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 何事かと驚いて見れば、狐耳の少女がやっぱりくりんとした瞳を悪戯っ子のようにキラキラさせながら、オレと同じように赤黄色に染まった指でロカシの歩いて行った方をちょいちょいと指さしてみせる。  ぺたんと寝ていた赤い三角形の耳が、オレの視線が動いたのを感じ取ったせいかぴっと立ち上がり、ここからでもぴこぴこと動いてオレ達の会話に注意しているのを教えてくれた。  待ってくれてはいるんだろうけど、待ちきれない様に苦笑が漏れて……  一杯になった花籠をちょいと持ち上げてからお礼を言って、待ちきれずに今度は尻尾を振り出したロカシの方へと向かった。  作業中に邪魔だからと毛を押さえるために被っていたバンダナを脱ぐと、案の定どう扱っていいのか困ってしまうほどのふわふわの猫っ毛が現れる。 「可愛いくりくりだね」  ってロカシは笑いながらついた癖を直そうとしてくれるけど、少しもオレの言うとおりにならない髪が大嫌いだった。でもオレの髪を直しているロカシが嬉しそうにするから、もうそれならいっかってロカシにすべてを任せている。  手櫛で整えているロカシの尻尾が、心情を表すようにパタパタと跳ねるように揺れた。  獣の耳や尻尾は最初こそ怖かったけれど、テレビっ子だったせいもあって意外とすんなりと受け入れることが出来た。何よりその耳や尻尾の動きが、表情よりもさらに豊かに細かく感情を伝えてくれるから、嫌う理由なんてどこにもなくて、むしろオレとしては好ましくてしかたがない。 「はい!直ったよ!さ、帰ろうか」 「うん、…………でも、良かったのかなぁ、今年は花付きが良くて皆大忙しなのに……」 「大丈夫。忙しいって言うのは嬉しい話だよね。今年は特に豊作みたいで安心したよ、このまま平和にいってくれると油も沢山採れそうだなぁ」  去年はよくわからなかったけれど、今年の花の付きは確かに去年よりも素晴らしく色も濃い。  うんうん って頷くオレの足に、ぱたんぱたんとロカシのふっくらとした赤い尻尾がぶつかって柔らかな音を立てる。オレの傍にいる時はだいたいこんな感じで、嬉しくて嬉しくてつい左右に振れてしまうのだと知っているから、いつもくすぐったい気持ちになってしまう。 「これも巫女様がゴトゥスの浄化をして下さったおかげかなぁ」 「  っ」  ロカシに悪気がないのはわかっている。  だってオレは自分の素性を教えてはいないんだから……でも、さっき会いたいなって思った心にはその言葉がチクって刺さってしまって、つい足が止まってしまった。 「はるひ?」 「あっ  ううん、なんでもないんだ」  三か月ほど前、かすが兄さんは代々の巫女達が攻めあぐねていたらしい、この大陸の瘴気と魔物の元凶ではないかと言われている瘴気と魔物で凝り固まったゴトゥス山脈一帯を浄化した。その出来事はその日の内に国の隅っこにまで話が駆け巡るほどの快挙で、比較的瘴気や魔物の被害の少ないこの領でも連日大騒ぎになるほどの朗報だった。

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