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 ヒロの泣き声を聞いたからなのかオレの飾り気も何もなかった平らな胸の尖りから、白い雫がぷくりと膨れ上げる。それが匂うのかヒロははっとした表情をしてからふんふんと匂いを嗅ぐ動作をして、なんの迷いもなく小さな乳首に吸い付いてくる。 「ん ぅ  」  必死に食らいつく様子は、いつもの授乳時間に乳を貰えなかったためにどれだけ飢えているか教えるのには十分だった。  ふっくらとしたほっぺたが必死に動いて、じくじくとした痛みとも痺れとも違う熱い感触に刺激されると、もう片方の乳首からも雫が垂れてくるのだから、男の体なのに不思議だな って思う。 「わっタオル……タオル……」  急いで胸を押さえるためのタオルを探すけれど、クラドとのことで用意するのを忘れたらしい。シャツが濡れてしまうのを覚悟しなきゃ と諦めて、タオルを探す手を引っ込めようとした時、滑らかな布が指先に触れた。 「これで代わりになるか?」 「  っ」  風を避けるために喉に巻かれていたスカーフは、市民の使う物ならばどうってことない布だったけれど、クラドの使っている物はその地位に見合うだけの質の良い物で……ロカシのハンカチ以上に汚すのが躊躇われる物だ。  急いで首を振るも、オレの手にスカーフを押し付けて離れて行ったクラドにそれを返すことが出来ず、申し訳なく思いながらもそれを胸に当てた。まだ微かに残っているように感じられるクラドの体温と、それから……感じてはいけないのだけれど、鼻をくすぐる彼の匂いを自然と追いかけてしまう。  外の匂いと、焚き締めた香の匂いと、クラド自身の匂い。  懐かしい、匂い…… 「……本当に、お前の子なのか」  ざり とクラドの靴裏が床をする音がして、オレの答えを待っているようだったから何も言わずに頷いた。  元の世界に居た時、オレはまだ小さかったけど赤ちゃんに乳を飲ませるのはお母さんだと言うことは理解していたし、お父さんは赤ちゃんを産まないって言うのもなんとなくだけど理解していたのだけれど、その理解がひっくり返されたのはこちらに馴染む間もないほど早々で、かすが兄さんが国王の妻にと請われて兄弟そろってパニックになった時だった。  あわあわとしながら男は妻にはなれない!って言い返すかすが兄さんに、宰相である鳥の獣人のエル・ラキウスが懇切丁寧に説明してくれたことによると、代々召喚された神の使徒である巫女は王家に嫁ぐのが慣習である と。  そして、異界から渡って来た使徒には男女関係なく子を孕むことができるのだ と。 「……まだ、体を休めておかなければならないだろうに、どうして外にいた?」 「どうして て……働きに…………っ」

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