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 小さいのに抑えきれないほどの力強さに弾かれて、おくるみがはだけて小さな三角の耳がひょこりと顔を覗かせた。 「────っ」  赤い、赤い、ラフィオの花のような赤黄色の毛の耳が、静かになってしまった周囲を警戒するようにぴこぴこと動く。  その動きは、いつもなら可愛いと言っていられるものなのに…… 「この、子供は……」  大きく見開かれた目が動揺に震えて腕の中の赤ん坊を凝視する。 「  その子はっ!」  がたん と開いたままだった扉にロカシが縋りつき、必死に立ち上がろうとしているのが見えた。 「……その子は僕の、ロカシ・テリオドスの子です、ですので……乱暴は止めてください」  青い顔で腹を押さえてはいるが血が出ている様子はないので、ほっと胸を撫で下ろす。  安堵したオレをよそに、クレドはさっとロカシを振り返ってから再びオレの腕の中に視線を落として、何かを言おうとしたのか一瞬口を開こうとしてやめてしまう。黙っていると険しくて気難しそうに見える顔が更に怖くなり、天上人だったとは欠片も思わせないような雰囲気になり、あの重そうな長剣を振り上げられるのではないかと思わせる程度には、恐怖を抱かせた。  背中に視線を感じて気まずく思いながらも、腕の中から聞こえる泣き声に後押しされるようにそろりと前開けのシャツのボタンに手をかける。 「あの……逃げも隠れもしないんで、向こうに……」  クラドに背を向けているとは言え目の前で子供に乳を与えなければならないなんて、これ以上ない恥ずかしさに顔が熱くなって目が回りそうだった。  なのにクラドはなかなか返事を返してくれなくて、代わりに腕の中の赤ん坊……ヒロがバシバシと力一杯腕を振り回して乳をせがみ始める。 「あっ!あっ! ぁーんっ‼︎」  一際大きく声を上げたせいか、キッチンに続く扉の向こうからマテルの心配そうに問いかける声が聞こえて、 「  はるひさん⁉︎どうしました? また何か……」 「だ、大丈夫です!」  震えた声から真っ青なんだろうなって顔色を想像してしまって、慌ててそう返した。  オレの腕の中のヒロを見て動かなくなったクラドと、大声で泣き続けるヒロを抱き締めたオレの間に入ってとりなしてくれたのはマテルで、震えながらも気丈にしゃんと背筋を伸ばしてクラドにヒロが怯えていること、腹を空かしていること、それからクラドの行動がどれほど非常識であるかを咎めてくれた。  少しふくよかとは言え小柄な狐獣人の彼女が、明らかに武芸に秀でているとわかる大男の前に立つのは、どれほどの勇気が必要だったのか……  尋ねても笑い飛ばされるだけかもしれないけれど、どうしてそんなことが出来る勇気があるのか、聞いてみたい気もする。 「…………」  これ以上、まごまごしていても仕方がない と、シャツのボタンを幾つか外して肩の方へと襟を大きくずらす。

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