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「い やだっ!」 「手を離してください!」    引きずってでもオレを連れて行こうとするクラドに全身で拒絶を示すけれど受け入れては貰えず、ロカシもオレを助けるようにクラドに飛び掛かってくれはするが、鍛え上げられた体が細いロカシの力でどうにかなるはずもなく、いなされて壁にぶつかるようにして倒れ込むだけだった。 「  どうして!はるひを連れて行くんですか!」 「言う必要はないし、関係もないだろう」 「そうだ、私達の関わってはいけないことも世の中にはあるんだから……」  王籍から抜けたとは言え王の弟でもあるクレドに、これ以上の無礼を働けばどうなるのかオレでもわかることだったし、この機会に息子が入れ込んでいる身元のわからない異邦人が消えてくれれば幸いとの考えもあったのだと思う。  テガはロカシを羽交い絞めにしながらなんとか説得を試みようとしていたけれど、その行為がますますロカシを煽り立てたのかもしれない、クレドを睨む瞳に力を込めて大きな声を出す。 「関係なくないっ!はるひが今抱いているのは僕の子供だからっ!」  そう叫ぶとテガが苦そうな顔を見せた。  クラドも奥歯を噛み締めて固い表情をすると、熱を感じさせない目でオレの腕の中に視線を落とす。  その先にあるのは赤い三角耳を微かに揺らしながら、こんな状況なのに健やかに眠っているヒロだ。 「お前はっ まだそんな馬鹿なことを  」 「その子は!僕の子で将来の後継ぎです!ですのでっはるひを連れて行かせませんっ!」  父の腕を振り払い、そう言うとロカシは無理矢理オレとクラドの間に割り込み、しっかりとした意思の強そうな目でクラドを睨み上げた。  興奮しているからか逆立つ赤毛が炎のように鮮やかで、ラフィオの花畑を思わせる。 「──まだ首も座っていない時期なら逆に幸いだろう」  岩でも叩いたのかと思わせるような抑揚のない硬質な声で言われた言葉の意味を掬いそびれて、オレはぽかんと表情のないクラドの顔を見上げた。 「な に  」 「そちらで引き取るならば置いて行く。その気がないならはるひ同様、そんな赤子はいなかったとすればいい」  何を言われているのか、やっぱりその言葉の意味がわからず、幾ら頭の中で反芻してみても理解できないままだ。 「……なん なんでそんな、こと」  ふる と理解の前に体が震えた。  ────悪寒ではなく怒りに近い。 「子息殿はまだお若いようだ、まだ成婚もしていないのだろう」 「ええ、ええ!そうです!」  これ幸いとテガが身を乗り出す。  辺境伯の息子なのだから伴侶もそれ相応の身分のある家柄の者を……と言う考えが透けて見えて、ロカシはそんな父に怒りで釣り上げた目を向け、非難するように睨みつける。

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