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 背後のクラドの気配が刺々しい物に変わったのは、気配がわかるとか言う武術の達人じゃなくてもはっきり感じられるほどだった。 「産んだばかりで?」  産んだばかり と言ってももう三か月経っている。  元の世界ではどうか知らないけれど、こちらの世界では普通に働き出してもおかしくない時期だし、仕事も早朝のほんのわずかな間だけの花摘み作業だ。それでも生活して行けるのはロカシのお陰だし、働いている間はマテルが付いていてくれるから安心できる、シングルマザーとしてはいい生活環境だと思う。 「だって、働かなきゃ」 「はた  ⁉︎あの狐はどうした⁉︎」  テリオドス領は狐獣人が多い とは言え、クラドの言っているのはロカシのことだろう。 「ここは忌屋でもないだろう!どうしてこんな小屋に住んでいるんだ⁉︎」   忌屋は、出産の時に少しだけ入った記憶がある。  出産する人や血の穢れのある人が籠るための場所で……素直に感想を言ってしまうならば間に合わせに建てたような掘っ立て小屋だった。  そんな忌屋よりは随分とマシだけれど、宮殿から見ればどちらも大差ないんだろうってことはわかる。 「こんなって……オレは気に入ってるんですけど……」  絢爛豪華でどこもかしこもツヤツヤピカピカしていた王宮から比べたら、ここは確かに『こんな』だけれど、こじんまりとして素朴な味わいのある家で住んでいて居心地がいい。  ただ、クラドからしたら狭くて簡素で古い家と言う感想なんだろう。 「どうして  」  クラドはその先の言葉を言いにくそうにぐっと声を潜めるような気配をみせる。 「 ──── 嫡子の子を産んだお前がこんな扱いを受けている⁉︎」  んく んく と力強く乳を飲むヒロを見下ろすと、可愛らしい赤い三角耳がそれにつれてぴこぴこと震えているのが見えた。やっと生え揃って来た髪も同じ色味の赤色で、ロカシの髪色によく似ていた。  ふっくらとした頬の顔は……どうかな?マテルはオレに似ていると言う。  そして、黒い瞳はオレ譲りだって…… 「お前の立場を考えればこんな  っ」  偉業を成し遂げた男巫女の弟?  王様の義理の弟?  でもオレには、なんの力もない。  キラキラとした粒を纏ったような神様の力も、人を惹きつけるような魅力も、それに……誠実さも。 「   指の怪我は仕事でか?」  背後に温もりを感じた時にはもう遅くて、クラドの指がオレの手を取る。 「あっ 」  胸を押さえていた手を引っ張られたせいでスカーフがふわりとヒロの上に落ち、隠す物の無くなった平らで飾り気のない胸が空気に触れた。

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