が現れる。
「殿下、あの……」
「おはよう、ルナ」
「……おはようございます」
いつもと変わらないふわりとした笑顔に、とんでもない粗相はしなかったに違いないと胸をなで下ろす。
「昨夜は、とても素敵な贈り物をありがとう」
「贈り物……あっ」
そうだった、昨夜はキルトに勧められた黒いレースの夜着を着て殿下をお待ちしていたのだ。
「あの、殿下、」
「ルナ」
「……ウィル様」
「すっかりいつものルナに戻ったようだね。あぁそうだ、頭は痛くないかい?」
「いえ、とくには……。あの、昨夜、わたしは何かしてしまったのでは……」
「昨夜のルナは、それはもう美しく可愛らしかったよ。それにいつも以上に淫らで、四度も中に出してしまった。お腹は苦しくない?」
「え……? って、……っ!」
言葉の意味がわかった瞬間、全身の血が逆流したかのようにカッと熱くなった。思わず下腹部に力が入ったせいか、何かがとろりと太ももを濡らしたような気がする。
「ウィル様……」
「たまにはあの夜着を着てほしいくらい、素敵な夜だった。あぁでも、お酒はしばらく駄目だからね?」
「お酒、ですか……?」
「そう、ごく軽い果実酒もやめておいたほうがいい。わたしと一緒にいるときに、少しずつ慣らしていこう」
「……はい」
何も粗相はしていないと思いたいけれど、本当は何かしてしまったのだ。それでも優しいウィル様だから、こうして言葉を選ばれて教えてくださっているに違いない。
「ルナ、勘違いしないで。酔ったきみは最高に素晴らしかった。それは間違いない。ただ、わたしの理性と体力の問題で……あぁいや、翌日が休みなら問題ないのだけれどね」
「はい……?」
よくはわからないけれど、ウィル様が楽しそうに笑っていらっしゃる。その笑顔に、わたしも笑顔になることができた。
その後、殿下はあの黒いレースと似たような夜着を五着も仕立てられた。なかにはいろいろ見えてしまうのではないかと思うほど裾の短いものもあったけれど、……いつか身につける日が来るのだろうかと思うと、少しだけ目眩のようなものを感じてしまった。
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